第1巻 第14章:死の湖
水面を突き破り、巨大な何かが凄まじい速度で飛び出した。
その体はぬめりを帯びた鱗に覆われ、血のように赤い瞳がデヴィッドを捉える。
水が落ちると同時に、デヴィッドはそれを見た。
――サメのような姿をした魔物だった。
「下位高等級の悪魔か……クソッ、簡単には逃げられねぇな……」
後ろを振り返ると、次の島まではまだ1キロ以上あった。
デヴィッドは湖へ飛び込み、全力で泳ぎ出した。
だが、悪魔は逃げる彼を見て、すぐさま水中へ潜り追ってくる。
デヴィッドは必死に泳いだ。後ろを見ることもできない。
悪魔の一撃が水を弾けさせ、巨大な波が彼を上へと押し上げる。
悪魔が再び水面を突き破り、デヴィッドを喰らおうとした――だが、彼は簡単に死ぬつもりはなかった。
噛みつこうとするその瞬間、デヴィッドは悪魔の鼻先を掴み、全身の力を込めて体を持ち上げた。
サメは彼の下で顎を閉じた。
その隙を突き、デヴィッドは悪魔の鼻先を切り裂き、勢いよく蹴り飛ばした。
悪魔は痛みに咆哮する。デヴィッドは再び水中へ落ち、全力で泳ぎ続けた。
悪魔が体勢を立て直すまでの数秒――それが彼の唯一のチャンスだった。
「あと200メートル……行け……!」
体力は限界に近い。腕も足も重く、動きが鈍る。
悪魔は怒り狂い、速度を上げた。
その距離、わずか100メートル。
五秒も経たずに、悪魔は彼に追いついた。
大きく口を開け、デヴィッドに襲いかかる。
――その瞬間、デヴィッドは目を見開いた。
悪魔の動きが、ゆっくりと見える。
「クソ……あと五分で体が限界か……」
一瞬の判断。デヴィッドは身を翻し、悪魔の右ヒレを掴んでその勢いに乗った。
悪魔は驚愕し、動きを乱す。
そのとき――深淵の底で、何か巨大な存在が目を開けた。
その怒りは凄まじく、「誰かが自分の眠りを妨げた」とでも言うようだった。
次の瞬間、何かがサメ型の悪魔を引き止め、下へと引きずり込んだ。
悪魔は暴れ狂ったが、抗う力を失っていく。
深淵の底で、それは悪魔を飲み込んだ。
デヴィッドはヒレから手を放し、必死に岸へと泳ぎ切った。
陸に上がると、彼は濡れた包帯を巻き直し、息を整える。
「……あいつが俺を舐めてなきゃ、今頃死んでたな。
でも、今のは一体……何だったんだ? あの悪魔を怯えさせるほどの存在なんて……?」
デヴィッドは振り返ることなく歩き出した。
太陽はまだ空にあった。
「あと三時間……何か見つけなきゃな……」
少し先に、見覚えのあるウサギがいた。
それを仕留め、水を小瓶に汲み、彼は再び歩き出す。
そして――視線の先に、もう一つの像が見えた。
今度は女性の像だった。
「女の像……前の島は男だった。ってことは……?」
近づくと、石に刻まれた文字が目に入る。
『七人の英雄が我らを救う』
「七人の英雄……? 一つの島に一人ってことか……つまり、七つの島がある……」
太陽が沈みかけていた。
デヴィッドは像を登り、小さな焚き火を灯す。
そして、目を閉じ――眠りに落ちた。




