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第二章 学校

昔々、といってもとても今に近い昔。鬼鳴市に引っ越して来た辰灯 翔烏は、どこにでもいる普通の子ども……ではなく、ほんのちょっぴり変わっていました。内に秘めた魔力を、お祓い棒によって引き出す事が出来たのです。

辰灯家の血を引き、清く強い心を持つ者のみが、その力を以てお祓い棒を扱う事が出来ました。お祓い棒を受け継いだ者は、女は「龍巫」、稀に生まれる男は「龍覡」と、記録されていましたとさ。


**********************



「だから、本当に鬼鳴様に会ったんだってば!」


「多分疲れて夢でも見たんじゃないか?新しい場所だしな。」


翔烏は朝食の席で今日起こった衝撃的な出来事を話したが、達也は全く信じていないようだった。


「大丈夫ですよお嬢様!鬼鳴様は今封印されています!あの神社から出る事は不可能でございます!」


追随するようにエミーも言った。確かに、封印されている筈なのにどうして自分の目の前に現れる事が出来たのだろうと翔烏は思った。やはり、夢だったのだろうか…?


朝食を済ませ、いよいよ翔烏の登校時間が近付いていた。達也と一緒に玄関に立ち、靴箱に立て掛けてある一枚の写真に目を向けた。


「…お母さん、いってきます!エミーもいってきます!」


宵里よいり、エミー、行ってくるよ。」


エミーに見送られながら家を出て、翔烏と達也は岡美小学校おかみしょうがっこうの方に向かっていった。

担任の先生と達也とで三者面談をした後、翔烏は先生の合図があるまで教室の側で待機する事になった。教室札には「3-1」と書いてある。


「今日から皆と勉強する仲間が一人増えます!入ってきてください!」


先生の合図で戸を開いた瞬間、教室中が騒がしくなった、多分、髪と瞳のせいだ。


「それじゃあ辰灯さん、自己紹介お願い!」


「はい!…えっと…辰灯 翔烏です。……えー……よろしくお願いします!」


もっと言いたい事があった筈なのに、いざ皆の前に立つとろくな事が言えなくなってしまった。

それでも、皆は拍手して出迎えてくれた。


「平巳さんの隣が空いているから、そこに座ってね。」


平巳?驚いて顔を向けると、藍色の長い髪に緑色の瞳の吊り目、大きな水色のリボンを付けたぽっちゃり気味の女の子が笑顔で手招きしていた。それに導かれる様に机に座ると、


「よろしくね!あたしは平巳 結兎!あたし達多分従姉妹だよね?仲良くしようね!もちろん従姉妹じゃなくても!」


「うん。従姉妹じゃなくても仲良くしようね。従姉妹だけどね。」


互いにくすくすと笑い合った。


「はい!転校生が気になるのは分かるけど、まずは授業をしましょうね!」


先生の一声で騒がしかった教室は静かになった。


授業が一旦終わった昼休み、翔烏は、クラスの注目の的になっていた。噂を聞きつけた別のクラスの生徒までやってきていた。


「辰灯さんの髪真っ白!」


「目は真っ赤だねー!ウサギみたい!」


「ドッジボールやらないか?ドッジボール!」


「えー…えっと……。」


皆が一斉に話しかけてくる為、翔烏はどこからどう話したら良いのか分からなくなってしまって、思考がぐるぐると巡る。

ドッジボールはともかく…髪と目の色を珍しがられるのは、初めてではない。今みたいに同い年の子達からも、ご近所さんからも…それから親戚も。そもそも辰灯家は、珍しい髪色や瞳の色をしている人が多いが、自分はその中でもとても珍しい色らしい。


「皆!翔烏ちゃんが困ってるよ!」


見かねた結兎が助け船を出してくれた。正直ほっとした、ありがたい。と翔烏は思った。


「あっ、ごめんなさい!」


「しょうがねえなー、ドッジボール!やりたくなったら運動場に来いよー!」


クラスメイト達はそれぞれ散っていった。


「ごめんね翔烏ちゃん、皆転校生を珍しがってるだけだから。あと髪と目の色も、かな。あたしは可愛いと思うよ!」


「…うん!ありがとう!」


「ドッジボールやりに行かない?待ってると思うよ!」


「うん!」


転校初日、どうなる事かと思ったが、なんとか楽しくやっていけそうだ。

翔烏はそんな希望を抱きながら、結兎と運動場に向かった。





放課後、帰り支度をしていると、結兎が、


「放課後予定空いてる?うちに寄ってかない?お菓子屋さんなの!」


と声を掛けてきた。

お菓子、翔烏はその言葉で目を輝かせながら二つ返事で


「行く!!」


と言った。

結兎の家に行く途中、自分の家を通り過ぎ、ショッピングモールがある方角に差し掛かった。


「ここだよ!」


そこは二階建ての建物で、一階に「Orb Rabbitオーブラビット」と書かれた看板が掛かっている洋菓子屋だった。結兎に促され、中に入ると、ケーキ、シュークリーム、兎の形をしたチョコレート…いろんなお菓子が並んだショーケースの前に、

ピンク色の髪に水色の瞳をした女性と、奥の厨房に男性がいた。結兎の両親だ。


「パパ!ママ!ただいまー!」


「あら、おかえりなさい。その子は…翔烏ちゃんね!久しぶり!覚えてる?赤ちゃんの時よく遊びに来てた明里おばさんよ!」


「えーと…ごめんなさい…よく覚えてなくて…。」


何だか申し訳ない気持ちになった。


「…そうよね。しょうがないわ。まだほんの赤ちゃんだったもの。久雄ひさおー!結兎が翔烏ちゃんを連れて来たわー!何かお菓子でも作ってやってちょうだい!」


明里が厨房に向かって声をかけると、「おう!」と返事が返ってきた。


「あの、お金、そんなに持ってません。」


「良いから良いから!大丈夫!」

結兎は朗らかな笑顔を浮かべて言った。明里も頷いている。会ったばかりでこんなによくしてもらえるなんて、なんだか胸が暖かくなった。


「二階に行こ!二階があたし達が住んでるとこなの!」


結兎の両親に「おじゃまします」と声を掛けてから、二階に昇ると、

二人の、多分同い年くらいの、赤いちゃんちゃんこに、中学校の制服?の様な服を着て、下駄を履いた子どもが立っていた。子ども達は手を繋いで、微笑みながらこちらに視線を向けている。


「はちはち、こいこい!ただいま!」


「兄弟なの?」


「うん!お兄さんとお姉さんみたいな感じ!二人ともあたしが生まれる前からこの家にいるってパパとママが言ってた!」


翔烏は、妖怪だろうとは思っていたが、年上だとは思いもよらなかった。驚いて見ていると、二人はくすくすと笑い、カランコロンと下駄の音を響かせ消えていった。

結兎ちゃんとテーブルでくつろいでいると、


「そういえばさ、噂で聞いたけど、魔法使えるって本当?」


心臓がドキッとした。従姉妹になら、話しても良いだろうか?不用意に話して、学校で広まったらどうしよう…そんな不安を察してか、不安が顔に出ていたのか、結兎は、


「大丈夫!この街の人達は魔法ぐらいじゃそんなに驚かないよ。皆当たり前なの。妖怪とか…不思議な力とか。それにあたしもね!出来るよ魔法!ほら見て!中指と…薬指を…離せるっ!」


結兎がとても真剣な顔で「魔法」を使った為、思わずプッ、と吹き出してしまった。結兎もつられて、一緒に笑った。


「私も魔法、使えるよ。見てて…。」


ランドセルの中に隠していたケイトが、呼応するように出てきて、龍の姿から杖の形に変わった。


「これがお祓い棒!初めて見た!」


結兎の瞳は星の様に輝いた。


『動け!』


置いてあったウサギのぬいぐるみにケイトを向け声を掛けると、ぬいぐるみは一人でに立ち上がり、手を降った。


「おおー!魔法って凄い!!」


「ねー、凄いよね。」


二人で話し込み、用意してもらった店の名物だという「オーブラビット」という丸いウサギの形をしたチョコレートに舌鼓を打っていると、あっという間に時間が過ぎ、明里からはお土産のお菓子をたくさん持たされ、結兎とは「じゃあまた学校で!」と挨拶を交わして別れ、家に帰った。

新しい学校に少し不安もあったが、友達が一緒ならならきっと、大丈夫だろう。


ただ、不安が全く消えた訳ではない。あの朝の出来事が、本当にただの夢であって欲しい。と翔烏は切実に思うばかりだった。





翌日の早朝、胸騒ぎが止まらない翔烏は、辰灯神社にやって来た。何事も無ければ、参拝だけして早く帰ろう……。


が、翔烏の目の前には、昨日の生気の無い大男が立っていた。


「……はぁ……はぁ……!」


羅喉様は興奮しているようだった。目は血走り、右腕を掻きむしっている。


「止めて羅喉様!血が出てる!」


ぞっとした翔烏が慌てて止めるが、羅喉様の耳には入っていないようだった。


「しょうちゃんが自ら我らの元に出向いた…!しょうちゃんが…!」


完全に自分の世界に浸っている羅喉様を見かねてケイトを構え、


『治れ!』


と唱えると、右腕の傷はみるみる塞がり、羅喉様も驚いた弾みで落ち着きを取り戻したようだった。


「自分で自分を傷付けるの、怖いからもう止めてね!」


翔烏がそう言うと、羅喉様は相も変わらず無表情だったが頷き、


「……驚かせて……すまない………。詫びねば……ならん…。」


すると、いつの間にか羅喉様は大量の石を抱えていた。


「…腹…減った…だろう……?…食え………。」


と、石を翔烏の口に運ぼうとした。


「待って!ちょっと待って!それ石だよね!?無理だよ!」


「……何故だ…?」


何故と言われても、食べられないものは食べられない。と翔烏は思う。ひょっとしたら羅喉様は石を食べられるのかもしれないが、人間は石を食べられない。しかしここで石を受け取らないと何が起きるか分かったものではない。


「あっ!」


翔烏は、この場を乗り切る案を思い付いた。


「ちょっと待ってて羅喉様!すぐ戻って来る!」


神社を走り抜け家に戻った翔烏が手に取ったのは、昨日貰ったお菓子の袋だった。

袋を取った足で神社に戻って来ると、羅喉様は先程と全く変わらない位置に立っていた。


「……33秒…だ………。」


「えっ、数えてたの……石は食べられないけどね、代わりにこれ!一緒に食べよ!」


袋の中には、チョコレート菓子がたくさん入っていた。


「……何だ、……これは…。」


「チョコレートだよ。甘くて美味しいよ!ほんとはこんな朝から食べちゃいけないんだけど、内緒で…ね。」


と、翔烏は少しはにかみながら座り、中に入っていた板チョコを口にした。


羅喉様も座り、翔烏の様子を伺いながら板チョコを手に取ってかぶりついた。すると、瞳孔が大きな丸を描き、二口、三口と食べていった。


「美味しい?」


「……美味しい…。……初めてだ…こんなに………美味しいものは……。」


「石は美味しくないの?」


「否…。だが、この……チョコ…レートというものは………更に…美味しい………。」


翔烏と羅喉様はしばらく共に菓子を食べていたが、突然羅喉様が立ち上がり不機嫌そうに唸った。


「……もうじき…時間切れ…だ………。」


「どういうこと?」


「今の…我らの力……では……しょうちゃんと永遠に…二人きりには………なれない……口惜しい………。」


そう言い残すと、昨日の様にフッと目の前から消え去り、後にはチョコレート菓子の包装紙と袋が残った。

昨日の羅喉様の叫び声に誰も反応しなかったのは、時間でも止めていたからなのだろうかと翔烏は思った。





「だから!やっぱり鬼鳴様の封印は解かれてるんだって!」


翔烏は早朝の出来事を達也とエミーに説明したが、やはり信じてもらえなかった。寧ろ朝からチョコレート菓子を食べた事を叱られてしまった。全部自分が食べた訳ではないのに。

おばあなら、信じてくれるかもしれない。

学校が終わったら、おばあの家に行こう。

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