017 イゾルデ・トリストラム
新キャラ登場。
思えば、まだ名前の出ている人って10人行っていないんですよね。
武具店「ゼファーヴェイン・ルカ」の店の前に、一人の女性が立っていた。
顔はフードに隠れてよくわからないが、はみ出た雪のような白い髪の毛は王都の風を受けてゆらゆらと揺れている。
「……辺鄙な場所。王都の中だというのに」
周りを見回しても、そこにあるのは人もめったに見られない道路だ。
車の量すら少ないのは、武具店が大通りに面していないからだろう。
「でも、研究狂いのシルなら。……こういうところのほうがいいかも、ね」
彼女のひとりごとは、彼女に吹き付ける疾風のようでもあり。
ドアを開けると、奥からルカの「いらっしゃいませー」という声がきこえてきた。
「ほら、ロザリオさんも」
「あ。いらっしゃいませ」
はて、と彼女は首をかしげた。
シルはどこだろう、と店内を見回すがそんな姿はない。
あるのは、人形のように愛くるしい少女と、虹彩異色症の高身長な男性だ。
ヘテロクロミア、とは俗にいうオッドアイ。左右の目の色が違うことを指す。
しかしその姿は、彼がアヴェロンからもらった護符のお陰で威圧ではなく、むしろ幽玄さをたたえていた。
ロゼの顔を見て惚け、彼女は首を振る。
いや、でもシルと通話した時に聞いた声とは違う、と彼女は思ったのだ。
「あの、何か?」
はっとしてみれば、ロザリオがこちらを見つめていた。
「えっと、シルフィール・フィーリネさんはこちらですか?」
「はい、少々お待ちを」
一礼して、奥に引っ込んだロザリオを見て、彼女はフードの中で、赤らめた頬を緩ませていたのだった。
「シぃルっ」
「イゾルデ、やっとついたんだ」
「入国審査が面倒でねー」
目的の女性、シルフィールが見えてから彼女はフードを外した。
現れたのは、銀髪黒眼の美少女である。長い白髮と、際立つ幼い顔が特徴だ。
「ああ、アヴェロン。紹介する、私の親友のイゾルデ・トリストラム。……ええと」
「こんな顔だけど、千年生きてるから」
イゾルデの言葉に、アヴェロンは目を見開きはしこそ驚かなかった。
その代わり、ルカとロザリオは同時に「えっ!?」なんていう驚きの表情をしている。
いや、どう見ても10代前半の風貌なのに、アレだけ堂々としていたら何か、事情があるか風貌にそぐわない年齢を持っているかどっちかしかないだろう、と呆れた。
特にアヴェロンは、ロザリオに冷めた視線を送っている。ロザリオなら、彼女から抑えきれていない強者のオーラを感じ取っているだろうから。
シルフィールの親友と聞いているからこそ、今は警戒態勢を解いているが。
アヴェロンは、普通こんな人が目の前に現れたら戦闘態勢に入っているところである。
「こっちが、……へぇ」
そして、イゾルデの眼が一瞬妖しく光ったのを、彼は見逃さなかった。
白銀の髪の毛に、褐色の肌。一体どの種族なんだろうと、アヴェロンはそれだけを考えていた。
……導かれる答えは一つしかなかったが、あえてそれをアヴェロンは口に出さなかった。
「シルフィール、彼女は泊まっていくのかい?」
「うん、ゲストルームはロザリオが使っているし、彼のが完成するまでは私の部屋で、ね」
「……3人で?」
このままでは、女性陣が3人同じ部屋ということになる。
ちょっと狭いだろうと、アヴェロンは考えた後、自分の部屋を客人に明け渡すことにした。
「いいの?」
「ノープロブレム」
さて、ロザリオの商品を早く完成させなければ、とアヴェロンは奥の工房に戻る。
そして、彼女の種族が、転生者に今のところ現れていないらしい【聖魔族】であることを少々察して、さてどうしようかと頭を悩ませた。
「千年生きてるってのは、嘘だな」
イゾルデとトリスタンの話はかなり有名ですね。
詳しい彼女の物語は次話からです。