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012 ヒュリオン・プトレマイオス

 ヒュリオン・プトレマイオスはこの国の王子である。

 豪華な衣服を身にまとい、しかしこの国の次代を担うひとりとして淡々と今まで訓練を受けてきた。


 プトレマイオスの、世界一とも謳われる科学技術を脳の中に溜め込み、同時に銃の扱いも習う。

 技武具の仕組みを習い、多くのそれらを手にしては使いこなしてきた。


 そして今回、王都を守るためにドラゴン討伐の場まで出てきたのだ。


 今回は正体を明かしてではなく、変装しての任務だ。

 もしこの戦いで死に至れば、名も無き一王都民として埋葬される。

 王子にしては少々過酷な試験だが、それが現代プトレマイオス王の考えなのだから彼は仕方がない。


 現状、彼の正体を知っているのは専属の執事であるセリシトという男だけだった。


「あれが、ドラゴン


 王宮からかなり離れ、【アンドロメダ】の主要地区から北上し下町に出る。

 すぐそこに、ドラゴンが迫ってきているのを見てヒュリオンは思わずつぶやいた。


「あんな強大な存在が、こうも容易く」

「今のところ、ドラゴンの生態というのはまだつかめていません」


 調査団を、森に投入しても戻ってくることは一度もなかった。

 科学を結集して人間搭乗型のロボットや、無人ロボット、強化スーツなども投入したが全て失敗に終わる。


 森には、科学とは違う何かがある、そう数千年も言われ続けてきたのだ。


「魔法師隊、まったく通用していないようですね」


 せっかく国王さまが雇ったのに、とセリシトは半分嘆きながらも今の主を見つめる。

 命令を待っているのだ。次代の国王が、一体今何を考えているのか非常に気になっている。


「とりあえず、……主要区に入ってくるまでにどうにかしないと。……ん? あれはなんだ」

「どれでしょう?」

「あの、なんだかよくわからない……は?」


 その時、セリシトもヒュリオンも、それを見てしまったのだ。

 絶望に陥った【アンドロメダ】下町の先に、4人の人影があるのを。


「何を馬鹿な……セリシト、彼らをとりあえず避難させるぞ」

「……違います」


 ヒュリオンは、彼らが何者か知らない。

 だからこそ、執事にそう言ったがセリシトはそれを否定した。


 セリシトは、知っている。

 数年前に最前線で見たのだ、この王都を。

 2人で守ってみせた、「英雄」のことを。


「剣聖:ロザリオ・リンネと……国際認可魔紋技師:アヴェロン・エグズーバ……」


 実際は「魔紋技師」と、紋技師の称号を得ている時点で国際的には認められているのだが、セリシトはその存在をよくわかっていないヒュリオンにわかりやすく伝えた。

 紋技師。言葉通り、「紋章を持つ」技師である。

 紋章を国家、もしくは団体から授かることで存在が「大きく認められた」と判断できるこの世界では、それがどういう意味なのかヒュリオンにもよくわかっていた。


「あの、武器に囲まれた人が?」


 こちらに背を向けているためか、顔は見えないため分からない。

 だが、遠くはなれたここからでも彼らの気配を察知できるのと、目の前のドラゴンが少々怯んでいるようにも見えるのは、きっと錯覚ではないと判断したヒュリオンは、食い入るようにそれを見つめた。


 近づくのは怖い。本能が逃げろ、王宮で閉じこもれと叫んでいる。

 何よりも怖いのが、その発生源が巨大な鈍器を持った男から発せられていることだ。


 しかし、逃げる訳にはいかない。

 ヒュリオンはチクチクと肌に感じる殺気を振り払うように首を振って、本能に逆らい前へ進む。


「行けません、ヒュリオン様。これ以上は危険です!」

「それでも、行かなければ。……この王都を守ろうとする人々を覚えなければ!」


 自分たちが見に行っていなかったら、彼らの存在が世に知れ渡ることもなかったはずだ。

 ほぼボランティア。自分の居場所を守るためのものかもしれないがその行動を認める人がいても、いいのではないか。


 ヒュリオンは右手で空を握りしめた。今の自分にドラゴンと戦うようなチカラは決してないし、そんな勇気もないが。

 歩みは、前に進めなければ。



10万文字までは突っ走ります。応援よろしくお願い致します。

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