015 戻ってきた平穏
「3人とも、怪我とかはない? ……ルカ右手のパーツ外れてるぞ」
「あう」
「ちょっと見せて」
戦いが終わり、4人は淡々と砕け散った魔石を拾い集めていた。
今回の戦いで、ついに4人でほとんど王都にダメージ負わせないまま龍を討伐させることを可能にしたのだ。
ダメージを受けたのは、王都の塀と、肉壁にもならなかった魔法師の残骸のみである。
「てんしゅも、ありがとう」
「俺、今回は役に立ったかな?」
では俺はこれで、と居酒屋「セイリュウ」の店主は踵を返す。
もちろん、この後の宴のためであり、彼が3人をあとで招待するためだ。
ルカは、砕け散った魔石を集めた袋をアヴェロンに渡した。
魔石はひとつ、完全な大きさであれば巨大な果実ほどはある。
それが砕けているとはいえ、6つ分ほどはあるのだ。
魔紋獣器がこれからはもっと作れそうだ、とアヴェロンはほくほく顔である。
「帰ろう。……あとは王都がやってくれるだろう」
「龍の血で池ができるかと思ったのですが」
「それは、私の剣が吸収しました。……お肉も持っていきますか?」
「いや、肉は王宮に献上しよう。そこにヒュリオン・プトレマイオスがいるから」
そういって、アヴェロンはヒュリオンを指さした。
もちろん、指さした先にいたヒュリオン本人は心臓が飛び出るほどに驚いたし、しかし自分の身分を明かすわけにも行かなかったため口を開く。
「なぜ、そうだと?」
「変装しても、旧友の面影が残っているからね」
「……ぐぬぬ」
だめだ、この男に勝てない。
ヒュリオンはため息を心のなかでそっとつぶやくと、しかし首を振って踵を返す。
アヴェロンだけにわかるようにサムズアップして、セリシトと王宮へ戻っていった。
「……あれが、この国の王子様なのですか?」
「うん」
「……やっぱり、アヴェロンは交友関係がおかしい」
ロザリオはため息を付いたが、それも別の話。
自分の立場をわかっていないように振る舞うのが得意なロザリオに、ルカは「あなたが言えた話じゃない」と溜息。
アヴェロンは、ヒュリオンがいなくなったのを確認してからルカの故障部分を魔導で回復させた。
修理中に、「ひゃん」とか「んっ」とか悩ましい声を上げるルカを、そのたびに諌めたのも、別の話。
アヴェロンは、すべての魔紋獣器を元の団体へ返すと、ルカを支えながら戻る場所に戻ったのだった。
「こっちも被害は特に無しか」
「うん」
ほぼ逆の方向から龍が攻めてきていたため、「ゼファーヴェイン・ルカ」は傷ひとつなく無事であった。
シルフィールはルカの破損に気づき、魔導の痕跡を確認するとアヴェロンに礼をいう。
そして「上で待ってて」と男2人を急かし、ルカの修理を始めた。
「……ああ、私のこちらも点検をお願いできますか?」
「おう」
上に行ってもやることがなかったアヴェロンは、自分の部屋にロザリオを招くと鈍器……ではなく技武具:《Di$∀βLe》の点検を始めた。
何回か変形を繰り返し、可動部分に問題がないことを確認するとロザリオに笑いかける。
「これで、龍の頭1つ叩き潰したよな」
「ええ。やはり硬いですね」
ロザリオが「硬い」と称したのは、技武具:《Di$∀βLe》だ。
龍の頭部も硬いはずなのだが、これの硬化効果とロザリオの腕力には勝つことができなかった結果、2つ首だったはずのそれは頭部が1つ欠けている。
それをも、ロザリオはスライスにしてしまったのだから正体が何だったかさえわからないだろう。
アヴェロンはしかし、これだけ科学技術の発達したこの王都なら、幾分かの研究材料ににはなるだろうと考えている。
「でも、多分召喚命令がくるだろうなあ」
「……まあ、それはしかたないですね」
営業に支障がでなければいいが、とアヴェロンは窓から外を見つめる。
王都の中ではあるが、王都のはずれであるここには人はめったに立ち寄らない。
今日も、客は少なさそうだ。
アインクーイアですね、今3Dで再現を頑張ってるところです。
次回話の簡単なネタバレなのですが、形状が変わります
複雑になる方向になるのかな、そんな感じですがよろしくお願いいたします。