035 それぞれの休日
「どこかいかない? アヴェロン」
「どこに行くって言うんだろうな。俺王都にいて何年もいるけど、そんなに周りを知らないぞ」
シルフィールとルカは魔獣園へ向かい。
工房に残ったのは、アヴェロンとイゾルデだ。
休みにしよう、とは言ったがアヴェロン自身、何も考えていなかった節もあり、実に気まずい雰囲気が二人の間を行ったり来たりしている。
「引きこもりですか?」
「俺もシルフィールも、生産中毒だからな。……つまり、そういうことだ」
外と関わっているよりは、どちらかと言えば屋内で静かに作業をしたい。
そんな思考の二人だったからこそ、最初のほうの生産は注文が少なかったとしても、多くのサンプルを創ることが出来たのだ。
「そういうのも悪くないと思うけどね? でも、外行かないと体こわしちゃうよ」
「……じゃあ、外行くか。……あまり案内できないけどいいかな」
「うん!」
イゾルデにとっては、アヴェロンと一緒に出かけるという行為自体が幸せの要因なのだから全く持ってそれでかまわなかった。
ただ、この状況で恋人同士ではないことが唯一の残念なポイントだろうか。
「恋人だったら、もう少し良かったかも」
「……ないな」
アヴェロンは、彼女の肢体をちらっと見て、こんな身体の女に性欲をわき立てられるほど俺も腐ってないな、と再確認する。
正直、同い年くらいの女性という感覚というか……彼女自身は先年生きたと主張しているが……どうみてもルカと同類にしか見えない。
「俺にも好みは、ある」
「……じゃあ、シルフィールだったらいいって事?」
「さぁな」
この前もこんな感じの話をしたような気がする、とアヴェロンは2ヶ月弱「ゼファーヴェイン・ルカ」に滞在していた剣豪の事を思い出す。
彼にはシルフィールをもっと大切にしろと言われた。
だが、やはりアヴェロンからは異性というより、ただの仕事の相方としかみることが出来ない。
誰かに恋をする、誰かを愛するというのは自分に弱点を作る行為だと彼の心の内で考えているからなのだろうか。
とにかく、アヴェロンはイゾルデの話を聞いても、いまいちぴんとこなかったのだ。
そのイゾルデからも好意を持たれていることは自覚できるが、だからといって何かほかの関係に変えようなどと彼は考えていない。
「これは、私はとんでもない人を好きになっちゃったみたい」
あーあ、とため息をつくイゾルデに、アヴェロンはどう返事を返していいのか分からない。
自分の事を行っているのだろうというのは分かるが、その次に切り出せないのだ。
アヴェロンは、そんな自分を客観的に見つめて。
それなら、ちゃんとロザリオに恋をしているルカの方が人間らしいな、と自虐的な笑みを浮かべる。
「とりあえず、外歩くんでしょう?」
「主要区と外周、どっちがいい」
「主要区かな。事務的な事をしにしか行ったことがないから、よく観光できなかったし」
今日2回目の主要区か、とアヴェロンはアラガスの事を考えた。
あのビルには、行った方が良さそう。
「さて、出かける準備をしますか」
「はーい」
「こういうところに行くの、初めてです」
「そうだっけ。……まあいいや、早く行きましょう」
王都を出て、車でさらに30分ほど走らせたところに、それはあった。
動物園ならぬ魔獣園、その実体は巨大な自然公園である。
装甲した特別な車両で、その中を練り歩くような形が一般的だ。
ちなみに、魔獣園の中で狩りをするのはもちろん、禁止されている。
「今まで獲物としか見ていませんでしたから、観賞用としてみるのは初めてのような気がします」
「……もしかしてルカ、あなた野良猫とかも……」
「ややや! さすがにそれは違います、けど」
それにしても、種類が沢山あるのですねとルカは慌てて話題を逸らした。
魔獣は敵、そう考えていたルカは確かに、猫型のそれこそ愛玩用に養殖されている個体を殺しかけたことがある。
そのときにシルフィールはおらず、アヴェロンが慌てて止めたため惨事にはならなかったものの。
「なんだか、難しいです」
「結局、どうするかも決めてないしね」
「何がです?」
「アヴェロンに、生命を正式に吹き込んで貰うか」
とくん、とルカの心で何かが揺れた気がした。




