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020 完全な生命

「またですか、イゾルデさん。……シルフィールさんに追い出されたんでしょう」


 イゾルデが王都はずれのここ、「ゼファーヴェイン・ルカ」に来てまだ3日しか経っていないのに。とルカは頭を悩ませた。

 この少女は、どうもアヴェロンに強い関心を寄せたようだ。

 少しでもシルフィールが眼をはなすと、いつもアヴェロンの半径3メートル内で彼を見つめている。


 そのせいか、最近アヴェロンの態度もせわしなくなっているというか、落ち着きが無いのだ。


「同族の匂いがしたから。つい」


 イゾルデは、まったく悪びれるような態度をしていない。

 髪の毛をくるくると弄り、それはまるで恋する乙女である。


 ルカは、そんな彼女の気持ちが完全には理解できていないため、掛ける言葉も見つからなかった。

 その妖しい眼も、こちらには決して発動しないのに。

 アヴェロンの前では、瞳の奥が少々光っているような気もするのだ。


「でも、やっぱり強い。……洗脳が効かない」

「なっ?!」


 一体何をやっているんだろうか、とルカはショートしかける頭を叩いて直した。

 この人がいると、なかなか頭が混乱する。

 自分が完全な生命を持っていないから理解できないのだろうか、と少々悩む。


 まだルカは完全に生命を手に入れていない。命の扱いとすれば、魔導の関与は魔紋獣器ビーゼスよりも低いのだ。

 それは、単にアヴェロンが命を芽生えさせる、という行為を渋ったわけではなく、シルフィールがほとんどアヴェロンに関与させなかったからである。


「完全な命、か」


 人と呼ぶには不完全で、機械と呼ぶには人間臭すぎる。

 そんなルカは、自分の立場をちゃんと決めていたかった。


「悩んでいるようですね」

「……いえ、大丈夫です」

「ルカさんには、家族があるでしょう?」


 声をかけたのは、剣豪だ。

 ロザリオは、この何ヶ月間かで確実に、ルカのことをわかっている一人になっていた。


「幸せすぎる場所にいると、それを幸せと思わなくなるそうです」

「……そうですね」


 ロザリオが何を言わんとしたのか、ルカはすぐに察することができた。

 だから、考えを改めることも、人間と機械の間の存在だから、できる。


「幸せに見えますか?」

「見えますよ」


 ルカとロザリオがいい感じの雰囲気になっているのを、フルルとイゾルデは思わず顔を見合わせる。


「そういえば、見かけない顔だな」

「イゾルデ・トリストラムよ。よろしくね」


 フルルとイゾルデでは、背の高さが胴体1つぶんほどある。

 フルルは完全に見下ろしているし、イゾルデは上目遣いどころの話ではなく、首が痛そうだ。


「珍しい種族だな」

「……あぅ」


 ひと目でバレた? とイゾルデは慌てたが、それは王都には少なくとも絶対数の少ない種族だなと彼が判断しただけである。

 その意味では、アヴェロンの種族も珍しい。


「でも、その翼はもうちょっと隠したほうがいいかもな」


 翼が生えている種族なんて、ごくごく限られている。

 さて、どっちだったかとフルルが考えているうちに、イゾルデはぽつりとつぶやく。



「……あなたは、アヴェロンの友人なの?」

「さて、どうかなお嬢ちゃん。……俺は英雄に憧れているだけさ。偶然とかじゃなくて、本物の英雄にな」


 結局、今回のドラゴン討伐も、魔紋獣器ビースト・アーゼスが強いからだ。

 フルルはそう思っていたし、アヴェロンが「結局は使う人次第」という言葉を彼は信じていない。

 カネさえ払えば、いくらでも体を改造できるこの王都【アンドロメダ】だからこそ、そう考えている。

 決して誰が間違っているということでもなく、それは彼の常識だった。


「本物の強さってのがほしいんだよね。……ま、今は店主でいいけど」


 そういって、フルルは一枚の紙を渡してロザリオとルカ、そしてイゾルデから離れていった。


 居酒屋、ね。とイゾルデは紙を斜め読みをする。

 今日の夜は、そこに行ってみよう。とちょっと思ってしまったのだった。


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