001 ある無法者は黒髪少女になったようです
日本を震撼させた無法者集団、『スターリング・ファミリー』。この構成員45000人を誇る大組織は、大真面目に日本征服を企んでいた。日本を実質的に支配する大企業『創麗グループ』とも対等にやり合い、ついに創麗の会長暗殺に成功。これによって、創麗の支配構造は大きく揺らいだ。
しかし、創麗としてもやられっぱなしでは終われない。彼らはまず、スターリング・ファミリーの二代目総長〝伊東若葉〟の暗殺を試みる。創麗は、スターリング・ファミリーに忍ばせておいたスパイの情報を元に、幹部会が東京で行われるという情報を掴む。そしてそのスパイを使って、毒薬を飲み物に入れることで、若葉を始末する計画を立てたのだった。
「これからは僕たちの時代だ。〝暴力による秩序〟を、必ず築こう」
定例幹部会が終わり、若葉は身体を伸ばす。妙に胃腸が痛いし、頭痛も激しい。若葉はオフィスの仮眠室に向かい、ベッドに寝転がって様子を見ることにした。
薄暗い仮眠室のなか、伊東若葉の意識は熱病のような混沌に沈んでいた。
胃を灼くような激痛と、頭蓋を内側からノミで穿たれるような頭痛が交互に押し寄せる。指先ひとつ動かせない。創麗グループが放った毒薬は、細胞の結合を分子レベルで組み替え、遺伝子の螺旋を強引に短縮させていた。
「あ、が……ッ!?」
喉から漏れたのは、かつての威厳ある低い声ではない。濡れた子猫のような、細く高い悲鳴だった。
それから数時間後、静寂に包まれた仮眠室の扉が、遠慮のない音とともに開かれた。
「若葉、緊急だ。創麗の連中がオマエを始末するとタレコミが──」
土足で踏み込んできたのは、最高幹部の一人、ナンバー2の高杉大智だ。切り込み隊長として数々の抗争を勝ち抜いてきた巨躯の男は、ベッドに横たわる「なにか」を見て絶句した。
「……あァン? オマエ、誰だ?」
銀色の派手なスーツの高杉の目に映っているのは、ブカブカのスーツに埋もれた、10代前半にしか見えない黒髪の少女だった。
「創麗が僕を始末するつもりだったのか。そりゃそうだろうね。なんせ、会長を暗殺しちゃったんだから」
「おい、質問に答えろよ。オマエは誰だ?」
「伊東若葉だよ。スターリング・ファミリー2代目総長で、いつかこの街を変革する男さ」
「いや、オマエ女だろ。鏡持ってきてやるよ」
高杉は適当な手鏡を若葉に渡した。若葉はしばし言葉を失うも、やがてニンマリと嬉しそうな表情で、
「高杉くん。僕はさ、こんな世の中じゃなかったら、性転換手術を受けようと思っていたんだよ」
「はァ? 性転換? わけ分からんぞ」
「僕は男のヒトが好きだからね~。けど、ゲイのヒトたちは僕みたいなナヨナヨした男を嫌う。だから半ば諦めていたんだけど……人生悪いことばかりじゃないね」
高杉は目を細める。「まぁオマエのジェンダーはどうだって良いが、毒薬を盛られたのは事実だぞ? お得意のダーク・マターは使えるのか?」
「へェ、僕を伊東若葉だと信じてくれるんだ」
「ダーク・マターが使えるなら、信じてやるよ」




