ストレス製造機を貰ってくれてありがとうございます〜継母と鏡はノイローゼで王室崩壊を招いた眠り王子を後ろからハイムリック法で一撃必殺〜
雪が舞い散る庭園で、シーラに呼び出された。
彼は、この国で最も美しい少年で白雪王子の名の通り、雪のように白い肌と夜空のように漆黒の髪を持つ、婚約者。
そも、雪降る外に呼び出されて、寒さで思考がまともに回らない。隣には見慣れない少女が立っていた。燃えるような紅い髪と、燃えるような紅い瞳を持つ、眩しいほどの美しさ。
「セリュリアンナ、すまない」
シーラは、目をまっすぐに見つめず、地面に視線を落としたまま告げられ胸の奥が冷えていくのを感じる。
「私には、心惹かれる相手ができた。彼女、隣国の王女オウカと、これからは共に歩みたい」
オウカの手を握り愛おしそうに微笑んだ瞬間、頭の中に前世の記憶が蘇る。
ああ、そうか……この世界は、あの白雪姫の物語。シーラは、物語の主人公。そして、オウカこそが、彼を呪いから救う運命の相手。今の己は物語の脇役。
彼の幸せな結末のためだけに存在した、継母ではない、ただの婚約者、脇役女。悲しみよりも先に、安堵が広がった。ようやく、物語から解放される。シーラに深く頭を下げ、静かに微笑んだ。
「シーラ様とオウカ王女様の、末永い幸せをお祈り申し上げます」
シーラは驚いたような表情を見せた。彼にとっては、悲嘆にくれる姿こそが、物語の正しい展開だったのだろうけど、もう物語の登場人物ではないから、関係ない。
婚約破棄の翌日、父である侯爵に、歴史書と地理書を譲り受けた。
「体調はいいのか?」
「はい」
シーラが継母の毒林檎で倒れる運命を知っている。その間、この国を出て、物語の外の世界で、自身の人生を歩み始めるのだと本を強く持つ。
婚約破棄されたことは、確かにダメージだが、変なドロドロとした王家の騒動に巻き込まれないのなら、万々歳。
それに、あの王子は美貌に対して大変ナルシストな人だったし思い出すだけで、ウンザリだと父に許しを得て、隣国へ旅立つ。
今の婚約者の女とは反対の国へホクホクなりながら、留学を始めると、そこの図書館が大きくて感動したらふらふらと、花に惹かれる蝶みたいに中へ。
貯蔵数が違うな、と夢中で読み進めているといつのまにか滞在してから一年があっという間に経っていたが、王家の騒動はどうなったのかと、ふと思い出す。結婚したところで、継母の殺意は変化しないからね。
後継者を暗殺して、ドロドロの国も嫌だけどなんて思いつつ新聞を見ると、どうやら事件後だったらしい。かなりの騒動になっていたけど、すでに何ヶ月も前のこと、なのに耳に入ってこなかったなぁ。
「あ、意識不明……ん?意識不明?」
割と展開的にはその日のうちに、助けられていたような?
はて?と首を傾げる。
アップルポイズン事件と書かれている、そのまんまだとちょっと感動した。婚約者の時は、数える程しか継母の王妃と会ったことはないがおそらく、あの人は魔女かなにかの血筋なのだろう。
あそこまで嫉妬したのはあの人も、ナルシスの類という予測。同族嫌悪かな?
「どうしました?」
声をかけられて振り返ると、この国に同じく滞在している自国の男の彼は知識も豊富で、会話も事欠かない上にグレーっぽさのある、銀色の光沢が優しげに揺れる。
「ミーランさん」
大人な彼は数ヶ月前に、この大規模図書館で出会った。
「いえ、この新聞に見て、故郷の事件があったことを知りまして」
「おや、かなりセンセーショナルなことでしたがね」
さすがに苦笑された。
「王子が眠ったまま起きないと」
「義母に毒を盛られたとかで。お可哀想なことです」
「そうですか?まあ、そうですかね」
自分はかなり近くにいた当事者に近い、他人だけど、どんな男か知り尽くしているので可哀想とは思わず。
だって。
「彼、義母の前で自分語りをずーっとし続けて、寝ても覚めても美しいとずーっと口に出してるんです。首をキュッとされなかったことが、逆に奇跡でしょう」
あのナルシスト王子。
『この世に生まれたのが人類の奇跡なのに、なんでだろう』
「なんでだろう。なんで君みたいな婚約者なんだろう?って」
あれは彼の中では暴言じゃなく、自分を憐れむために使う道具、ガチで自分が可哀想と思っていた顔だって本気で思い込んでいたなぁ。
継母の前でもさ「少しは顔色を整えては?私の真似をして白くしても元がよくなくては、意味をなしませんよ?」と言ったとか。
アップルまるごと口に押し付けられなかったのは、継母の理性がまだあったからでは?なんて、さすがに家族間でトラブルが起きるレベル。王である父親は非常にことなかれなので、いつの間にか部屋に逃げていないという家庭崩壊待ったなし、秒読み。
「そう、でしたか」
ミーガンが近くにいたことを思い出す。
「あ、すいません。自分語りとか」
「いいえ」
疲れた様子のミーガンは、暗く笑う。
「継承権のある王子が眠ったらうち、どうするんだろう」
自分から奪い取ったオウカはどうしているのか。新聞を読むと婚約は白紙にされていると。正直、そうなるよね、としか。
あんなナルシスト、助ける気もおきまいそのナルシストぶりに、一瞬で判断したのが目に見える。でも、彼女も王子を見捨てたと誹りを受ける身になるし、貰い事故みたいなもの。
「こんなのを読んだから、落ち込みますよね。平気ですか?」
「はい」
優しさが染み渡る。
──キラッ
反射的に光った部分を見ると彼の目が微かに煌めいていた。
「ミーガンさん、鏡の後遺症が出てますよ」
「え?ああ、すみません。まだちょっと、コントロールがあま、くて」
彼は言いながら、目を押さえてこちらを三度見したので言われたことが、理解できない顔をしている。
ただの人間としてスマートに現れた身としては、身バレなどしたくないだろうし周りが騒ぎになるから指摘しただけで、それ以上は他意はない。
「え、あの?あはは、鏡の後遺症とはなんことだかわかりませんよ!」
今までで一番大きく声を出した男。
「ああ、別にあなたが人であれなんであれ、特に気にしませんから。あなたはミーガンさんであって、それ以上でもなんでもないです」
ポカンと彼は、立ち尽くす仕草は迷子になった子供みたいに。
「いつから……」
「ミーガンさん、なんか、こう、普通の雰囲気ないですし。この新聞を読んで合点がいきました。あの国の国宝であるミラー・キングダムですよね?魔法具とは聞いてました。きっと付喪神化したんですね」
「つ、つくもがみか?」
「ものが長くあると、意思が宿るらしいです」
キングダムとは、名の通り建国時代からあった鏡ならば百年あってもおかしくない。
「鏡が話せるようになって、久しいのなら次は人になるのも、進化の正当な順番でしたし、妥当かなと?」
「ここまで受け入れられるなんて、予想外です。その、変に付き纏いすみません。早く会いに来たかったのですが……白雪王子の部屋に設置されて、監禁されてしまい」
「あの王子、余罪盛りだくさんすぎだろ!?」
思わず、突っ込んだ。
「綺麗とか綺麗とか、もう聞き飽きて聞き飽きて、あんな人は歴代で滅多にいません」
「ということは、王妃はあなたに聞いて犯行に及んだわけではないと?」
「ん?ああ、はい。寧ろ禁句として世界で一番、美しい、白雪、として言い含められる程でしたよ」
やば、国に今すぐ王妃の嘆願書出そう。ナルシストノイローゼの被害者だ!
走り出そうとすると、彼からどこに行くのかと聞かれて、帰るんですよと説明。
「そ、それなら!私の鏡を使えばすぐ帰れますよっ」
「鏡にもなれるんですか?凄い」
褒めると、照れるこの人はビジュアルが美を判断できるからか、整っているのだ。照れ顔可愛い。
「なら、お願いできます?処刑までまだ時間があってよかったです!」
鏡になってもらい、移動するときになぜか人型の方でお姫様抱っこされる。赤くなりながら、慌てると優しく微笑まれる。
数ヶ月の間、交流してきたから人となりは軽くわかるけど、心のある優しい人だ。
自国に戻って元婚約者特権で王子の寝室に行き、無理矢理魔法で叩き起こす。林檎を詰まらせたら、それを助ける方法は大体同じ。
ハイムリック法、別名腹突き上げ法を駆使。
裁判所へは王妃のストレスマッハ、元婚約者のストレスマッハ苦労話。贖罪代わりに、起こしたのはあなたがやったことにしてあげる、という取引を餌に横取り王女の王子への証言もかき集めた。
そうして、王妃、継母の魔女の処刑までに、なんとか罪を軽減してもらいことなきを得る。ただ、まぁ牢から出てもあの義理の息子が城にいるからと出所拒否をして、今も中に居座っていると聞く。
小人?彼らは王子がふらっとやってきたら速攻扉を閉めて耳栓をして、七人まとめて抱きしめあって、ガタガタ震えていた。
物語的には1日しか共にしてないはずであるが、一日で彼らを追い詰めるとは、王子にはやはり余罪がどっしりありそうだ。
そう遠くない未来に、アップルポイズン事件よりも話題性のある、ビューティフルインホワイトスノウ事件として、新聞を大いに盛り上げることだろう。
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