オオカミ少年異聞
※本作はフィクションです。実在の法律・人物・団体とは一切関係ありません。
むかしむかし
ここは羊飼いの集う村。
時は夜。猫の目でも一寸先が見えないほどの深い闇が辺りを包みます。
「狼だぁ!!狼が出たぞー。助けてくれ、狼だぁ!!」
突如、大きな声が村中に響き渡りました。
まだ幼さの残る少年の声です。
途端に村中の家々から男たちが飛び出しました。
皆、手にクワやスキ、松明などを手にしています。
「はい駄目!
村長。この後お話があります!」
再び少年の声が響きました。
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ところ変わって村長邸。
村長と少年が向かい合わせで座っています。
「村長。村の皆さんは私が叫ぶや否や、すぐに武器を携えて家を飛び出しました。あれはいけません。一番やってはいけないパターンです。」
「何故だ?これ以上無い迅速な行動じゃ無いか!」
「だからです。
あれは僕が叫ぶことを待ち構えての行動です。
いつ来るか分からない実際の狼に、同じことが出来ますか?
『訓練のための訓練』では駄目なんですよ。」
少年は、対狼に特化した防災コンサルタントなのでした。
「そもそも、村を囲む柵の近辺まで狼に接近を許している現状が既に非常事態です。
まずは周囲の警戒を厳重にしてください。
護衛犬と共に村の外周を見回り、獣道や糞の跡を見つけたら付近に罠を仕掛けましょう。
とにかくこれ以上寄せ付けないことです。
そのうえで、最終防衛ラインである柵までオオカミの接近を許してしまった場合の訓練について、行動計画を提出してください。後日机上訓練を行います。」
一気にまくし立てる少年。
「お、おう。」
村長はタジタジです。
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数日後、村長の提出した行動計画を元に、机上訓練が始まりました。
「満月の夜、天候曇、無風の条件で行きます。
はいスタート。村の外周、ポイントAに狼3頭出現。」
「見張り台の深夜番が発見した。」
「どうやって?天候は曇です。完全な暗闇です。見えません。却下です。3頭周囲を徘徊中。」
「ぐっ!…っ村内警戒班の巡回に任せる。」
「班数は?班の構成は?」
「3人+護衛犬の構成で3班体制だ。夜間は常時2班が柵の内周を巡回している。」
「良いでしょう。では30分後、警戒班が狼を発見。」
「警戒班が笛を鳴らし、柵の内側から松明で威嚇する。」
「ポイントAの狼の撃退に成功。
次、ポイントBに狼出現。近くの別の警戒班が発見。警戒班の人員は?」
「トム、ヨハン、ボイドだ。」
「では、トム、ヨハンはポイントB付近に仕掛けたトラバサミに自らかかり脱落。残り1人が助けを呼びに現場を離脱。
ポイントBの狼の侵入確率上昇。」
「そんな無茶な!!」
「次。狼2頭がポイントNの柵を突破。村内に侵入。」
「ちょっと待ってくれ!そんな後出しで…、」
「待ちません。さあどうしますか?」
「いや、ええと…、柵はこの訓練に向けて完璧に整備したので、それを前提にしているからな。その…」
「では駄目ですね。羊は全滅です。」
「おいっ!
そんな後出しで何でもありじゃあ、対処なんてできるわけがないじゃないか!」
「本当の狼の前でもそれを言えますか?
それに、私の言ったことには根拠があります。
以前、ポイントBにトラバサミを仕掛けた時、トムとヨハンは別用でその説明の場にいませんでした。
その後、全体説明を行いましたか?
知らない可能性が高いです。
ポイントNは見回りから報告は無いですか?
見に行けば分かります。狼が柵の下を掘った跡があります。あと数日もあれば侵入されます。」
「なんと!そこまで目を配って…。」
「日々警戒を怠らないでください。刻々と変わる状況を見落とさないでください。情報指揮系統を明確にして、情報と命令の共有を徹底してください。狼に常に警戒していることを知らしめてください。
狼を撃退することが最終目的ではありません。狼にこの村を襲うメリットが無いことを分からせることが最終目的です。」
毅然と言い放つ少年に、村長の目の色が変わりました。
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それからというもの、村長はとても協力的になりました。
そして少年の厳しい指導のもと、厳しく鍛えられた村人たち。
そんなある年のこと。飢饉がその地域を襲いました。
飢えにより、危険を顧みず食べ物を求め人里に現れる狼の群れ。
多くの村の羊が犠牲になりました。
しかし、少年の村は、一頭の羊も犠牲になることはありませんでした。
それを見届けると少年は村を去りました。報酬代わりに羊1頭を連れて、次の村へと。
かつて【狼少年】と呼ばれた少年。
彼の忠告に耳を貸さない村人に嘘つき呼ばわりされた挙句、村もろとも全ての羊を失った。
そんな過去を持つ少年は、誰よりも狼のことを憎み、誰よりも狼のことを知っていました。
オオカミの被害を減らしたい。そんな少年のコンサル旅はまだまだ続きます。




