夕陽と公園と揚げパン 【月夜譚No.311】
公園のベンチに座って揚げパンを頬張る。金曜日の夕方、彼女にとって週に一度の至福の一時である。
自宅の近所にある総菜の個人商店で販売を始めた、昔ながらのコッペパンの揚げパン。揚げ立ての匂いとこんがりした見た目に誘われて一つ買ってみたら、素朴な美味しさと懐かしさにやみつきになってしまった。とはいえ、こんなものを毎日食べていたら体重増加は目に見えているので、週末の自分へのご褒美ということにしている。
ほど良い甘さと油のまろやかさ、サクサクの表面にふわふわのパン。シナモンの香りが鼻に抜けて、一週間の仕事の疲れが一緒に宙に溶けるようだ。
夕刻の公園は子ども達の影も疎らで、夕陽の赤と植樹された緑のコントラストが綺麗に見える。
公園も惣菜店も、彼女の気に入りだ。大学卒業と共に実家を離れる際、何処の部屋を借りるかで散々悩んだが、この町にして良かった。新鮮さと懐かしさが混在したこの町は、都会でありながらほっとできる雰囲気がある。
ゆっくりと暮れていく景色を眺めながら、彼女は存分に幸せを嚙み締めた。