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三題噺もどき4

作者: 狐彪

三題噺もどき―ななひゃくごじゅうに。

 




 カーテンの隙間から、暗い部屋に一筋、光が入り込む。

 まだまだ外は明るいのか、白いその光は寝起きの目には少し痛い。

 でもきっと、明るいのも今の内で、あっという間に暗くなってしまうのだろう。

「……」

 そして、知らぬ間に月が昇り、いつの間にか沈んでいく。

 追いかけるようにして太陽が顔を出し、その陽の下を人間は生きていく。

 私のような、夜しか知らぬ化物は、その陽を憎むか、羨むかのどちらかだろう。基本的には脊髄反射的に大抵のやつらが恨んでいる。羨むのはごく少数だ。

 ……私はどちらでもないな。

「……」

 幼い頃は、憎みも羨みもしたかもしれないが。

 今はもう、その陽を浴びたところで死ぬわけでもなし、羨んだところでどうにかできる事でもなしと、分かっているから。

 それに、陽を羨んで、その下を生きるようになっては、そこで生きられない私の家族と離れることになってしまう。

「……」

 それはまぁ、避けたいことだし。

 そこまでして陽の下を生きたいのかと言ったら、そんなものでもないから。

 ……まぁでも、人間の生活に興味はあるし、この国は根付く文化があるから、それに惹かれることはあるわけで。夏祭りとか、初詣とか、そういう事はやってみたいと駄々をこねるけど。

 なんだかんだと付き合ってくれるから、たまにそうやってわがままを言ってみたくなる。

「……」

 お祭り騒ぎなんて、一番嫌いな空間だろうに。

 人との距離が近すぎるのも、苦手にしているのに。

 それでも付き合ってくれるのだから、ありがたいものだ。

 まぁ、そんなことを言ったら、これも仕事の一環だからとでも言うんだろうけど。

「……、」

 外から、賑やかな声が聞こえてきた。

 今日も変わらず、元気に走り回っている子供たちがいるようだ。

 あぁ、彼らを見ていると、羨む気持ちが沸かないでもないな……。あんな風に駆けまわって、何も気にせず何にも怯えず、暮らしてみたかったと、思わなくも。

「……」

 まぁ、それもこれも叶わぬことだし。

 今だって、十分すぎるほどに。

 幸せな生活をしているのだ。

 守るべき家族が居て、守られていて。

 静かな生活ができて、たまに賑やかになって。

「……」

 カチ、カチ、カチ、

 と。

 時計の針の音が聞こえてくる。

「……」

 その近くに置いてある鳥籠の中身は。

 空っぽだ。

 空気だけがそこにある。

 空虚な、虚しい。

「……」

 いつものことなのに。

 なぜだか。

「……」

「……」

「……」

「……、」







「ご主人―」

「 ………」

 真っ暗な部屋の中に、開けられた扉の先から光が入り込む。

 廊下の電気をわざわざつけてきたらしい。

 逆光のせいで少し影になっている表情は、あまり見えない。

「起きてますか」

 そういいながら、容赦なしに部屋へと入ってくる。

 まぁ、コイツにとっての寝室でもあるから入るなとは言えないのだけど。

「起きて、早く動いてください」

「……、」

 いつもの時間になっても来ないことに痺れを切らして、起こしに来たらしい。

 ぱち―と、目が合う。

 それで、起きていると気づいたくせに―気づいたからか―かけていた布団をはぎ取ろうとしてきた。冷房が効いているのでここは少々冷える。かと言って切ると熱いのだからままならない。

「もう朝食できますよ」

「……」

 そう言うが、いつも私が朝シャワーを済ませてから出来上がるように調節しているのは知っている。だからきっと、これも方便でこれから作るのだろう。

「……なんですか」

「……なんでも」

 よく見たら今日は可愛らしいエプロンをしていた。

 何かのキャラクターなのか知らないが、デフォルメされたような馬が一面に配置されている。どこでこんなもの見てくるんだか。

「……おはようございます」

「あぁ、おはよう」

 つい先ほどまでの、よくわからない感情は、いつの間にか消え去っていた。

 今はもう、コイツが居るから。





「……何をニコニコしているんですか」

「してないだろう、そんな顔」

「してなくても分かるのでやめてください」

「なんでだ……」













 お題:お祭り・馬・脊髄

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