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F.F.F.  作者: 佐久間
第二章
6/14

カサ

 私達は呆然として、部屋を見渡した。

 本当に何もなかったようだ。そう、まるで、私達がここに入って来たことさえも「なかったこと」にしてしまったかのように。


「一応……聞いておきたいんだけど」


 私はゆっくりと言った。


「なあに?」

「今この屋敷に、私達以外の人はいないんだよね」


 葉巳はこくりとうなずく。


「いないと思う。泥棒とかだったら、分かんないけど」


 これが単なる泥棒の仕業だったとしたら、事は簡単なのだが。

 照明や火を一瞬でつけたり消したりする。スピーカーもない部屋に声を響き渡らせる。部屋の中のものをわずか数秒のうちに持ち去る。屋敷中の鍵をいっせいに閉める。

 ……どれも泥棒にはできない業だ。


「なんか、色々、なくなっちゃったね」

「うん……あ、でも」


 私はテーブル付近の床に目を留めた。そこに落ちていたものを手に取り、うなずく。私が持ってきた、黒い傘だ。


「これだけは無事みたい。あってもどうしようもないけど」


 葉巳は腰を折ってじっとそれを眺めた後、私の方を見た。


「アルトっぽくない」

「友達にも言われたなあ、それ。誰のか分からないんだけど、家にあるからいつも持ってきちゃうの」


 何の味気もない、黒い傘。背の低い私にはサイズも合っていない。

 どうしてこれだけ残されていたのかは分からないが、手元に戻ってきたものがあるというだけで、なんとなく安心できた。


「泥棒さんは、自分の傘、持ってきてたのかな」


 ふわりと葉巳が笑った。この一連の出来事を、泥棒さんのせいにするつもりらしい。彼の中で泥棒というものは、一体どんなスキルを持っているというのか。


「とりあえず、鍵どうなってるか、見てくる」

「待って、私も行く」


 ドアを開けた彼の背中を、私はぎゅっとつかんだ。こんな奇妙な部屋に一人で残されたくはない。

 すると何を勘違いしたのか、葉巳はこちらを振り返って、ふふと笑った。


「抱っこ、するー?」

「しません。今そんなことしてる場合じゃないよ」

「そうかなあ」


 だいたい、また腕が引きつるのは目に見えている。


 私達は、歩いてきた廊下を戻り始めた。今は柔らかい絨毯の赤でさえも、不気味に感じる。

 玄関へ向かいながら、両側にずらりと並んだドアを一つずつ確かめる。どこも開かない。ノブを動かそうとする音と葉巳の唸り声が響いた。


「別にどこにも、かねめ、のものとかないんだけど」


 家主が中にいるのなら、ドアを閉めてしまえばいいというのか。それからお宝吟味と。彼の知る泥棒は、ずいぶんと大胆で面倒な手段をとる奴である。


 ドアがある場所に来ると、私は左手を、葉巳は右手のドアを調べる。少しでも離れるのが不安で、開かないと分かると私はすぐに飛んでいって、葉巳のトレーナーをつかんだ。ところが彼は毎回私が忙しそうに戻ってくるのが楽しいらしく、そのうち飛びついてきた私をかわすようになった。こちらはもう半泣きである。


「……っ、葉巳のいじわる……! ばかっ」

「だってアルト、かわいいんだもん」

「いいよ、もう泣くから。私が大きな声で泣けば、泥棒もびっくりして逃げ出すかもしれないもんね……!」

「わ、わかった。じゃあさ、こっちにしよ?」


 葉巳は私の手をぎゅっと握った。実際目のふちまで涙をためていた私は、すっかりふてくされていた。


「動きにくいし、家の中で手をつなぐのは変」

「また変って言う! 変じゃない。くっついて動けばいいし、それに」


 そのまま歩き出す彼に、優しく、だがやや強引に手を引かれる。


「俺は、こっちのがアルトとつながってる気がして、嬉しい」


 私は返事の代わりに、彼の手を握り返した。そんな表情で言われたら、反論なんてどうでもよくなってしまう。


 二人セットで動くという非効率な進み方をしながら、とりあえず玄関にたどり着いた。今まで、開いたドアは一つもなかった。

 大きな扉の前に立った葉巳が、鍵を開けようとする。だが、彼の指が白くなるまで力を入れても、私が両手をかけて踏ん張っても、びくともしなかった。


「内鍵も開かないなんて」

「どうなってるんだろうね?」


 葉巳が腕組みをして首を傾げる。私はそんな彼を見て、先ほどから気になっていたことを聞いてみることにした。


「葉巳は、怖くないの?」

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