第1巻 第20章 昼の海
小さなボートに乗り込み、彼らはゆっくりと島から離れていった。
途中、彼らは五つの島を見た。どの島も崩壊し、波の下へと沈んでいく最中だった。
一時間が過ぎた。すでに三十キロ以上進んでいた。太陽は今も真上でまぶしく輝いている。
その時、エマがふと何かに気づき、次の一言で二人の表情が固まった。
「これ…海じゃなくて、大洋なんじゃない?」
デイビッドは眉をひそめた。
「どうしてそう思う?」
「ほら、あの遠くを見て。水面が地平線の向こうに消えていくでしょ? あれは大洋の特徴よ。」
「確かに…ということは、日が沈む前にたどり着けなければ、あの島々と同じ運命をたどるかもしれないということか。」
その間、ルーシーは汗をにじませながら眠っていたが、突然悪夢から目覚めたように体を起こした。
エマがすぐに尋ねた。
「どうしたの?」
「……言えない。」
ルーシーの声は震えていた。
エマはそれ以上追及しなかった。何か深刻なことが起きたのだと察したのだ。
一方でデイビッドは、警戒を緩めることなく南へと漕ぎ続けた。
太陽はすでに西の空へ傾き、空気は張りつめていた。
その時、十キロほど先に巨大な木が見えた。
「前方のあの木、見えるか?」とデイビッドが言った。
彼らがその方向を見ると、その木は信じられないほど巨大だった。高さはおよそ一キロ、幅もほぼ同じだった。
彼らはその木を目指して漕ぎ続けた。しかしその間に太陽は完全に沈み、辺りは闇に包まれた。聞こえるのは波の音だけ。死のような静寂が広がった。
暗闇でも目が見えるデイビッドは、進路を変えずに木の方へ向かい続けた。
突然、水面が激しく渦を巻き始めた。まるで竜巻のような大渦が生まれ、ボートは今にも壊れそうだった。
恐怖が三人を襲う。木まであと二百メートルというところで、ボートはついに真っ二つに裂け、彼らは冷たい海に投げ出された。
ルーシーは泳げず、波に飲まれて咳き込んだ。デイビッドは彼女を背に担ぎ、渦から逃れようと必死に泳いだ。しかし、体力は急速に尽きていく。
エマはなんとか渦から抜け出したが、その代償としてほとんどの力を使い果たしていた。戻れば自分も溺れると分かっていた。
「デイビッド、私を置いて! 二人とも助からない!」
ルーシーが叫んだ。
「くそっ……置いていけるわけがない……。仕方ない、目隠しを外すしかない。」
デイビッドは目隠しを引き裂いた。すると、力が一気に倍増した。腕を振るたび、渦の外へと近づいていく。
ついに穏やかな水域にたどり着くと、デイビッドはエマのもとへ泳ぎ、ルーシーを彼女に託した。
そして、力尽きたように意識を失い、水中へ沈みかけた。
エマは彼を抱きかかえ、必死に木へと泳いだ。
やがて、巨大な幹の前にたどり着いた。木の葉は血のように真紅だった。
その時、低い唸り声が響いた。エマは慌てて樹皮の裂け目に身を隠した。
そこを、巨大な悪魔が通り過ぎた。
その体は異様に大きく、肌は死人のように白かった。
片腕は人間のものだったが、もう片方は巨大なカニの爪のようだった。
そして顔までもがカニのように歪んでいた。
悪魔は周囲を見回したが、何も見つけられず、そのまま去っていった。




