027 生命吹き込み
次こそ完璧だ。アヴェロンは確信して出来上がった魔紋獣器を掲げた。
ロザリオのために作ったそれは、金と紅を基調とした大剣。
さやと剣が、彼のよく作る一体型になっている。
「あら、できたの?」
ガッツポーズするようにしてそれを掲げたアヴェロンを見て、近寄ってきたのはシルフィールだった。
イゾルデはロザリオ・ルカとともに店のほうで接客をしている。
なので、いつもどおり工房には2人しかいなかった。
「できた。完璧だよありがとう」
本当はまだ命を吹き込む作業を終わらせていないのだが。
しかし、新しい高層になってからも何度となくロザリオと相談し、3人で作ってきた作品の表向きができたことに対して、アヴェロンは確かな喜びを感じている。
だからこそ、シルフィールへの感謝も忘れない。
「ロザリオを呼んできてくれないか?」
「はぁい!」
店の方にシルフィールが去って行き、入れ違いのようにしてロザリオが入ってくる。
外見が出来上がったそれをみて、彼の眼はキラキラと輝いていた。
「美しい」
思わず漏れでたその言葉に、アヴェロンはニヤリと笑う。
クライアントが喜ぶ顔が一番、やはり技師にとっては嬉しい事であるのだ。
「とりあえず、不死鳥型魔紋獣器にしてみたんだがどうかな」
「不満はないですよ。というよりすごく、複雑になっていませんか?」
「部品を4倍ほど多くしないと、全然重くならないんだ」
「申し訳ない」
ばつの悪そうな顔をするロザリオに、気にするなと魔紋技師であるアヴェロンは首を振った。
そして、次の工程に入るため彼に問いかける。
「性格はどんな感じが良い」
もちろん、この魔紋獣器の性格についてである。
「特に、要求はありませんよ」
でも、高貴な存在といえばやはり女性形のほうがいいんだろうか、とアヴェロンはいらぬ考えを起こした。
ロザリオは幽玄な美貌を持つ男性だ。美しい男には美しいものが相応するというものであり、だからこそ彼は考えを決める。
「次はいつ来るんだ」
「そうですね、今回は1年くらいで」
「ルカが気になる?」
「はい」
迷いなく即答したロザリオの顔は、覚悟を決めたような顔をしている。
相手が機械人間であっても、ルカに情が移ってしまったのだろう。
アヴェロンは彼の気持ちを汲み取った上で、彼に手を差し出した。
「久しぶりだったが、君と長く一緒にいられてよかったよ」
「私もですよアヴェロン。とてもいい経験をしました」
さて、最後の作業である。
機械に生命を吹き込む、その作業は神秘的でそして神々しいものだ。
大剣を専用の作業台……むしろ儀式の舞台にちかいそれに設置すると、セットした魔紋獣器の上に両手をかざした。
手のひらから滴るように虹色の、確かに可視化された魔導という存在が大剣に浴びせられた。
最初の数秒は、ただ虹色の液体のような、魔導が少しずつ舞台に広がるだけだったが。しばらくすると変化があらわれた。
ぴくん、と機械的でない動きをしたのだ。
生命の目覚め、生まれたての生物のような動きで、しかしそれは徐々に動きがスムーズになっていく。
大剣はすこしずつ、段階的に動き出すと【獣形態】へと変形していく。
その姿は、機会がまた他の何かへ進化するような独特な美しさを感じる。
シルフィールの大好きな光景の一つでもあったそれは、生命の神秘を覗きこんだような、不思議な感覚がしていた。
虹色の魔導が剣の柄、首の部分へ集結し、不死鳥が中へ羽ばたいたところで、それは終了した。
「……さて、完成したな」




