001 プロローグ
運命の邂逅など、「運命」と言っているくらいなのだから最初から全てが決まっているものなんだろう、と彼は思った。
同時に、どこにでも転がっているものだ。自分が意識し、意図していなくとも何かと接することで運命のトリガーが発動するかわからない。
運命を変える、なんていう言葉は存在しないと思っているからこそ、彼は今の状況を受け入れられている。
一度の生で終わるはずだったこの命が、終わらなかったことも運命の一つだと、受け入れているのだ。
「できた」
一人の男が、工房で声を上げた。
彼の目の前には作業をするための無骨な作業台と、その上には数えることもかなわないほど多い何らかの部品が、積み上げられている。
どれも静かに、しかし確かに儚い光を発しているのを見れば、それが得体のしれない何かだということは分かるだろう。
また、男の頭に角が2本と背中から生えた翼を見ることができれば、彼が真人間ではないこともわかる。
「……ルカ」
彼の名前はアヴェロンといった。
誰かの名前を、静かに深く。
紡ぐように発生すると待っていたといわんばかりにすぐ、一人が入ってきた。
入ってきたのは少女とも少年とも取れる、美しく中性的な雰囲気を存分に発揮した姿をしている。
目は藍で、髪の毛は白く、炎のように揺らめている。
「はい、アヴェロンさん」
ルカから発生される声は、無機物のように平坦で、しかし確かな温かさを持つもの。
そんなルカを見て、アヴェロンは手に持っているものを差し出した。
彼の身長はありそうな、巨大な両刃の斧だ。
遠目から見れば単純な構造にも見えてしまうが、近くで見れば、多くの溝があるのがわかり脆い印象すら見受けられる。
「これが、今回の新作ですか?」
「うん」
試しに、とアヴェロンが合図をしてルカは取りあえず鉄パイプを持ってきた。
それを難なくみじん切りにしたところを見て、ルカの目は見開かれる。
「刃が、1枚ではないのですね」
「ご名答」
ルカは彼から斧を受け取り、その重さに取り落としそうになりながら構えた。
小さな身長のルカが持つと、思った以上に威圧感が増す。
「持ち手に、滑り止めが欲しいですね」
「やっぱりか。凹凸じゃ足りないかな」
買う人によっては一生ものになるのですから、とルカは指摘。
それにアヴェロンはうなずき、工具を数個取り出して改造を始める。
「ところでこれに、命は吹き込まれているのですか?」
ルカが、問いかけるがアヴェロンは答えない。
かなりの集中状態に陥っているようで、周りが見えていないのだろう。
彼に言葉をかけること、それを一時的にあきらめた少女は、店頭を見てあっと声を漏らした。
「開店準備してきます!」
その言葉すら本人には届いていないのだが、ルカはそんな余裕もなかった。
ここは、とある世界での小さな融合国家。
王都【アンドロメダ】のはずれにある、小さな武具店。
受付1人、技師2人。
合計3人の作業員で構成されているにも関わらず、その特異性から多くの人々が姿を見せる、
「ゼファーヴェイン:ルカ」。