002 僕は女の子になりたかった
若葉は溜め息をつき、高杉へ告げる。
「なら、炎の弾丸を放ってみてよ。それを無効化したら、ダーク・マターだって証明できるでしょ?」
高杉は「試させてもらうぞ」と短く吐き捨てると、愛用の大型拳銃を抜き放った。その銃口からは、彼の能力である高熱の炎が渦を巻いて溢れ出す。
「言っておくが、本気だからな……!!」
放たれたのは、単なる鉛の弾丸ではない。空気を焼き焦がすほどの熱量を帯びた、紅蓮の「炎の弾丸」だ。並の強化人間であれば、着弾の衝撃と熱破で一瞬にして炭化する代物である。
しかし、ベッドに腰掛けた少女――若葉は、退屈そうに欠伸を噛み殺しながら、白く細い右手を無造作に突き出した。
そして、高杉はニヤッと口角を上げる。
「へッ、〝絶対虚無〟を生み出せる能力者は、オマエしかいない。なぁ、2代目」
着弾の寸前、若葉の手のひらに黒い影が映った。それは炎の弾丸を吸収し、深淵の中へと閉じ込めてしまう。
世界でも数少ない、創麗の息がかかっていない天然の能力者。ダーク・マターという大層な名前に負けない、インチキじみた力。爆発音も、熱風も、火花すらも発生しない。ただ、そこにあったはずの破壊エネルギーが、宇宙の深淵に呑み込まれるように無へと帰した。
「まぁーね」気の抜けた声色だった。「ところでさ、替えの服持ってきてくれない? 桑原さんと僕って身長変わんないからさ、あのヒトに連絡をとって──」
「いや、オマエが2代目なのはおれが証明するが、まずは犯人探しだろ。おれたちのボスを少女にしちまった野郎……創麗の連中だと思われるが、幹部会の直後にこうなっているんだから、最高幹部にスパイがいると考えるべきだろう」
高杉は銃を収め、冷静に話を進めようとする。
「高杉くん、もし本気で僕を殺すつもりの幹部がいるのなら、わざわざTS化なんて挟まない。能力が弱体化したわけでもないしね」
「そりゃそうだが、下っ端どもは少女には着いてこねェぞ。そうなれば、オマエは2代目でありながら身動きができなくなる。犯人を探して、解毒剤を用意させるしかない──」
「嫌だよ。僕、この姿気に入ったもん」
「あァ?」
「10代特有のきめ細やかな肌、つややかな黒髪セミロングヘア、小ぶりなおっぱい、最高じゃん?」
「……若葉、もうオマエはスターリング・ファミリーの2代目なんだぞ? 私情で動ける身分じゃねェ。それくらい、分かっているだろ? 21歳のオマエが跡目を継いだことに、反感を持つヤツは少なくねェ。それが10代前半になりました、って発覚してみろ。おれらの結束は台無しだ」
高杉はわざとらしく手を広げ、あくまでも冷静沈着に理詰めしてきた。
「まぁ、なるにはなるでしょ。だいたい、ドンが10代前半の少女だからって、組織から抜けるようなヤツは最初からいらないよ」
押し問答を繰り返し、結局答えが出ない。そんな若葉と高杉を見かねたのか、黒いスーツにネクタイピンの情報担当責任者・波留親弘が仮眠室へ入ってきた。
「2代目、ご無事でしたか」
「うん。どうせ君が仕組んだんでしょ? 波留くん」




