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取り巻き令嬢たちのメタモルフォーゼ

取り巻き令嬢ミモザの花束と幸せ

作者: 城壁ミラノ
掲載日:2026/03/13

 さぁ、いそがし、いそがし、ですわ。

 今日は、ランスロット・デンバー侯爵のお茶会にお呼ばれ。

 取り巻きの一人として参加。

 皆さまと同じような流行りのドレスを着て、流行りのアクセサリーをつけてと。

 身支度も慣れたもの、お茶会での振る舞いも、取り巻きとしての流れもお手のものですわ。

 "取り巻きエキスパート" になる日も近いかも――

 そんなベテラン取り巻き令嬢の日々に最近少し、悩んでモヤモヤしていますの。


 そろそろ、素敵な殿方と婚約して取り巻きを卒業。


「そうしたいですわ〜、今回こそ出会えますように!」


 祈りつつ、お茶会へですわ〜!


「ごきげんよう〜、皆さま〜」

「ごきげんよう〜、ミモザさま〜」


 まずは取り巻きの皆さまと合流してご挨拶。

 皆さまの変わりないのを確認して。

 お次は、


「やぁ、ようこそ。我がお茶会へ」

「デンバー侯爵さま〜、ごきげんよう〜!」


 主催者のデンバー侯爵とご挨拶。

 笑顔を交わしてと。素敵な殿方ですが、デンバー侯爵さまは既婚者。

 残念ながら主催者さまと客以上の関係にはなれませんわね。

 気を取り直して、お茶会を楽しみましょう〜!

 テーブルに並んだ、お茶、お酒、フルーツ、ケーキ。

 どれも最高に見事な美しさ可愛らしさ美味しさですわ〜!


 取り巻きの皆さまと喜びを交わして小鳥のようにお菓子をつついていく。この瞬間が何よりの幸せ〜!

 ああ、いえ、それだけではありませんわ。

 出会い!

 殿方達ともご挨拶を交わし、ご一緒にお茶とお菓子を食べながら親しくなるのですわ。

 ですが、皆さま見知った顔ぶれで。

 話すことも以前のお茶会と同じような "美味しいですね"とか"綺麗な庭園ですね"とか無難なことばかり。

 ここから一歩お近づきになるには、どうしたらよろしいの〜?

 長く取り巻きをしているのに、わかりませんわ……

 私、取り巻きとしてはエキスパートかもしれませんが。

 一人の令嬢としては……自信喪失してきてますわ……

 こんな私ではますます殿方とお近づきなんて無理ですわね。


 気分転換に庭園を見て回りましょう〜!

 綺麗な花々が花壇に咲き誇っていますわ、ミニバラ、パンジー、デイジー、ガーベラ。

 そういえば、取り巻きになったばかりの頃は花占いをしてましたわね。

 素敵な殿方に出会えるかと、今みたいに……

 またしてみましょう〜、私は素敵な殿方に出会える、出会えない、出会える、出会えない……出会え、る!


「本当ですの〜?」


 うふふ、疑いつつも、ちょっと元気になれましたわ。

 けれど、あの頃も何度か出会えると結果がでて。

 出会えてませんわね〜!?

 そうそう、私がこうして花びらをむしらずに数えていたら取り巻きエキスパートさまがいらして、


「ミモザさま、花占いで花びらをむしらないなんて、お優しいですわね。そんな貴女さまにピッタリのお優しい方にきっと出会えますわ〜」


 そう言ってくださったっけ……

 私は嬉しくなって、それを期待して。

 その後、何度か花占い中に殿方がいらしてくれて。

 素敵な出会いになりそうとドキドキしましたけど。

 一人は "花占いか。可愛いらしいことをするね、恋が叶うように祈っているよ" と微笑んでくださってそれっきり。

 一人は "俺もやってみよう!"と言って花びらをブチブチむしりだして、私がショックを受けて恋のお相手対象外にしてそれっきり。

 出会えてないですわね〜!?


「はぁ〜」


 出会えないの結果のほうが多かったから。

 仕方ないんですわ……

 今回の結果は良いはずだけど……


「ごきげんよう、ミモザ嬢」


 はっ、どなた?


「グリードさま!」


 グリード・デンバー伯爵さま。

 艷やかな黒髪に整ったお顔、メガネをクイって相変わらず知的な印象の方ですわ〜。

 ダークグレーのアビとトラウザーズのシックなスーツ姿にピカピカの革靴。洗練されたスタイルが胸を弾ませてくださいますわ。

 私のドレス姿は? 隣りにいてよろしいのかしら?

 なんてドキドキソワソワさせてくださいますわね〜


「どうした? 今度はソワソワしていらっしゃるな」


 グリードさまの鋭い眼光にはバレてしまいましたのね。

 でも、


「今度はとは?」

「ああ、先ほどは、枯れかけの花のように(しお)れていらっしゃったではないか」


 かっ、枯れかけ!?

 私は取り巻き令嬢として、一人の令嬢としてもう枯れかけ!? 萎れて!?

 グリードさまの鋭い眼光には見抜かれているというの!?


「何か、落ち込むようなことがあったのか? 」

「あ……」


 あぁ、そちらのこと。

 見た目ではなく心の様子の例えでしたのね〜

 ほっとしましたわ。


「あぁ、いいえ、落ち込むようなことは何もありませんわ」


 お陰様で笑顔も取り戻せましたし。

 ご心配かけないようにしなきゃ、そうですわ。


「花占いをしていましたの。それで、前かがみになっていたので落ち込んでるように見えたんですわね〜」


 なるほどとグリードさまは納得してくださいましたわ。


「見当違いでしたか、それなら良いんです」

「ご心配おかけしましたわ〜、ごめんなさい」

「お気になさらず。私は主催者の補佐役として、お客の様子に目を配る役目を果たしていただけですので」


 あぁ……そうでしたわね。

 グリードさまはデンバー侯爵さまの従兄弟ですから。

 王宮でも大臣の補佐官をしていらして責任感も強い方のようですし。

 お役目で見回りを……私を個人的に気にしてくださったわけではない。

 ばっさりそう断言されてしまい、また落ち込みそうですわね〜!


 グリードさまはそんな私に気づかす鋭い眼光を花に向けてメガネをクイッとなさった。


「花占いですか……」

「はい……」


 知的で大人なグリードさまには。

 子供っぽいとか思われそうですわね〜、幼稚ですねとか言われたりして。

 言い訳しませんと、私も久しぶりにしたんですわ〜。

 やらなければよかったかしら?


「花びらが落ちていませんね」

「えっ」


 そちらに気づかれましたのね……


「花占いとは、花びらを一枚一枚むしって、例えば願いが叶うか叶わないか占うものでは?」

「はい。そうですわ。ですが、花びらをむしっては花が可哀想なのでむしらずに占いましたの……」


 こんなことをグリードさまに話すとは。


「そうですか……」


 また鋭い眼光が花から私にきましたわ。

 そのまま、見つめられてメガネをクイッと……

 ドキドキ。


「思いやりのある方なのだな、ミモザ嬢は。花自体も有り難いだろうが、この花々はランスロットの奥方が大切にしてもいる。無闇にむしらないでくれて有り難い」

「そうですわね、大切な花々ですものね」


 それも忘れないようにしないと。


「私、もう花占いは止めにしておきますわ」

「それなら、ご一緒に行かないか? 向こうで奥方が自慢の花を見せているのでそちらに」

「喜んで、ご一緒させてくださいませ〜」


 思いがけない展開ですわ〜

 最初はどうなるかと思いましたが。

 まさか、グリードさまと花占いについて話すなんて。

 このまま恋としては――グリードさまは生真面目で冷徹にも見えるお顔のまま笑顔は終始見せず――進展しなくても。

 良い思い出になるのは間違いありませんわ。

 私の優しさを分かってくださった殿方ですもの……

 もう二人になるご機会がなくても。

 既にグリードさまは私の隣にいらっしゃいませんし。

 奥方さまの花紹介が終わってすぐにお別れしまして、どこかに行かれたままですわ。

 お忙しいのね。

 お茶会もお開きになり、私も帰宅の時間ですわ〜


「ミモザ嬢」

「グリードさま!?」


 馬車の前に待ち構えていらっしゃるとは。

 しかも――

 美しい花束を持っていらっしゃいますわ。


「これをどうぞ」


 グリードさまから私に花束が!

 まさか、頂けるなんて……!?


 私の驚愕の顔とは反対に。

 グリードさまは相変わらず生真面目なお顔。

 どういう事ですの? 読み取れませんわ。

 心を浮かれ騒がす花束と落ち着かせる表情のアンバランスさが初めてのことで。


「これは!?」

「これを、花占いに使ってください」

「花占い?」


 これで花占いなんてそんな。


「どうぞ、遠慮なく花びらをむしってください」

「そんな!?」


 こんな綺麗な花々をむしれと!?

 グリードさまの冷徹なお顔、心まで冷徹いいえ冷酷な、花や人の気持ちなんてわからない人でしたの?

 この出会いもまた、悲劇に……


「ご心配なく。この花々は私が魔法で作り出したものでこのように――」


 魔法?

 グリードさまが一枚の花びらを摘み取った。

 むしってしまい、花びらから手を離された?

 あっ、花びらが宙を舞ってまた花にくっついた!?


「花びらは取れてもまた元に戻るようにしました。これなら何度でも花占いができ他の花を犠牲にせずに済むでしょう」


 グリードさま……

 花を犠牲にしないようになんて。

 冷酷どころか、お優しい方だったのですね。


「魔法の花ですから、私の魔力がある限り永久に枯れず花占いができますよ」


 メガネをクイッとした。

 いつもの仕草も今回は凄く胸にきますわ……

 カッコイイ〜〜

 こんな方から花束を頂けるなんて。

 しかも、花占い用の特別な魔法の花束!

 幸せですわ〜〜!


「グリードさまも思いやりのある方ですのね」

「貴女の影響を受けただけですよ。思いやり深い貴女に相応しい花を作りたい、そう思っただけです」

「すぐに作ってくださるなんて、凄いですわ〜!」

「魔法なら、お手のものですよ」


 鋭い眼光がキラリとさらに光ったみたい。

 カッコイイ〜〜ですわ!

 こんな方から頂いた花束、一生の宝物ですわ〜!


「ありがとうございます、グリードさま! 大事にしますね」

「花占いの結果が良いものになりますように」


 グリードさま、笑顔をみせてくださいましたわ。

 良い結果が出そうですわ〜!

 お家に帰って、さっそく花占いですわ!



 それから、何度も何度も花占いにいそしんで。

 恋が叶う、叶わない。

 どちらの結果になっても、溜息ばかりですわ〜

 グリードさま……あなたさまとの恋を叶えたくて私は花占いをしていますわ……

 だって、この花束が思い出させるのですもの。

 何度も何度も。

 グリードさまの花束を持った姿を――素敵でしたわ〜忘れられません!

 きっと、この花束で花占いをする限りずっと。

 私はグリードさまに恋をしたままですわ。


 ですが、御本人には何もできないまま――

 お茶会で再びお会いできて、花束のお礼は言えたものの。


「ご活用いただけているなら結構です」


 と満足そうですが事務的にも聞こえる返答で。


 私から何かお返しをと言っても、


「 喜んで頂けたなら本望です、何もいりません」


 とキッパリお断りされましたわ。

 こうなっては、どうすることもできず引き下るしか。

 そのまま花占いでの出会いの前の距離感に戻ってしまいました。

 やはり……

 私の恋の結果は叶わないに終わりそうですわ〜……

 最後の花占いでは叶うと結果がでたのですがね〜

 落ち込むことはそれだけではありませんわ。


「今日のお茶会、グリードさまはいらしていませんわね〜」


 取り巻きの皆さまもキョロキョロ。

 私も何度もキョロキョロしましたがグリードさまはいらっしゃらない。


「きっと、お仕事がお忙しんですわ〜」

「きっと? あら、ミモザさまはグリードさまがいらっしゃらない理由をご存知かと思いましたわ〜」

「えっ?」


 皆さま、うんうんと。


「だって、ミモザさまは以前、グリードさまから花束を頂いていましたでしょ?」

「それはっ、そうですが」

「あれから、お近づきになったのでは?」


 やはり皆さまそう思いますわよね〜


「いえ、そんなことは……」

「あらっ、そうでしたの……」


 皆さま絶句してオロオロしていますわ。

 今まで静かに泳がせて、いえ、様子を見守っていた私とグリードさまに何もなかったなんて。

 気まずいですわよね〜。


「てっきり、ミモザさまはグリードさまとと思っていましたわ〜」

「ね〜」


 皆さま取り繕うように笑っていらっしゃる。

 私もなんとか笑っていないと。


「でも、おかしいですわね〜」

「え?」

「ミモザさまもグリードさまもチラチラお互いを見ていらしたのに〜」

「ほんと、てっきり花束からお近づきになり目配せしあっていると思っていましたのにね〜」


 まさか、そんな……

 私はついグリードさまをチラチラ見てしまっていましたが。

 グリードさまも私をチラチラ見ていらっしゃったというの?


「きっと、グリードさまは気があるんですわ」

「そうですわ〜」


 皆さま、からかうでもなく本気で……

 そうですわよね。私も年季の入った取り巻きの一人。

 からかう余裕なんて無いですわよね。

 私も何の余裕も無いまま、またもやグリードさまのことで頭がいっぱいになってしまいましたわ〜


 もう、お茶会も上の空で帰宅しましょう。

 そしてまた花占いにいそしむのですわ……

 ふふっ、ほんのり幸せが戻って来ましたわ。

 片想いの幸せな花占い〜〜ですわ!


「えっ!?」


 花瓶の花束から――


 花びらが落ちている!


 一枚、また一枚と……どうして、私は何もしていないのに。


 これはどういうことですの?


 花占いが勝手に?

 いいえ、花びらはそんな風に取れてない。

 だだ花々からハラハラと落ちていく――


「花占いではないとしたら……そういえば」


 この花束はグリードさまの魔力がこもっている。

 "私の魔力がある限り永久に花占いできます"とおっしゃっていた。

 それが、花びらが落ちて。


 グリードさまの身に何か起きていらっしゃるに違いない! 魔力を使い果たすような何かが!?


「グリードさま!」


 とにかく、御屋敷に!

 グリードさまを訪ねて無事を確認しないと――

 馬車に飛び乗って飛び降りて、駆けつけた御屋敷。

 使用人の方にとにかく名乗って、グリードさまに会わせてくださいませと願った。

 静かな玄関ホールで待つ時間、気が気ではありませんわ〜!


「ミモザ嬢」

「グリードさま!」


 現れたグリードさまは足取りもしっかりとして。

 階段から降りてきて目の前に来てくださった。

 乱れもない黒髪、メガネの奥の眼光、きっちりと整ったスーツのお姿。

 いつもと変わりないようですわ……


「どうなされた? 急に」


 少し驚いてはいらっしゃるようだけど、


「グリードさま、お変わりありませんか?」

「え? ええ」


 少し戸惑ったようにメガネをクイッとした。


「いえ、実は、昨日から少々熱が出ていましてね。知恵熱だとのことで休んでいたところです」


 知恵熱……知恵のある方が出す熱?

 グリードさまが罹りそうな病ですわね〜

 なんて感心してないで!


「ごめんなさい、お休みのところをお邪魔いたしまして」


 押しかけて騒がせてしまいましたわね。


「いえ、それはいいのですが」


 グリードさまの鋭い眼光が私の瞳を探っている……


「変わりないか? とは……なぜ、ミモザ嬢はまるで私の変化に気づいたかのようにここに来たのです?」

「花占いですわ。グリードさまに頂いた花束の花びらが落ちていましたの」

「ああ、あの花束は私の魔力に関係していると話していましたね」

「はい、それで、グリードさまの身に何か起きたのかもと」

「ご心配おかけしました……」


 グリードさまは納得したものの。

 まだ戸惑っているようですわ、いつもの落ち着きがない。


「申し訳なかった、ミモザ嬢。せっかくの花を散らしてしまい」

「いえ、そんなことは」

「すぐに元に戻す。花占いも問題なくできるように」

「いいですわ、そんな。お休みになってください」

「本当に心配かけてしまったな、予想外のことだ。貴女に気づかれてしまうとは」


 グリードさまは完全に狼狽えていますわ。


「知恵熱のこと、こうなったらハッキリ言うが。貴女も原因なんだ」

「えっ、私が?」


 グリードさまを苦しませる知恵熱の原因!?


「いつもは仕事のことだけが原因で知恵熱が出るんだが、今回はそれだけでなく貴女のことも考え過ぎて熱が出てしまった」

「私のこと……」

「貴女に差し上げた花束の花びらが落ちたことからも疑いようがない。私が貴女のことを考えたことが魔力を伝わって花束に影響したのだろう」


 グリードさまの考え事が花束にあらわれて。

 花びらを落としたのですか、花占いのように――


「まるで、花束が勝手に花占いをしているようでしたわ」

「ははは、お恥ずかしい……私の気持ちが花束を伝わってバレてしまったな」


 グリードさま、照れくさそうに笑って。

 顔を伏せて落ちないようにメガネを押さえている姿。

 胸がキュンとなりますわ〜〜。


「確かに頭のなかで花占いをしていました、ミモザ嬢にまた会えるか会えないか、話せるか話せないか、距離を縮められるか縮められないか」


 グリードさまったらそんな。

 一つ一つの行程を花占いしていたなんて。

 私より乙女ですわ〜!

 ですが、また顔を上げて見つめてくるメガネの奥の眼光はカッコイイですわ……


「グリードさま……私もグリードさまを想って花占いしていましたの」


 言ってしまいましたわ……

 これで初めて私の花占いにきちんと結果が出るのですね。


「ミモザ嬢、結果は?」

「はい、私の花占いでは恋は叶うとなりましたわ」


 ですが、


「グリードさまの結果は?」


 メガネの奥の眼光がやわらいで。

 優しい嬉しそうな笑顔が浮かんだ――


「もちろん、恋は叶うとなりました」


 やりましたわ〜!

 私の恋の花占いの結果、見事ですわ!

 やっと叶いましたのね〜〜!?


 メガネを外したグリードさまの笑顔も初めて見れて。

 恋の成就を証明するかのようなキス。

 花束が世界一似合う優しい婚約者さまができ。

 私もこれで取り巻き卒業ですわ〜〜


 幸せをくれた花占いは一生続けますわよ〜!

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