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1章  願い

 この章を読むのは、少なくとも本編の『19章・されど英雄』までを読んでからにしてください。

 お願いします。

 アイツの足音が遠ざかっていく。

 これが死ってやつか?

 そうそう悪いものじゃないな。

 そう思った時、一人の顔が鮮明に浮かんだ。

 白い髭面ひげづらじいさんだ。

 人は死の間際、今までの記憶を見ると聞いたがこれがそうか?

 そう言えば、爺さんが最後に言った言葉……

 

 

 

「なんでだよ! ルール違反だろ!」

「いいんだ……いいんだよ」

 あの爺さんはただそう言って、白い髭面で笑いながら連れていかれた。

 俺はいわゆる『戦災孤児』だった。

 その俺に生きる術と、少しながら親子の感覚のようなもを教えてくてれた爺さんだ。

 まだ俺は半人前で、そのクセに息巻いてモントリーブの仕事でドジを踏んだ。

 しかし、その代償を代わりに払うことになったのは爺さんだった。

 爺さんは俺に教えた。

「自分のミスは自分で責任を取れ。それが盗賊のルールだ」

 なのに……。

 爺さんはモントリーブの私兵に連れて行かれるとき、最後にこう言った。

「おまえに謝りたい。ワシは間違っていたよ。ワシの願いはおまえが真っ当に生きることだ」

 なんだよそれ……。謝りたい? 間違っていた?

 あんたを信じてたのに簡単に否定しやがって!

 盗み方も、逃げ方も、ルールも、全部あんたが教えてくれたのに……。

 裏切られた気分だった。

 罪悪感を憎しみに変える、子供じみた逆恨みってやつさ。

 だが、それをぶつけるべき爺さんは、二度と俺の前には戻って来なかった。

 俺の代わりにモントリーブで処刑された……

 

 

 

 それからしばらくしてアイツに会った。

 子供ガキのくせにギラギラした目をして俺を睨んできやがった。

 ほんの気紛れだったのか、それとも爺さんがいなくなって寂しかったのかは分からないが、俺はそいつに興味を持った。

 案の定、誰も周りにいないその子供ガキは、ちょっとかまってやると犬コロみたいに人の後を着いてきた。

 そのくせ警戒心は解かない……はっきり言って嫌な子供ガキだ。

 だが俺は教えてやった。

 盗み方、逃げ方、ルール、そして生き抜き方。

 そうやって誰かに教えることによって、俺自身が『一人前』を気取りたかっただけかもしれない。

 否定されたものを、そうして取り返したかっただけのかもしれない……

 だが、いつからかアイツに対する感情が変っていた―――

 そう、あれは火事……住処が誰かに放火されたあのときからだ。

 本当にアイツはバカだ。

 俺が気紛れでやったコインを―――

 たかがコイン一枚を取るため、火の海に飛び込んで行きやがった。

 あのとき、どうして俺も後を追ったのかは今だに分からない……

 

 

 

 アイツをやっと見つけて助け出すと、俺は言葉をかけてやった。

 いや、違うな……俺自身が声をかけたくなったんだ。

 その直後にあいつは涙を見せた。

 何と言ったかもはっきりと憶えている。

 いつも態度の悪いあいつが、初めて涙を見せた……。

 その火事で結局コインを失っちまったが、その後はそれよりも遥かに多い枚数のコインを二人で盗った。

 

 最高の気分だった。あの日までは……。

 

 

 

 身体の調子が悪かった。

 身体がが軽い日もあれば重い日もある……。

 ギルドのヤブ医者は首を横に振った。

 いわゆる『不治の病』ってやつだ。

 病名は……忘れちまった。

 徐々に蝕まれ、ある日唐突にその日が来るらしいが……

 病名なんて覚えたところで、どうせ死ぬなら意味が無い。

 体調がすぐれないと思っていたが『三年もてば良い方だ』と聞かされて、あまりの理不尽さに思わず笑っちまった。

 不思議と恐怖は無かった。

 ただ、その瞬間に『あいつ』の顔が浮かんだ……

 衰えていく姿をあいつに見せるわけにはいかない……シミったれたプライドってやつだ。

 それに、爺さんの言った『真っ当』って世界を見てみたくなった……。

 

 

 

 爺さんはバカだ。

 他の地に行ったところで大して違いはなかった。

 相変わらず汚いヤツ等はいるし、どうしようもないクズもいる。

『真っ当な世界』なんて無いと分っただけだ。

 だが皮肉なことに、三年経っても身体だけはピンピンしてた。

 そんなときに仮面を着けたクズ共に会った。

 別に興味は無かったが、ほんの暇つぶしに付き合ってやっただけだ……。

 実際仲間になってみると、そいつ等は噂に聞いていた以上のクズの集まりで、頭に来たから頭領を斬ってやった。

 そうして俺がそいつ等の『新しいルール』になったわけさ。

 それからしばらくして『ズラタン』と知り合った。

 さすがにこのときばかりは『神のお導き』ってやつを信じる気になったぜ。

 何せズラタンは爺さんを処刑した張本人だ。

 すぐに斬ってやるのは簡単だったが、俺は別の方法で報復することを選んだ。


『ヤツからも大事なものを奪ってやる』


 それがあのおかしな銀色の娘だ。

 だが、あの小娘ガキをさらい、その目を見ていて思い出したことがあった。

 それと同時に目標ってやつも出来た。

 それをやり遂げるためにクソみたいな部下たちを利用することにした。

 ところがだ?

 この頃になって急に体調が崩れ出しやがった。

 やりたいことが見つかった途端にこうだ……

 本当に人生ってヤツはままならないもんさ。

 

 

 


 あいつに四年ぶりに会った。

 思わず懐かしさで顔がニヤけちまいそうになるのをこらえるのに必死さ。

 身体は多少デカくなってたが、雰囲気は何も変らなかった。

 あいつは思ったとおり計算高いヤツで、俺を出し抜いたつもりで小娘ガキを連れ去りやがった。

 もっともあの小娘ガキには、さんざんアイツの名前を教え込んでおいたから心配ないだろうが……。

「おまえを助けてくれる大バカの名前だ。これからはそいつを信用しろ」

 その言葉をあの小娘ガキが理解したのかは分らない。

 だがとりあえずそこまでは予定通りだった。

 あとは身体が持つかどうかだ。

 

 

 


 時間は掛かったが、なんとか間に合ったようだ。

 残りは……

 だがヤツはかんが鋭い。

 手を抜けば間違いなく何かを感付く。

 それに俺が手を抜かなくても、あいつは生き残るという確信があった。

『凶運』なくせに『強運』だ。

 …

 ……

 ………

 やっぱりな……。本当に大した運だよ。

 あそこで頭を止めるとはな……。

 

 

 

 俺は自分の人生ってやつに結構満足してる。

 呪いたくなった日もあったが不思議なものだ。

 これであいつは『盗賊の末路』ってやつが分っただろう。

 どんなに綺麗事を言ってもクズはクズ、盗賊は盗賊さ……。

 

 爺さん……今なら俺も分かるよ、あんたの最後の言葉……

 どうかな爺さん?

 あんたの願い、ちょっとは叶えてやれたかな…… 

 

 

 


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