表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

男秘書?とゲロ鍵による一幕

力尽きたよ未完

「どうして、どうしてなう?」


月華皇国内、白で統一されたこの部屋は病院ではなく医者であるゲロ鍵の私室である

テーブルも白、イスも白、壁や天井、ゲロ鍵の着ている服や履いている靴も。全てが白

そんな広くない部屋の一角にある白のベッド。手錠で支柱と運命共同体となり寝かされている男秘書ことくさかべェ

彼は数年前に敵国へ寝返って改名し行方を眩ましたまま月華に戻ることはなかった


そう、彼は本来ここにいるべき人間ではない。なのに何故ここにいるのか

それは去年の出来事。ユグドラル歴50年、後に不倶戴天と呼ばれる史上初の二国間戦争の年

これによりゲロ鍵のいる月華皇国と彼が寝返った海底都市他一国が一時的に併合され、そこに出向いたゲロ鍵が見つけたのだ

“アイン”と名乗り、祖国から離れ海中の国に忠誠を誓う彼を

ゲロ鍵は憤りを感じていた。この裏切り者に。祖国を裏切りあまつさえ侵入して物資を奪っていくくさかべェを殺したい程憎んでいた

そして不倶戴天が終わり、全ての国と領土が解体された今日

その大きな混乱の合間を縫ってゲロ鍵は彼を拉致してこの部屋へ閉じこめた


「答える必要は……ありませんね」

「ふざけないでなう! 貴様が裏切った事でゲロ鍵がどれだけ……!」


やり場のない怒り。こんな状況に陥っているにも関わらず焦りの一つすら見せない彼にどうしようもなかった

むしろ、自分に向けてくる感情のわからない目がゲロ鍵にとっては気持ち悪かった


どうして落ち着いているなう

         生殺与奪の権利はゲロ鍵が握っているなう

  大丈夫なう               ゲロ鍵は安全なう

          有利なのはこっちなう    なのに

        なのに


な の に 何 で そ ん な 平 然 と し て ら れ る な う ?


限界だった。急激にこみ上げる吐き気にゲロ鍵は耐えられず、その綺麗な顔を醜く歪め溶けかけの食べ物をぶちまけた

酸っぱく、そして嗅覚を悪い方向に刺激する悪臭が充満する


「おやおや、何で吐くんですか? 吐く要素などどこにもないと言うのに

 ふふ、可愛らしい顔が台無しですよ?」

「黙れ……なう。ゲロ鍵は男なう」



「これは失礼。でも、可愛いのは本当ですよ?」


嘔吐したことによる咥内に残るゲロの一部はまた吐き気を呼ぶ

何度も何度も、こみ上げる逆流反応を止める事が出来ずに涙を流すかのように胃の内容物を全て吐き出し、胃液を幾度となく地面に垂らす

この異常な光景にも、彼は表情を帰ることなくゲロ鍵に言葉を投げる

繰り返されるゲロに強がるのがやっとのゲロ鍵は短い言葉しか返せず、何故か俯いてしまう


自分で自分がわからない。寝返りなんて今まで何度だってあったのに

それなのにどうしてくさかべェが寝返ったと聞いた時、いつも以上に悲しく、いつも以上に怒ったのか

そして今、彼に“可愛い”と言われ何故言葉に詰まるのか


「もう、自分がわからないなう……」

「ゲロ鍵はただ、くさかべェに戻ってきて欲しかっただけなのになう……」


吐く物も無く、ついには悪臭にすら慣れてしまった頃、力無い声で己の本音を吐露する

その姿は触れてしまえば壊れそうな程に儚くて、彼はしばし返答に窮した


「ゲロ鍵は確かにこんな顔だけど、だけど男なう!」

「だからわからないなう! 今の感情がわかってしまえばそれは、それはただ悲劇しか生まないなう!」

「………………」


狂ったようにわからないわからないと、駄々をこねるゲロ鍵は子供のよう

自分を傷つけたくない、ただ今の自分を否定することでしか己を守れない


「なんで、なうか……なんでゲロ鍵は男に生まれたなうか……」

「こんな苦しくなるなら、女に生まれた方が良かったなう!」


けれども、人間はやはり自分自身に嘘を吐くのが出来ないらしく、少ない力で必死に叫ぶ

女に生まれてくればどんなに楽だったか。性別の壁にぶつかることもなく、普通に恋して普通に告白出来たのに

この世界は同性婚が可能だ。しかし一部の人間はやはり偏見を持っていて差別も少なくない

ゲロ鍵は自分もだが彼をその視線に晒す事へ非常に抵抗を感じた

だから感情を抑え、怒りでごまかしたのかもしれない

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ