5、メイベルの方針
苛立ちともどかしさが募るなか、メイベルの高熱はなかなか下がらなかった。このまま死ぬのかとさえ思った。わけのわからない悪夢を何度も何度も見た。
熱が下がったのは、3日後の朝だった。
「……何か用ですか」
疲れはて、やつれたメイベルのもとにやってきたのはルーカスだった。ルーカスは部屋には入らず、入口のところでメイベルに話しかけていた。
「熱が引いたそうですね。まだ安静にしていてください」
「いやでも安静にしなければならないでしょう」
メイベルは落ち着きはらって答えた。冷静になり、逃げる先がないことにようやく気づきはじめたのだ。厚いカーテンの隙間からわずかに見える窓の外に視線を落としながら、ぽつりとたずねる。
「……これからどうするのですか」
「それは、あなた次第ですね」
ルーカスは事務的に答えた。
「怪我が治るまではここに滞在してもらうつもりです。しかし、この屋敷は〈嵐が丘〉に近い。万が一の場合はすぐ移動します」
(……よくて数ヶ月か)
骨が折れれば、治るまでにそれくらいかかる。
「手当はヘーゼルがやってくれます」
いつの間にかヘーゼルがルーカスの後ろに立っていた。彼女は軽く頭を下げてみせた。
この侍女はメイベルが熱を出す間、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。もちろんメイベルが道具として大事なのだろうが、こまやかに気を回して世話を焼いてもらったことは素直に嬉しかった。
メイベルは長いため息をつき、目を伏せて言った。
「寝たきりというわけにもいかないでしょう。私に屋敷の中を歩くくらいはさせてください」
「……。逃げられませんよ」
「逃げません。なんならヘーゼルや他の方たちに見張らせてもかまいません」
そう言ってもルーカスは信用できないという顔をしていた。メイベルは威圧するようにルーカスの目を見つめた。
「いいですか。私は決してあなたを許していないし今までもこれからも許すつもりはありません。ですが私もバカじゃありません。逃げても逃げなくても私に自由がないことくらいわかります。私は私の意思でここにいるので、これから私が反抗しなくなっても、思い通りになったなんて勘違いをすることがないようにしてください」
ルーカスとヘーゼルはぽかんとしていた。
「しばらくは逃げずに大人しくしますので、その分好き勝手させていただきますね」
メイベルは覚悟のようなものが固まってきていた。
(何もかも、どうにだってなる)
諦めがつき、しばらくの方針を決めてしまったメイベルはすっかり元の調子を取り戻していた。すてばちになったとも言うが。メイベルは数日間横たわりっぱなしだったベッドから足を出し、ルーカスを見上げた。
「屋敷の中を歩かせて」
「……わかりました」
ルーカスは何を考えているのかよくわからない顔で答えると、ヘーゼルにメイベルを見ているように言いつけて部屋を離れた。鍵や見張りの準備をしに行ったに違いない。
「したたかですね」
無表情の侍女は、ここ数日で感情を感じられるようになってきていた。すこし笑っているのがわかる。
「育ちが良いの」
メイベルは笑い、軽口で返した。