004 獲りに行こうよ
「まぁこうなっちまうと、仕方ねェわな」
仮眠室での押し問答が一段落した頃、廊下から騒がしい足音と、場にそぐわない軽い口笛が聞こえてきた。
「よぉよぉ、若大将が死んだってマジか!? チカが、おれと未来ちゃんにそんなこと言ってきたぞ!? 上等じゃねェか!! 創麗の本社を更地にしてやるよ──んん?」
勢いよく扉を蹴り開けて入ってきたのは、最高幹部の一人、相川理人だ。彼は赤髪に派手なスカジャンを羽織り、いかにも「お調子者の半グレ」といった風貌で部屋を見渡した。相川は、若葉直属の半グレ集団『ヒーローズ』を率いる男である。
「誰、この子? 大智、オマエもロリコンなのか?」
相川はベッドの上に座る少女を指差してケラケラと笑うが、その瞬間、彼の細められた瞳の奥が鋭く光った。彼は一見バカに見えて、その実、組織内でも随一の鋭い洞察力を誇っている。
「いや、待てよ。目が若大将だな。けど、若大将って21歳だろ。12歳くらいのガキがいるわけねェし、親戚とも思えねェ。ってことは──」
相川は、口角を上げる少女の顔を覗き込み、またもやケラケラ笑い出した。
「アンタ、若大将だろ!! おれの直感は外れねェぞ!!」
「さすがだね、相川くん。鼻が利かなきゃ、半グレどものボスは務まらないもんね」
「そりゃそうさ! おれは馬鹿で利口だからな!」
「さて、後は未来さんだけだね」
「未来ちゃんもそろそろ来るだろ。しっかし、若大将。その見た目だと、未来ちゃんが──」
もう一人の人影が、音もなく室内へ滑り込んできた。テレポートである。
「……あら」
私設軍隊『虚無僧部隊』を率いる桑原未来だ。彼女は部屋に入るなり、若葉の姿を凝視したまま凍りついた。彼女と若葉は趣味がやたらと合うので、個人的に親しい仲だ。だが、彼女には周囲に隠している(つもりの)致命的な性癖があった。
「若葉総長……なの? いや、若葉ちゃん? その、きめ細やかな肌、つややかな髪、そしてその……小さくて可愛らしい手足は」
桑原は、普段の冷徹な暗殺者としての仮面を捨て去り、頬を赤らめて若葉に歩み寄った。彼女の目の色が、あからさまに変わったということは、すなわち、桑原のロリコン・ショタコンセンサーが作動したというわけだ。
「苦節28年、苦しい日も辛い日もありました。しかし、あたくし桑原未来はついに宝を掴み取ったのです!! さぁ、若葉ちゃん!! あたしの胸に飛び込んで!!」
「わっぷ!? 飛び込んでないですよ!? 飛び込んできたのはそっちですよ!?」
桑原に抱きつかれ、その巨乳を押し付けられる。さすが暗殺者なだけあって、腕力は並みのものではない。本当に圧死するかもしれない、と思った若葉は、ダーク・マターの重力で彼女を引き離した。桑原は「うげッ!?」と仮眠室の壁にぶつかって悶絶するも、自業自得なので誰も同情しない。
「……というわけで、幹部連中が揃ったな。チカもすぐ戻って来るだろう。さて、これからどうする? 2代目総長」
高杉が彼らしく冷静にまとめ役を務めると、若葉は強気に宣言した。
「決まっているでしょ、高杉くん。獲りに行くんだよ……〝パクス・レガリア〟」




