三話『月下騒乱の予感』
ウサ耳少女と共に怪我人を運んだ村は、快くローズたち三人の事を迎えてくれた。
男は村の医者に見てもらったところ、安静にしていればすぐに目を覚ます程度だそうだ。
医者に礼を言ったあとローズと少女は最初のやり取り通り、お互いの話を聞くため村にある酒場に向かった。
酒場の中は丁度仕事終わりの時間もあってか繁盛している、しかし席は埋まっているものの店の中は決して明るい雰囲気ではなかった。
最初はよそ者の自分たちがへの警戒のせいかと思ったローズだったが、客は誰一人として二人の事は見ていなかった。
皆どこか上の空といったような感じで、時折話して笑いあう者たちもいるのだが2、3こと話すとまた何かを思い出したかのように沈み込んでいく。
「あら、すまないねえ気付かなかったわお客さん。奥の席へどうぞ!!」
怪訝に思い立ち尽くしていたローズたちに気付いた酒場の女将と思われる人が店の中から酒を両手に持って出てくる。
案内された席に着いた二人に、恰幅のいい女将は手に持った酒を客に出したあと近づいてきた。
「見ない顔だけど冒険者の方たちかね?? こんな辺鄙な村に珍しい」
「まあ色々あってね」
少女の方を見ると彼女もコクリと小さく頷いていた。
彼女は冒険者のようだ、まあ見た目からしてそんな感じだったが。
「とりあえず何か飲み物を…… 何か飲みたいものはあるか??」
少女はどう見ても成人している年には見えないがもしかしたらレムーハは未成年でも飲めるかもしれない。
ボロをださないように確認してみると少女は困ったように辺りをチラチラと見ている、ローズは何かやってしまったかと内心あせる。
少女の様子を見て女将も最初は不思議そうな顔をしたが、なぜか理解したらしく笑いながらこちらに詫びを入れてきた。
「ごめんねウチメニューとか置いてないのよ。お嬢ちゃんはお酒飲めそうにないしホットミルクでいいかい??」
「は、はい」
何だメニューを探していただけか、ホッとしたローズが自分の分の酒とおすすめの料理をいくつか頼むとすぐに注文の品を持ってくると女将は厨房に戻っていった。
ちなみに酒場の代金は問題ない、事前にサクシヤから貰ったものがいくらかある。
金貨や銀貨の為どれくらいあるかはわからないが食事一回で消えてしまうほど少なくは無いだろう、そこはあの乳神を信じるのみだ。
メニューが来るまでの間に軽く自己紹介を済ませようとローズは少女に話しかけた。
「今更だが俺はローズだ、一応冒険者をやっている。君は??」
「アリスフィア、です。よろしくお願いします」
内気な子のようで自分の名前を名乗るので精一杯なのが見るだけですぐにわかる。
ゲームに出てきそうな彼女の名前を聞いて、ローズは自分の名前も違和感はないように感じた。
アリスフィアは名乗った後は何も言ってこない、仕方なくローズは自分から彼女に何か聞きたいことがあるのではと尋ねることにした。
「それでアリスフィア、お前は俺に何か聞きたいことがあるんじゃないのか」
「は、はい、ええと……その…… ローズさんは冒険者になってからどれくらいになるんですか……??」
「ん、そうだなー…… 二年目くらいかな」
「に、二年ですか!?」
「おかしいか??」
「え、ええっと、ローズさんが使ってた魔法があまりに凄かったので…… あんな魔法、伝説でしか見たことありませんでした」
「そうか、まあ冒険者になるまでも色々やってたからなぁ!!」
焦って思わず声が上ずってしまった、そこまでリリースがこの世界で強力なものだとは思わなかった。
これからは使うにしてももっと地味なのにしようと決めたローズにアリスフィアは質問を続けてくる。
「あの…… もしかしてローズさんは普通の人間じゃないんですか??」
「どういうことだ??」
「あっ、すいません忘れてください!!」
すいません、すいませんと帽子を押さえて何度も頭を下げてくるアリスフィアを気にしないでくれとなだめる。
そういえばローズと会ってから彼女は一度も帽子を外していない、もしかして獣人であることを隠しているのだろうか。
もしかしたら先程の質問は、ローズが獣人であるかどうかの確認だったのか??
ようやく謝るのを止めてくれたアリスフィアはようやく少し慣れてきたのか、今度はローズから自分にも質問があるのではないかと問いかけてきた。
ローズがアリスフィアに質問しようとしていたのは獣人についてだったのだが自分から言い出すまでは聞かない方が無難だろうと、とりあえずはさっきの事件の事について
詳しく聞いてみた。
どうやら彼女はこの村から少し離れた場所にある大きな町で冒険者としての手続きを終えたばかりのひよっこ冒険者らしい。
そしてある噂を聞いてこの村に向かったところを先程のオークに襲われそこをローズに助けられ現在に至るらしい。
あの時は本当に助かりました、と再び頭を下げようとするアリスフィアを静止してある噂について詳しく聞くと、
先程の注文を持ってやってきた女将がアリスフィアの代わりにこと細かに説明し始めた。
「最近アルミラージがこの辺に大量に湧いてるのさ、今まではこの辺になんざ一匹もいなかったってのに急にではじめてねえ。
おかげで村の作物どころか住民にまで被害がでてるのさ。皆暗い顔してるのはそのせいさ」
客の顔が暗かったのはそれが原因だったのか、女将の言葉を聞いた客は皆こちらを向いてアルミラージにより受けた被害を愚痴ってくる。
被害は決して小さいものではないようで、中には泣きながら語ってくるものまでいた。
「対策しようにもうちの村で唯一魔物と戦えるボルトスさんは奴らにやられちまったしね、巣までは突き止めたんだけどその頃にはもう動けるような身体じゃなかったよ」
「他の村に助けを求めたりはしなかったのか??」
「連絡に行かせた奴は皆帰ってこなかったよ、全員アルミラージに途中で教われたみたいでね。お嬢ちゃんはオーガは来たけどアルミラージは来なかったらしいね。
運が良かったよ」
アルミラージってウサギの化け物だよな、そんなに知性が高いのか??
それにアリスフィアにはオーガは襲ってきたがアルミラージは襲ってこなかったか……
………………
ローズの考えを他所に会話は続いていく。
「私……その話を聞いていてもたってもいられなくって、私みたいな非力なのが来ても役には立たないかもしれないけど、それでも何かしたいんです!!」
「こんなにちっちゃいのに、立派な子だねぇ……」
女将がアリスフィアの手を握って褒めると彼女は恥ずかしげに俯いて表情を隠した。
しかしこの場ではローズしか気付いていないが彼女の話した言葉には一つおかしなところがある、村人達は精神的に弱っているところに助けが来たことで浮かれていてまったく気が付かないようだ。
次第に活気を取り戻していく酒場をさらに加速させるようにローズは宣言する。
「わかった、そういう話なら俺も手伝おう!! 戦いなら結構自身はあるもんでね」
「本当ですかローズさん!!」
会ってから一番の嬉しそうな声でそう言ったアリスフィアに続いて、客達が
「あの男がやってくれるって」
「でも大丈夫なのか、見たところそんなに強そうじゃないが……」
「何でもオーガを一撃で倒したとか」
と口々にざわめき、最後には皆喚起の声をあげ村の救世主たちを祝う宴会を始めた。
そこには今までの暗さなど微塵も感じさせないほど笑顔で溢れかえっていた。
※※※※※※※※※※※※
「このたびは村を助けるために協力をしていただけるとか、本当にありがとうございます」
「いや、気にしないでくれ。冒険者としては当然だ」
宴会の後、アルミラージの巣に向かおうとするローズとアリスフィアに村長が直々に礼を言いに来た。
見た目は70代くらいの老人だが、年齢とはまた別の苦労によって出来たしわのせいでふけて見えるのかもしれない。
「しかし早く行って頂けるのは嬉しいですが大丈夫ですか?? お二人とも今日この村にたどり着いたばかりで疲れていらっしゃるのでは」
「鍛え方が違うから大丈夫さ」
「おお何と頼もしい……」
だけど……とローズは背後にいるアリスフィアを見て声をかける。
「お前は大丈夫か?? 俺一人でも何とかして見せるが」
「いえ、私だって冒険者です、やれます」
内気な彼女だが意思は曲げないようではっきりとローズの目をみてそう言い切る。
………………
「そうか、無理はしないでくれ」
「は、はい!!」
「そのことですがローズ殿、わし等の村からも一人護衛を付けようと思うのですがよろしいですかな」
「構わないが女将からは戦えるものはもういないと聞いたんだが」
「そのボルトスの息子のアトスがぜひ参加させて欲しいと、ほれアトス出て来い」
村長の呼び声に応じて一人の若者が村人の間をぬってでてくる。
年はローズと変わらない位だろう、生意気そうな表情で二人の事を見ている。
妙に豪奢な鎧と剣を持っているが着慣れてはいないようでどこか不恰好だ。
「まあそういうことなんで、俺様もついて行かせて貰うんで」
「これアトス!! しっかりとローズ殿とアリスフィア殿に挨拶せんか!!」
「はいはいよろしく、そもそも村長は大げさなんだよアルミラージ如きに。あんな奴ら俺様と親父の剣があれば余裕だってのに」
「……すいません。ろくに実戦経験も無いくせに口だけは達者で」
アトスには聞こえないようにローズたちに謝ってくる村長に笑みを返して返事をした。
アリスフィアの表情は伺えないがアトスに怯えているのかローズに隠れるように立って俯いていた。
村長から餞別にとモンスターの落とすアイテムを入れる大きめの布の袋と傷を癒す助けをするという薬を貰った、回復薬のようなものだろうか。
礼を言うと三人はローズたちが来た方向とは反対側にある大きな森を目指して歩き始めた。
※※※※※※※※※※※※
生意気なアトスと臆病なアリスフィアの相性は最悪のようで、仕方なく道中のアトスの自慢にはローズ一人で対応していた。
幸いなことに森の中に入るまではアルミラージにも他のモンスターにも出くわすことは無かったが今から行くのは奴らの住処だ、当たり前だが戦闘は避けられない。
かなり森の深いところまで来た辺りでローズは周辺に違和感を感じた、スキルの[透視]を[索敵]に代えたおかげかなんとなくだが敵が近くにいることを感じることが出来る。
………………
「この先に気配がする、俺が先に行って確かめてくるから待っててくれ」
「わかりました。あ、あのローズさん、お気をつけて」
「……アトス、最後に質問がある」
「俺様に質問?? 何だ」
「お前は何故俺達についてきた」
「ああ、そんなことか。村の奴等や親父は俺の凄さをわかっていないからな、親父のやれなかったアルミラージを討伐すればあいつらも俺様の強さを理解するだろ。
そんで親父からこの剣と鎧を受け継いであんな村よりもっと立派な町や城で騎士になるんだ!!」
「お前や親父はあの村での唯一の戦力だろう、お前と武器防具がなくなれば困るんじゃないか」
「そんなのは俺様の知ったことか、もっともたかがアルミラージ如きでこのざまだ。無くなったって誰もこまらねえよ、あんな村」
「……そうか」
その言葉を聞いたローズは振り返りもせず森の奥――闇の中へ消えていった。
サクシヤ「そういえばあなた[加護]の付けられる数増えたのに気付いてる??」
ローズ 「ああ、オーガと戦った後に妙な音が頭の中でなってな。
もしかしたらと思ってみたら当たってたよ」
サクシヤ「それで何をつけたのよ、言ってくれなきゃ小説に書けない
じゃない」
ローズ 「………………だ」