018 視線
イゾルデは、アヴェロンを見つめていた。
その眼は妖しく光っており、しかし彼の作業光景を一心不乱といった感じで見つめている。
彼の作業から何かを強奪しようとでも思っているかのように。
「……さすがに、そんなに見つめられたら集中できないのだが」
アヴェロンは魔導でロザリオの剣を組み立てるのを中断し、こちらを見つめている少女のほうに目をやった。
しかし彼女は答えない。そもそも言葉を発するつもりはないようだ。
ただ、彼を見つめている。その状態は異様であったし、アヴェロンも気が散って仕方がない。
「シルフィール!」
しびれを切らしたアヴェロンは、シルフィールを呼んだ。
イゾルデの魔紋獣器を設計し始めたのだろう、モニターに何かを打ち込んでいた彼女は、はっとした顔をアヴェロンの方に向けて「なぁに?」と返事をする。
「集中できないんだが」
その口調は厳しい。自分の世界、もしくはシルフィールとの世界に入り込んでいるときに、他の人の干渉がはいるというのは、誰もが腹立つし精密機械をいじっているときなど特に、である。
シルフィールは、困ったと肩をすくめた。
「イゾルデ、ルカと遊んできてくれない?」
「うん」
「あと、アヴェロンに色目を使うのもやめてください」
「むむ」
それは承諾しかねる、と後者の方は嫌がったイゾルデだが、前者は大歓迎だと腰を上げる。
頭の位置が動き、漂っていた白い髪が引っ張られるようにひとまとまりになるところはさすがだ。
「ルカちゃんどこかな」
「外。今日は魔紋獣器ふれあいの日だからね」
ふれあいの日、とはアヴェロンが考案し始めたキャンペーンのことである。
単価がバカにならない魔紋獣器ではあるが、とりあえず危険性のないものを一般公開して認知度を、一般の人にも広めたいからだ。
安くても、中古車程度はあると言われたらとてもではないが買うことができない。
しかし、番犬としてペットとして、でもいいかもしれないとアヴェロンは最近考え始めているのだ。
工房から出て行ったイゾルデを見送って、アヴェロンはため息を付いた。
ロザリオは、決してアヴェロンたちの邪魔をしない。むしろ、何か手伝わせてとルカの手伝いをしているような人である。
今日も、朝早々から起きだして鍛錬を終わらせると、ルカと一緒に開店準備をしていた。
彼がアヴェロンとシルフィールの二人に作成を頼んでから、すでに1ヶ月半が経っている。
元旅人であったアヴェロンは、そろそろ我慢できなくなる頃合いだろうと剣豪を判断していた。
だからこそ、早くこれを作り終わらなければ、と作業を再開する。
パズルのピースを嵌めこむように、一つ一つのパーツを魔導でくっつけていく。
今回は魔導部分が多い。そうしなければ相方が過労死してしまうのではないかとアヴェロンが心配する程度には、パーツが有る。
人間の骨は約200前後と言われるが、今回はその3倍以上だ。
小さいものは機械では到底組み立てることのできないものだし、魔導を使わなければ今の倍以上巨大になってしまうパーツもある。
「大は小を兼ねる、ねぇ」
アヴェロンは、前いた世界で使われていた言い回しを思い出し、微妙な気持ちになる。
自分が、やっぱり、少し俺も平和ぼけしてきているのかもしれない。
シルフィールの方を外見つめながら、そっと彼はため息を付いたのだった。
このままだと全然間に合わないので、明日から更新ペース増やします