037 聖巫女と機巫女
「聖巫女様をそこで出されたら、勝てる人いないんじゃないかな」
聖巫女とは、その名の示すとおり、聖神殿の巫女だ。
世界で一番美しく、さらに気品にあふれたそれこそ、「完璧」な女性の象徴として「機巫女」の同類とされている。
神殿、というのはこの世界に100いくつか存在するが、その中でも頂点に達する神殿が二つある。
聖神殿と機神殿。聖神殿は魔法や魔導の神を奉っており、機神殿はその反対である科学や機械の神を奉っているのだ。
「でも、聖巫女様って、恋愛禁止とかあるんじゃない?」
「ない、と本人から聞いたことがある」
「本人!?」
まさか、聖巫女様とも知り合いなのだろうか、と心底アヴェロンを恐ろしく感じたイゾルデ。
そもそも聖神殿は東洋の【プトレマイオス】にはない。
西洋だ。世界一広く、「海」の名前を冠した湖の真ん中に存在する小さな島。
そこに存在する神殿に、世話係の巫女たちと共に住んでいる。
メディアがそこに侵入することは許可されていない。というより、強力な結界があって機械を始めボートも湖への侵入を許されないのだ。
島に向かうには、魔の力を使用するか、それとも泳いで向かうかしかできない。
「泳いでいったの?」
「まさか。魔導で水の上を歩いていったさ」
とある王の依頼でね、とアヴェロン。
依頼の内容は、本当に聖巫女が存在しているかという確認のものだった。
「機巫女様のところにも、今度入ってみようかな」
「機巫女様は、人なつっこいからどうかな、って思うけど」
科学の巫女の方は、聖巫女とは逆でよくメディアにでる。
それどころか、機神殿が王都の近くに存在するからか良く王都に出没するという。
逆に、アヴェロンはそちらに出会ったことが無かった。
「美しいのか?」
「その聞き方はどうかと思うけど。お忍びでここらに来ることも良くあるって聞いたことがある」
だからといって、機巫女に会おうとして王都を徘徊する人はいないだろう。
機神殿は一般公開されている。決まった時間に機巫女が出没する場所があり、そこに向かえばその姿を拝むことはできる。
実際に話をするには、やはり別の手段をかんがえなければならないのだが。
だから、とイゾルデはアヴェロンの方に振り向いた。
「行ってみよっか」
「ん?」
「機神殿に」
行動力はさすが。アヴェロンがそう彼女を評価すると、イゾルデは幸せそうに頬を赤らめたのであった。
「イゾルデとアヴェロン、今日は店を早めに畳んで機神殿に行くんだって」
携帯端末にメールが送られてきて、シルフィールはルカに内容を伝える。
ルカといえば、撮影、撮影、撮影だ。
彼女よりも、こういった収集の能力は高いため、すでに数十枚の写真をとっていた。
「ごめんね、ルカ」
「いえいえ、楽しいですよ。……ええと、機神殿ってなんでしたっけ」
「王都の近くにある神殿のひとつで、科学系の頂点」
「……とてもじゃないですが、魔紋技師と異名持ち魔法師の行くような場所じゃないですね」
むしろ、シルフィールやルカが参拝しにいく、というのなら納得できるような場所だろう。
だからこそ、そこまでぴんとこなかったのだ。
ということは、参拝目的ではない。そう考えることも可能だろう。
では、いったい何のために行くのか。それはルカにとって、かなりの謎であった。
「科学と魔導の融合」
「……確かに、それの成果を見せにっていうのはあり得るかも」
決して、アヴェロンとイゾルデの2人が、機巫女目的とは考えられない2人だった。
シルフィールは、ここで。
自分が、よく考えれば彼のことをまったくしらない事に気づく。
思った以上に、2人はお互いのことを知らない。
その事実に、彼女の心は大きく揺れた。




