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004 王都【アンドロメダ】

「先に動くのは私だし、アヴェロンはお友達ともうちょっとしゃべってたら?」


 作業に取り掛かろうと、工房に戻るアヴェロンの手を、シルフィールは掴んでそういった。

 その目は、慈悲深い。そもそも作業としても、最初にするべきことは設計であり、それにほとんどアヴェロンの魔導は関与しないのだ。


「そうか。……ありがとう」


 うなずき、彼はロザリオと店から出ていく。

 その後姿を見送って、シルフィールはルカに振り向いた。


「お店、お願いね」

「はいです!」


 心なしか、嬉しそうにも感じる。

 彼女はルカの頭をそっと撫でつけて、工房へ戻った。


「……ここにアヴェロン1人って言うのはよくあるけど、私1人って言うのは久しぶり」

 

 大切な人は別れるまでわからないものだ、とシルフィールは独り作業につきながら妙な寂しさに胸を痛める。

 しかし同時に、彼が帰ってきた時に喜んでもらえるよういいものを作ろうと決意した。


「うーん」


 魔紋獣器ビーゼスを作成する際、設計よりも先に考えることが一つある。

 モチーフにする動物を何にするか、だ。


 実際はもう一つ、どんな武器にするかというのがあるのだが、今回はすでに決まっている。

 顧客は剣豪である。ほかに何を想像しようというのだろう?


「でも、あの人の背中に担いでいたのは……」


 西に浸透する、剣だったとシルフィールは察した。

 つまり、切れ味優先ではなく相手を昏倒させればいいのである。


 【ゼファーヴェイン・ルカ】がある王都は東に位置する国の所属だ。

 東に大きく存在している「プトレマイオス」というのがそれであり、どちらかといえば魔法よりも科学が重視された国である。


 そのため、王都の上層部は最初のころ、2人が【魔紋獣器ビースト・アーゼス】を創る店を構えるといったとき、いい顔をしていなかったのだ。

 しかし、今となっては国を代表する有名どころなのだから、皮肉が利いているともいえよう。


「旅人さんだし、鳥がいいのかな」


 そういえば、アヴェロンも元々は旅人だったと、シルフィールは思い出した。

 アヴェロンと彼女が出会ったのは、ほんの偶然であり。


 だから、シルフィールが異世界からの転移者であることを知っているのは、今のところアヴェロンだけなのである。

 それに、アヴェロン自身も同じ境遇だったところを考えるに、2人が出会ったのは運命なのではないか、とシルフィールは考えていた。


 「運命」という言葉を多く使うシルフィールに対して、アヴェロンは「縁」という言葉を多く使う。

 それが、2人の性格をうまく体現しているのだ。


「確か、猛禽類の中には翼開長が5メートルを超えるような種別もあったはず」


 この地域には少ないが、大樹が空を覆い尽くしているほどの大森林になら確かにそのような種別は存在する。

 飛べば小枝程度なら風圧で折れていくような、強大な風を起こす種別だっているこの世界。


 だからこそ、【魔紋獣器ビーゼス】も自由に作れるのだ。








 王都【アンドロメダ】に入るなり、アヴェロンとロザリオの周りに人がいなくなったことを見て、アヴェロンは困ったように笑った。


「その威圧は、抑えた方がいいかもな」

「これ、制御できないのですよ」


 すでに10年間、苦労してきましたが。

 とロザリオも困り顔だ。幸い、機械にそれは通じないため、数人の機人が近寄っては来る。


 アヴェロンは、そんな旧友の姿を認めながら、頭を悩ませた。

 と、予備として持っていた護符を1枚取り出し、その場で加工を始めたではないか。


 彼の手から放たれる魔術の輝きは、突然とはいえ人々をあっと驚かし、魅了するには充分だった。


「パフォーマンス精神、すごいですね」

「まあ、この技術は晒しても仕方ないものだから」


 加工が終わり、周りから自然と拍手がこぼれ出るのを耳で感じながら、ロザリオは素直に彼を評価した。

 それに対して、あっけらかんと答えたアヴェロンは、護符を彼に押し付ける。


「取りあえず、威圧が外に漏れないようにしておいたから」

「……技術も上がったのですね」

「まあ、ね。なんとなくできたって感じだから、気にしなくてもいいよ」


 これのどこが「なんとなく」だ、とロザリオはあきれてしまう。

 この男、秘匿主義がすぎるのではないか。周りの人を誰も信用していないのではないかと何度も彼はアヴェロンを疑っているのだが、アヴェロン自身はいたって純粋である。


「また昔みたいに魔獣討伐に行きたいですね」

「そうかな。……俺は平和ボケが過ぎて、店さえあればいいと思ってるからな」


 だからこそ、とアヴェロンはまっすぐロザリオの左右違う色の目を見つめた。

 左が青で、右が赤。やはり神秘的な雰囲気を失わない幽玄な容姿だ、と男として少々の嫉妬を持ちながら、言葉をつづける。


「ロザリオの隣に女性がいたら、少しは変わるかもな」

「またそんなことを言う。ちゃんとした家庭のあるアヴェロンだからこそ、いえることですよ」


 え? と、アヴェロンは首を傾げた。

 それに続くように、ロザリオもきょとんとして首をかしげる。


「シルフィールさんという美人の妻がいて、ルカちゃんという娘もいる。幸せじゃないですか」

「シルフィールとは付き合ったことすらないし、ルカはシルフィールの設計で創った魔導機人だぞ?」




 ないない、と首を振るアヴェロンにロザリオが、シルフィールの気持ちもすぐに理解できたうえで全力で説得しにかかったのは、言うまでもない。


30pt達成、感謝です。

これからも楽しんでいただければ光栄です。

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