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第三章 友達

昔々、途方もない昔から、この星には「この世」と「あの世」という物がありました。

あの世は死んだ者が行く場所で、そこで妖怪に生まれ変わり、妖怪としての生涯を終えた時、この世で別の生命へと生まれ変わるのです。


**********************


『炎よ、出ろ!』


昼休み、翔烏はクラスの皆の前で魔法を披露していた。歓声が上がり、翔烏は少し照れくさかった。

揺らめく炎は、触っても熱くない不思議な炎だった。


「もう一回やってー!」


「次はお花!お花出して!」


「止めろよ!順番だぞ!」


大盛況の中昼休みは終わりを告げ、午後の授業も終わった。


「翔烏ちゃん!今日もうち、寄ってかない?」


結兎が声を掛けてきた。翔烏にとってとてもありがたい申し出だったが、羅喉様の事をすばるに伝えなければならないという気持ちが強かった為、


「ごめんね、今日はちょっと用事があるの。」


と、本当は行きたい気持ちをグッと堪えて言った。


「そっか、じゃあまた今度ね!」


と、結兎と別れてすばるの家に向かった。呼び鈴を鳴らすとすぐ、ベージュ色の髪を結ったすばるが現れた。


「あら、翔烏ちゃん。一人で来たのですか?とにかく上がりなさいな。」


家に上がってすぐにでも話したかったが、勇が「まあそう焦らないで。焦ると分かるもんも分からなくなるよ。」とお茶を用意してくれた。


翔烏はお茶を一啜りして落ち着き、すばるの目をはっきりと見て言った。


「あのねおばあ、鬼鳴様がね、封印を解いたみたいなの。二回も会ったんだよ!私!でも達也もエミーも信じてくれなくて…。」


すると、すばるの表情が、若干硬くなったような気がした。


「…何かされてませんか?どこか怪我は?」


「別に何もされてない。怪我もしてない。寧ろ私と仲良くしたいみたい。変だよね、言い伝えと違うじゃん。」


すばるは歯の間から息を出して、何か考え込んでいた。勇はこの硬い空気の中構わず茶を啜っている。


「……翔烏ちゃん。これからワタシの言う事をよく聞きなさい。」


すばるはいつもと違う目つきで翔烏に告げた。翔烏は改まって背筋に力を入れる。


「……正直、もうこんなことは起こらないと思っていたんです。……いえ、思いたかったのかもしれません。」


「悪さをする様な霊や妖怪は、今の時代では殆どいなくなりました。鬼鳴様も、封じられてから今までとても静かで……だからワタシは、龍巫を止めようと思っていたんです。」


「…でも、私がケイトを見つけて、魔法を使った。」


重い沈黙が、漂う。


「…私の、せいなの?私があの時、辰灯神社の上を飛んだから、これから、大変な事が、」


「いいえ」


遮るようにすばるは言った。


「封印が解かれたのはアナタの魔力が原因かもしれない。しかし、今の鬼鳴様の目的は人間や妖怪を滅ぼす事ではなく、アナタ自身であるように思えます。」


翔烏の目をしっかり見据え、すばるは言った。


「そこで、今一度アナタの気持ちをしっかりお伺いしたいのです。翔烏ちゃん、アナタは、鬼鳴様とこれからも仲良くしたいですか?」


…羅喉様は、いつも苦しそうな顔つきをしている。この間ケイトを睨みつけていた時などは特にそうだった。

しかし、自分と遊んでいる時は、少し柔らかい表情になっている。何か訳ありなのだろう。翔烏はあの淀んだ瞳の奥に、寂しさを感じていた。自分が何とか出来るなら、何とかしてやりたい。友達になりたい。と思っていた。


「……うん。私、羅喉様と仲良くしたい。友達になりたいよ。」


「言い伝えの通り、鬼鳴様が大勢の人間や妖怪を殺したのは事実、危険な存在である事には変わりありません。それでも友達になりたいですか?」


「うん!もし悪い事しようとしたら、私がダメって言うよ!だって仲良くなりたいから!」


そう翔烏が告げると、すばるはふっと笑った。


「では翔烏ちゃん。先代龍巫として、アナタを正式な龍巫に認定します。どうですか?日曜日にワタシが稽古をつけるというのは。」


「練習!?魔法の!?やる!」


話もそこそこに、翔烏はすばるの家を出て行った。夕焼けが広がる中帰る先で、また異様に辺りが静かになった。気配を感じて振り返るとやはり、羅喉様だった。


羅喉様は挨拶代わりと言わんばかりに翔烏の匂いを嗅ぎ、頬を撫でた。


「…しょうちゃん………。友達…とは…何だ……?」


「聞いてたの?」


「言ったはず…だ……、永遠に…見ている……と…。友達…とは…何だ……?」


翔烏は改めて友達が何かを聞かれて、少し戸惑っていた。うーん、と考えて答えを引きずり出す。


「一緒に遊んだり…する…とにかく、仲良しの事かな?」


「では……我らは…友達………か…?」


「うん!そうだと思う。」


すると突然、羅喉様の息が荒くなった。

はぁ…はぁ…と息を荒げ続け、遂には獣の声とも機械の悲鳴ともつかない雄叫びを上げた。この間の雄叫び以上の轟音に、翔烏は耳を塞いだ。


「……この…ような……気持ちは………初めてだ…。これは…この…気持ちは……何だ?」


「…多分、嬉しい、じゃないかな…?」


「……しょうちゃんは……何でも知っている………。そう、か……我らは…嬉しい…のか……。」


羅喉様は翔烏を抱き寄せながら、自分に言い聞かせる様に「嬉しい、嬉しい」と繰り返していた。翔烏は、まるで自分より小さな子どもを相手にしている様な気分になった。この人は、今まで嬉しいと感じた事が無かったのか、一体封印されるまでどんな風に過ごしてきたのか、そう思った。


「……しょうちゃん…腹、減ってる……。」


「何で分かるの…!い、いやでも晩ごはんの前だし…。」


また石を出されると思って遠慮しようとすると、目の前にはチョコレートがたくさんあった。


「…食え…。」


「…じゃあ一枚だけ……あっ…!美味しい!」


昨日羅喉様と一緒に食べたチョコレートと同じ味がした。


「しょうちゃん…。」


「なに?」


「嬉しいか…?」


「うん!」


そうか、と聞こえたと同時に羅喉様は消え去った。…大量のチョコレートを残して。


「…これ、どうしたら良いの…。」


と立ち尽くしていると、


「龍巫様、困ってる?」


「コレナニ?」


「食っていいか?」


と、妖怪達が集まってきた、しかも自分が龍巫だという話がもう広まっている。


「あっ、うん!いいよ食べて!」


と言うと、隠れていた妖怪も出てきて凄い数になってきた。中でも目を引いたのが、うちの前でよく井戸端会議をしている三体だった。


「おっす龍巫様ァ!俺達の顔は知ってんだろ?だったらこれからは名前も知っとけェ、俺ァ心見こころみってんだァ。そんでこっちの白狐が言迷ごんま、人間が言うところのお稲荷さんだが仕事サボってしょっちゅうブラブラしてる。」


心見の発言に対して言迷は、「サボってはいないよ、仕事が無いだけさ。」と返した。


「そんでこっちの姉ちゃんがみちこさん、本名は分かんねェ、人間がそう呼ぶから俺達もそう呼んでる。」


みちこさんは無言だが、笑顔でひらひらと手を振った。


「とにかく龍巫様ァ、俺が『見た』ところによればどうやら大変な事に巻き込まれたみてェじゃねェか。」


「見たってどういう事?」


「俺ァこの額の目ん玉でよ、考えてる事が分かんだよ。まさか鬼鳴様に目ェ付けられる人間が現れるとはなァ…。今は何とかなってる見てェだが、何かあったら一人で何とかしようとしねェで俺達を頼れよなァ!」


言迷とみちこさんは頷き、チョコレートを食べていた他の妖怪の何体かも手を振っている。


「あ、皆、ありがとう…!」


妖怪達に見送られながら、暖かい気持ちで家に帰った。

しかし、一方で不安も強まっていた。もし、あの暖かな妖怪達や、周囲の人間達を、昔の様に羅喉様が滅ぼすと言い出したら?

その時は、自分に止められるだろうか?

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