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028 《§α¢Яa(サクラ)》

創造者アドミニストレータ様。ただいま正常に起動を確認いたしました』


 第1の発声は、事務的な報告であった。

 アヴェロンの設定したとおり、発声は人間と何ら遜色ない自然な話し方であるため、ロザリオはまず面食らう。

 それが生きているように感じられたのだ。実際それは生きているのだが、機械である前提だというのに、友人の作った魔紋獣器ビーゼスは、それを確かに覆している。


「これが……」

『次の工程といたしまして、主人マスターの登録を致します』


 感動冷めやらぬうちに、しかし次の段階へと事は進む。

 アヴェロンがロザリオを見つめ、魔紋獣器に近づくよう支持する。


「手のひらを上に向けて、目の前に近づくんだ」

「は、はい」


 美しい、それ以上に神々しくも恐ろしい雰囲気を常に周りへ発散している。

 近づくことすら、少々躊躇われるものだ。


『貴方が私のご主人マスターですか?』


 普通にコミュニケーションを取ることくらいできる、とアヴェロンが説明する。

 魔紋獣器は起動した瞬間からある程度の成長を操作されている。

 一緒に成長していくのも悪くないが、時間が思う以上にかかった前例があるため、即戦力にするためにはこれしかないのだ。


 ロザリオは不死鳥型魔紋獣器にうなずき、ソレは確かに頷いた。

 

『登録が完了いたしました。次に名前を教えていただけますか?』

「これ、私が決めてもいいんですよね?」


 アヴェロンは頷いた。

 《アインクイーア》は保留され、今回は珍しくクライアントであるロザリオがなづけをすることになったのだ。


 最も、名付けなんてしたことのないアヴェロンはルカと一緒につけたのだが。

 ルカはシルフィールの名付け方を気に入っているため、暗号である。


「では、《§α¢Яaサクラ》で」

「サクラ?」


 その言葉を聞いて、アヴェロンはプトレマイオスに生えている植物を思い出した。

 花の、その独特の色から「サクラ色」というピンクの仲間も存在するほど、世界的にも美しいとされている花だ。


 春になれば咲き、その光景は咲いている場所が観光名所になるほどのものでもある。


「はい。西洋では、『聖なる』という意味もあるらしいので」


 発音は違いますが、とロザリオはそう言って目の前の不死鳥フェニックスに開き直った。

 聖なる不死鳥という意味だろうか、確かにアヴェロンの考え方もきちんと継承しているらしい。


「よろしくお願いします、サクラ」

『承認いたしました。よろしくお願いします。マスター:ロザリオ様』


 これで、ロザリオがここにいる意味はなくなってしまう。


 アヴェロンは、確実に寂しくなるだろうなと感じながらロザリオが《§α¢Яaサクラ》を連れて上階に向かうのを見届けた。




「お世話になりました。またよろしくお願い致します」


 剣豪の荷物は少ない。

 どのくらい少ないかといえば、バッグは小さいものがひとつある程度であり、ほかに大きな荷物といえば剣くらいしかない。


「ああ、アヴェロン」


 ロザリオは、その剣をアヴェロンの手に載せた。

 重量は1人分ほどあるだろう、すくなくともルカよりも重量はある。


「これ、預けておきます」

「うん?」

「1年後、私が戻ってこなかったら廃棄してください」


 その言葉に、ルカが泣きそうな顔をするがロザリオの顔は穏やかだ。

 あの時、イゾルデからもらった薬を飲んでいたら、今頃ルカはとんでもないことになっていただろう。

 イゾルデはこころから、あの時結果を先延ばしにしてよかったと今思った。


「では、また1年後会いましょう」

『では』


 さようならは言わない、剣豪の別れに、その言葉はいつもない。

 アヴェロンはソレを知っていたから何も言わなかったし、ルカもその意味はわかっていた。


 だからこそ、何も言い出せない。

 でも、まだ不完全なはずの「ココロ」に、ルカはなにか引っ掛かりを持っていた。

 それを口にだすのは、あまりにも嫌な予感がしたから。


「イゾルデは、どうするつもりで?」

「まだ決まってないけど。……ここにいるんじゃないかな」


 そうですか、とロザリオはもう一度笑った。

 踵を返し、《§α¢Яaサクラ》とともに王都の門へ向かう。



 剣豪が振り向くことは、なかった。


「……行っちゃいました」


 寂しそうな顔をするルカに、ロザリオは何も言わない。



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