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第二話 ショッピングに連れ出されました




ブラック企業勤めの晴時にとってはかなり貴重な日曜日。

普段であれば日頃の疲れから動く気力もなく、部屋で惰眠を貪っているのだが、いまは契約獣となった柘榴に強請られて断りきれずショッピングモールへと足を運んでいた。



『ほら、晴時!こっちにもスイーツがあるんでしょ!早くいきましょ!』

「はいはい、そんなに急がなくてもなくならないから」



あの後、とりあえず何かしなきゃいけないわけでもなかったので、ただボーッとテレビを観ていたのだが、偶然お昼の番組でやっていたスイーツ特集を観た柘榴がスイーツを食べたいと騒ぎ始めたのだ。


ただ流石に、柘榴の額の角といい、着物姿のままだと人目を惹く。どうしようかと悩んでいると柘榴はなんだそんな事?といった風に、テレビに映っていた通行人を品定めでもするかのように凝視する。

数人の通行人が映った後、1人の純白のワンピースを着た通行人を観て「あ、この服装が良いわね」と言って、着物を翻したかと思えば、テレビの中の通行人と同じワンピース姿へと姿を変えた。



『あ、ちゃんと角も隠さないといけないわね。これなら問題ないわよね?どう人間っぽく見えるかしら?』

「ははは……マジで何でもアリだな」



柘榴が手で額を撫でるとあった筈の角は跡形もなく消えており、一見すると普通の女の子と比較しても何の変哲もない姿になっていた。


自慢げに腰に手を当てて胸を張る柘榴。これで断る理由もなくなってしまったわけで観念した俺はいまこうして柘榴と一緒にショッピングモールを巡っていた。


ちなみに既にケーキバイキング、アイスクリーム、タピオカと柘榴の気になるお店はすべて巡ったせいで財布の残りの残金はかなり心許ない金額になってしまったが、それでも柘榴の楽しそうなこの笑顔が見れたので良しとしよう。



『ねぇ、晴時!私、あれ食べてみたいわ!くれーぷってやつ!』

「おいおい、あんまりはしゃぐなよ?ただでさえお前は綺麗なんだから人の目につくんだぞ」

『それはお得意の口説き文句なのかしら?お世辞だとしても嬉しい一言ね。それに何かあったとしてもへーきよ。何かあれば権能でどうにかするもの』

「揶揄うな。と言うか、そろそろその権能ってやつについても教えてくれてもいいんじゃないか?」

『そうねぇ……あとあのぱふぇとかって言うのを買ってくれたらいいわよ』



まだ食べる気なのかと驚く。そもそも契約獣に満腹という概念があるのかはわからないが、それでももうかなりの量を食べているのにこの細身のどこにそれは消えているのだろうか。


これで最後にするからと言う柘榴の押しに負けて、結局、柘榴は看板に載っていたこの店1番人気のジャンボマウンテンストロベリーパフェを、俺は1番安いブラックコーヒーを頼むことにする。ほんとに山のようなサイズのパフェを幸せそうな顔で頬張りながら柘榴は話し始める。



『それで?私の権能は何だと思う?』

「いきなり問題かよ!」



すんなり教えてくれるわけではなく、柘榴は権能が何かと逆に問い掛けてくる。



「まぁ、見たまんまの力なら言葉にした事象を現実にするみたいな力か?」

『正解。私の権能は『言ノ御魂』。ただ、単純に言葉にしたことがぜんぶ何でもできるってわけじゃないわよ?いくつかの制約と制限がちゃんとあるわ』

「手で触れる、とかか?」

『惜しいわね。身体のどこでも構わないけど、【言ノ御魂】を当てたい対象に触れることが1つ目。あとはイメージの力ね』

「イメージ?」



柘榴は頷き、いつの間にか食べ終わったパフェの透明なガラス製の器の縁を指でなぞりながら話を続ける。



『例えば、この器を壊すとしたら晴時ならどうする?』

「地面に投げたりとか?」

『まぁ、普通ならそうでしょうね。その答え自体は間違いじゃないわ。でも、正解でもないわ。言葉には晴時が思ってるよりも力があるの。それこそこの器なんて簡単に壊すことができるくらい』



【言ノ御魂】とは、発した言葉通りの結果が現実になる言霊のような力。柘榴が言うイメージの力というのは、この発した言葉通りの結果をイメージできるかどうかという事らしい。


例を挙げるなら、俺自身がイメージできているなら【言ノ御魂】はそのイメージ通りの結果を現実にするし、逆に絶対にできないと思っている事を俺が言葉にしたところでその言葉には【言ノ御魂】は発動しないという事だ。



だから、俺がこのガラス製の器を壊せるイメージさえあれば壊せるのだろう。



「…………【砕けろ】」



ガラスが割れて砕ける瞬間を何度も頭の中で反復しながら、そのイメージを持ったまま俺は言葉を口にする。


その瞬間、ガラス製の器は砕けはしなかったものの、器にはピシッと一筋の亀裂が現れた。

それと同時に軽い眩暈の様な脱力感が身体にやってくる。



「あれ?」

『あ、言い忘れてたけど、権能自体無制限で使えるわけじゃないわよ?いまの晴時だと…………そうね、短時間に連続して使うなら10回程度が限界じゃないかしら?使えば使うほど権能に慣れて使える回数も増えていくでしょうけど』

「器が割れなかったのはなんでだ?」

『まだ心のどこかでできるわけがないと思ってるんでしょうね。固定概念ってそんなものよ。むしろ、最初にしてはセンスがあるわ。こっちもあとは練習するのみよ』



言うは易し、行うは難しとはよく言ったものだ。ちゃんとイメージしたつもりだったのに、うまくいかない。


柘榴の言う通り、まずは練習あるのみか。

どうやって練習をしようかと考えていると、いかにもといった風貌の、体格の良い、金髪オールバックに純金のゴツいアクセサリーをジャラジャラと身に着けたチャラい男が俺達の席へとやってきて、男は柘榴の腕を掴みニヤニヤとした薄ら笑いを浮かべていた。


その目線は柘榴の顔から爪先までを舐めるように見て、お眼鏡に適ったのか舌舐めずりをしながら声をかけてくる。



「君ぃ〜、めっちゃ可愛いじゃん?こんなオッサンなんかと一緒にいてもどうせ暇っしょ?パパ活ってやつ?だったらさ、俺達と一緒に楽しい事しない?」

『ふふ、ご遠慮させて頂きたいわ。だってあなたみたいな雑魚と一緒にいてもどうせ暇だもの』

「………え、なになに?俺がこんなオッサンより弱いって?」

『ええ、晴時のが強いわ。何度も確認しなきゃ理解できないなんてよっぽどオツムが馬鹿なのね。雑魚で馬鹿なんて救いようがないわね』

「テメェ………」



満遍の笑みで男を罵倒する柘榴。その様子を見た周囲の席からはクスクスと嘲笑が聞こえ始め、男の顔は茹で蛸のように赤くなり、額にはビキビキと青筋が浮かぶ。


その姿を見て柘榴は何かを閃いたようにニヤリと意味深な笑みを浮かべる。



『晴時、丁度いいわ。いい練習台ができたじゃない?』

「おい、まさか!?」

『ねぇ、あなたにチャンスをあげるわ。この人に勝てたらあなたの言う事を何でも聞いてあげるわ』

「上等だ………覚悟しろよ、オッサン」



柘榴の言葉に嫌な予感がしたので言葉を遮ろうとするも、時既に遅し。やりやがったと俺は手で顔を覆うが、もう既に男はやる気満々でどうにかできるとも思えない。



(最悪だ………)



親指でクイッと着いてこいというジェスチャーをする男と、素直にスタスタと歩いてその後ろを着いていってしまう柘榴に俺はもう観念して着いていくことにする。



◆◇◆◇



「さぁて、ここなら誰もこねぇだろ」



連れられて着いてきた先は、ショッピングモールからすこし離れた場所にある寂れた廃工場。


かなり昔に潰れたのか錆びた機械には埃が降り積もり、窓ガラスのほとんどがヒビ割れ床に散らばり、歩くたびにそれがバキバキッと踏み割れる音だけが周囲に響く。


確かにこれならちょっとやそっとの騒ぎでは誰もこないだろう。



『じゃあ、頑張ってね、晴時』

「いやいやいやいや!?まだあんなガラスの器すら割れないのにいきなり実戦でどうしろって言うんだよ!!喧嘩なんて俺したことないぞ!?」

『実戦こそ1番の練習よ。ほら、言い合ってる暇はなさそうよ?』



次の瞬間、隙だらけの俺の頬へと男の拳がめり込み、俺は突然のことに何もできずにその勢いのまま地面をゴロゴロと転がる。殴られた際に口の中を切ったようで、口中に血の味が広がり、唇の端からは血が垂れてるのがわかる。


袖で唇を拭い起きあがろうとするが軽い脳震盪にでもなったのか、足が産まれたての子鹿のように震えうまく起きあがれない。



『威勢はいいけど素人ね。ほら、この程度に苦戦しちゃ駄目でしょ、早く権能を使っちゃいなさい』

「無茶ッ…言うなよ……」



柘榴の言う素人の拳ですらこっちからすればかなりの脅威なのだ。殴られた頬は痛いし、頭はボーッとするし、起きあがれないし。


とは言え、このまま何もできませんでしたでは話にもならないので、とりあえずできそうな事はないかと考える。柘榴のように派手な事はまだできないにしてもまずは相手の動きを何とかして封じなければと思い、地面に手をつく。



「【壁になれ】ッ!!」



俺の言葉に従って床の一部がボコボコと盛りあがるが、イメージが足りてなかったせいか、イメージしていたような壁ができるのではなく、その高さはせいぜい30cm程で壁としての役割には到底及ばない。


でも、俺を殴る事だけに意識が向いていた男が躓くにはいい高さだ。



「うおッ!!?」



高さ的にも躓く程度の高さだが、場所が悪い。

急に足元に現れた段差に躓いた男はロクな受け身も取れずにガラス塗れの床に転がって顔や手にガラスが突き刺さる。


しかし、所詮は転んで擦り傷を負っただけで、すぐにまた起きあがってくる。そうなる前に俺は言葉を紡ぐ。



「【壁になれ】ッ!!」

「ぶべッ!!」



今度は転ばせるためではなく、男の顔がある位置を狙って床の一部を隆起させる。勢いよく盛りあがった床は男の顔面にぶつかり、男の鼻からは鼻血が噴き出す。


それでも、やはりその高さは30cmほどで、この一撃だけでは男の意識を奪うにはまだ足りない。だから、何度でも繰り返す事にする。



「【壁になれ】【壁になれ】【壁になれ】【壁になれ】【壁になれ】【壁になれ】【壁になれ】【壁になれ】【壁になれ】【壁になれ】【壁になれ】——————ッッッ!!!」



俺が言葉を口にする度に床が隆起し、次第にその高さは50、60、70と増していく。最後には1mほどの突起が床から現れて男の鳩尾へと直撃してその身体を宙へと持ちあげる。


ベチャッと地面に落ちてきた男はもう意識もないようでピクリとも動かない。



暫く待っても男が起きあがってこない事を確認して、俺はようやく安堵の溜め息を零す。



『ね?やっぱり実戦こそが1番の練習になるでしょ?』

「勘弁してくれ……」



こんなのはもう御免だと心の底から思うのだった。





















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