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花火の音

作者: 秋沢文穂

 子供の頃、夏休みのほとんどを布団の中で過ごしていた。ヒューヒューという喘鳴ぜんめいの合間に、時折遠くから花火の音が聞こえもれてくることもあった。その音を頼りに、天井に規則正しく描かれている雪の結晶のような模様を見ては、本物の花火に思いを馳せることもあった。



 お盆になると、母方の実家によく帰省していた。結局、そこでも寝こんでしまうことが多く、楽しみにしていた浜名湖遊泳や、館山寺観光に行けず祖母と一緒に留守番をしていた。

 それでも、体調の良いときには、玄関先でお迎え火をしている伯父の側で花火をした。



 伯父は松明たいまつの様子を見ながら、不自由な手でマッチを擦っては私と兄が持っている花火に着火してくれた。

 太平洋戦争中に少年義勇軍として旧満州(現中国北東部)に出征し、寒さによって両手と片方の足の指を失っていた。

 その当時の辛い経験をほとんど話して聞かせてくれなかったが、時々覗かせる厳しいような寂しいような眼鏡の奥の眼差しが全てを物語っていたように思う。



 その伯父が、今年三月二十日にこの世を去った。八十の誕生日を迎えたその日だった。

 必ず地震や台風の災害があると、真っ先にうちに電話をかけてきてくれた。自分のことよりも、離れて暮らす私たちのことを常に心配してくれていた。

 今年のお盆は伯父の変わりにお迎え火をしながら、親戚の子供たちと一緒に花火をしようかと考えている。



                                            (了)

2009年7月に執筆したものです。

毎年、図書館で行われている文章教室に提出した作品です。

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