第1巻 第22章 ― 邪悪な果実
デイビッドは真紅の果実にがっつくようにかぶりついた。
満足感の波が全身を包み、ほんの一瞬だけ、世界の何も自分を止められないように感じた。
食事を終えると、ルーシーは眠りにつき、デイビッドとエマは木の洞から外へ出た。
見渡す限り、どこまでも水の大地が広がっているだけだった。
そよ風が頬をなで、頭が少しすっきりした頃、デイビッドはエマの方を向いて歩きながら言った。
「なあ……剣の使い方、教えてくれないか?」
突然の言葉にエマは目を瞬かせたが、すぐに短く答えた。
「いいわ。」
デイビッドの口元にわずかな笑みが浮かぶ。
「いつから始められる?」
エマは即座に答えた。
「今よ。剣を抜いて。」
その即答にデイビッドは一瞬たじろいだが、すぐに気を取り直して剣を抜いた。
「構えを見せて。」
エマが言うと、デイビッドはぎこちない姿勢で剣を構えた。
エマは近づき、姿勢を指摘する。
「構えが違うわ。脚が開きすぎているし、握り方も全然だめ。」
デイビッドは言われた通りに修正した。
「いいわね。じゃあ剣を振りなさい――五百回。」
その瞬間、デイビッドは激しく後悔した。
(なんであんなこと頼んだんだ…)と顔に出ていたが、それでも振り始めた。
一時間が経過した。
全身に重く疲労がのしかかる中、ようやく最後の一振りを終える。
エマは近くに座り、静かにその様子を満足そうに見つめていた。
デイビッドが何か言おうとしたその時、低く唸るような音が空気を切り裂いた。
――魔物の咆哮だった。
静かで、爪の音を響かせ、恐ろしいほどに自信に満ちた気配。
デイビッドはすぐに身をかがめ、エマと共に身を隠した。
エマが以前見た、あの魔物が現れ、地面を踏みしめながら近づいてくる。
それはデイビッドが訓練していた場所の近くで立ち止まり、空気を嗅ぐように鼻を鳴らした。
そして不気味な唸り声を漏らすと、遠くの方へとゆっくり歩き去っていった。
息を殺したまま、二人は魔物の姿が完全に見えなくなるまで動かなかった。
ようやく姿が消えると、同時に安堵の息をついた。
「今の……何だったんだ?」
デイビッドが囁く。
「わからない。」エマが静かに答える。
「でも、初日に私たちの近くを通ったのも、あれだった。」
デイビッドの背筋に冷たいものが走った。
もし初日に見つかっていたら――そう思うだけで血の気が引いた。
二人は急いでルーシーの眠る木の中へ戻り、魔物が完全に去るまで黙って待ち続けた。
そして日々が過ぎ、一週間が経った。
毎日、デイビッドはエマの厳しい指導のもとで鍛錬を積み、二人は慎重に魔物の通り道を避けながら過ごした。
一方のルーシーは、奇妙な眠りに囚われたままだった。
目を覚ますのは、ただもう一つ果実を食べるためだけ――
そしてまた静かに眠りへと落ちていった。




