029 それぞれのNEXT
「ロザリオさん」
ルカの気持ちは、大きく落ち込んでいた。
夢を見るように天を仰いでは、はぁと気落ちしたようにため息を付いてうつむく。
そんな状況では仕事に集中できるわけもなく、代わりにイゾルデあsっ客をしているのだ。
「その、なんか……申し訳ない」
「急に魔紋獣器が出来上がるなんて。……まだロザリオさんとお話したかったこと、たくさんあったのに」
アヴェロンに八つ当たりしても、それがどうにもならないことはよくわかっている。
だが、それにしてもココロが落ち着かないのだ。
「連絡先も、交換できなかった」
「持ってないぞ、携帯」
「ぐぬぬ」
まあ、相手の魔紋獣器があれば携帯代わりにもなるのだが、とアヴェロンは考えていたが、それを決して口に出すことはなかった。
それでは旅の意味がなくなってしまう。そういうことの意味がアヴェロンにはよくわかっている。
こうやって、ルカがロザリオのことを思っているように、ロザリオもルカのことを同じくらい思っているのなら。
再び邂逅したとき、その結果というのは確かなものとして現れるからだ。
「久しぶりに、俺が店の方をするか」
「1人じゃ人手がたりないよー」
1日に来客するが2桁を越せばいいほうのここ「ゼファーヴェイン・ルカ」も、今日は人が多い。
魔紋獣器のふれあいを、店内に常時展開したからだろうか、とアヴェロンには心当たりがあって。
「質問はこっちで受け付けるから、イゾルデはふれあいの方を頼んでもいいかな」
「はい、分かったー!」
ぱたぱたと店の道路側、窓の直ぐ側にあるふれあい区域で待ち望んでいるだろう
子どもたちの方に向かう彼女を見つめたあと、安倍ロンはカウンターに立つ。
「おっす」
そんな彼に声をかけたのは、フルルだった。
「暇人か?」
「平日は夜仕事の昼休み。休日は1日中」
つまり、今は暇人ということだな。
アヴェロンは自分勝手にもそう断定し、フルルの視線の先を追った。
その先は、イゾルデだ。
「俺は諦めようかな」
「何を?」
「イゾルデちゃんの勧誘。もし仕事がなかったら来てもいいっていったんだよ」
でも、ここにいたほうが安全だし、幸せそうだなとフルルは言葉を続ける。
自分よりも、アヴェロンと一緒にいたほうが安全だということは彼自身がよく知っている。
だからこそ、諦めることを選んだのだ。
「そうそう、さっき王子様が店の窓に張り付いていたぞ? ルカちゃんがいないことを確認したらどこかに行っちゃったけど」
ヒュリオンは、ルカを諦めていなかったようだ。
『あのような別れ方でよかったのでしょうか、ご主人様』
「いいんですよアレで。それよりも、ロザリオでお願いします」
『ではロゼで。私の口から貴方の本名を申し上げるわけには行きません』
王都から2街ほど離れた場所に、剣豪は1匹の魔紋獣器と歩いていた。
不死鳥型魔紋獣器、《§α¢Яa》はその美しい双翼を羽ばたかせて宙に浮かんでいた。
『ルカという少女は、あのままでよかったのですか? 思いを伝えなくてもいいのでしょうか』
「いいんですよ、アレで。1年後、会いに行きますから。」
ロザリオは、一度だけ王都の方向を振り返る。
そして首を元の方向に戻すと、次の目的地へ旅だった。
というわけで、第1章が終わりました。
次回話は1章のまとめ、その次に小話を何回か更新して次の章へ行きます。




