第98話 追放幼女、王都へと出発する
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2025/05/24 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
それからあたしは大急ぎでクレセントベア狩りを行った。方法はもちろん、以前にやったのと同じようにお肉を焼いておびき寄せるというものだ。
その結果、クレセントベアを追加で七頭狩ることができ、さらにフォレストウルフが五十七頭、ワイルドボア二頭とフォレストディア三頭のおまけまでついてきた。
これだけいれば追加の戦力としてはもう十分じゃないかな。
あ、そうそう。それとね。不思議なことに、最近はゴブリンをさっぱり見かけなくなったんだよね。ゴブリンって意外と賢いし、もしかするとスカーレットフォードの周りは危険だって認識されたのかもしれないね。
安全になったのはありがたいけど、優秀なスケルトンが手に入らないのはちょっと残念、なんて考えたら悪役令嬢オリヴィアになっちゃうかな?
そうこうしているうちに再びラズロー伯爵から手紙が送られてきた。今回も王妃陛下の手紙が同封されている。
あたしはさっそく中身を確認する。
ええと、何々? バクスリー男爵領の領都バクスリーを経由し、王都に来るように?
どこ? と思ったのだが、何やらものすごくざっくりとした地図が同封されている。
その地図によると、どうやらこのバクスリー男爵領というのは王都からほぼ真西へ行った場所にあり、スカーレットフォードと同じように魔の森に突き出ているようだ。
だとすると、やっぱり開拓村なのかな?
ということは、同じ開拓村同士で仲良くしなさいってこと?
王妃陛下の意図はよく分からないけれど、これなら見つけやすいのでありがたい。
あたしはさっそく自分で作った地図との比較を始めるのだった。
◆◇◆
それからしばらく鳥のスケルトンを使って地図作りをし、ようやくあたしはバクスリーらしき場所を特定した。
うん。結構遠いね。ビッターレイまでの距離と比べて三~四倍くらいはあると思う。
しかもビッターレイまでとは違って途中に谷とか山がいくつもあるため、かなり大変な旅になりそうだ。
もしかして移動だけで二十日位掛かっちゃうかな? そこから王都に移動する時間を考えると、下手をすると年を越しちゃうかも?
参ったなぁ。でも王妃陛下の呼び出しを無視するわけにはいかないし……うん。仕方ない。
あたしは招待に対するお礼と年が明ける頃に訪問することを手紙にしたため、ラズロー伯爵に出す。
「はぁ。仕方ない。でも頑張らなきゃ」
あたしはそう呟いて自分に気合を入れると、マリーのところへと向かう。
それから三日かけて準備し、あたしたちはバクスリーへと向けて出発するのだった。
◆◇◆
一方、サウスベリーでは倒れたサウスベリー侯爵に代わってブライアンが取り仕切っていた。
もともと代官として領地を治めていたこともあってか領内に混乱は起きておらず、むしろサウスベリー侯爵による介入が無くなった分だけスムーズに回っているきらいさえある。
そんなブライアンの執務室にセオドリックがやってきた。セオドリックはホーンラビットのスケルトンに刺された足の怪我がまだ癒えていないらしく、右足を引きずっている。
「セオドリック・ドーソン、ただいま参上いたしました」
「ご苦労様です。足の調子はまだ悪そうですね」
「はい。ですが私の力不足のせいで楽しみになさっていたお嬢様との再会がかなわず、心労でお倒れになられた我が主のお心の傷を思えばこの程度の痛み、大したことはありません」
「……そうですね」
ブライアンは複雑な表情を浮かべ、視線を外した。
「さて。それではセオドリック卿、何が起きたのか詳しく教えてください。ビル卿からも聞きましたが、隊長であった貴卿の目から見てどうだったのか」
「はい。まず作戦ですが――」
セオドリックは事細かに何が起きたのかを説明した。ブライアンはメモを取りつつも、神妙な面持ちでそれを聞いている。
粗方話し終えたところで、セオドリックは真剣な目でブライアンに質問する。
「代官殿、一つお聞きしたいことがあります」
「なんでしょう?」
「スカーレットフォード男爵閣下の魔法についてです。あれは一体なんなのですか?」
「それは……」
「はっきりと申し上げて、あの魔法は異常です。詠唱をしていないだけでなく、精霊に魔力を渡した様子すらもありませんでした。にもかかわらず魔力を持つモンタギュー卿を制してしまわれた。あのような魔法を、私は神聖魔法以外に存じ上げません」
「……」
真剣な表情で目を見るセオドリックに対し、ブライアンは険しい表情で見つめ返す。
「代官殿!」
「……そのことについて私の口から言えることは何もありません。ただ……」
「ただ?」
「旦那様は、悲しい誤解と行き違いにより離れ離れになってしまった愛しいお嬢様との再会を心から望んでいらっしゃるということです」
「っ!」
セオドリックの表情は悔し気に歪む。
「代官殿、我が主のご容体は?」
「医師より絶対安静を言い渡されています。旦那様と個人的にお会いできるのは奥様と坊ちゃまだけです」
それを聞き、セオドリックはがっくりとうなだれる。
「セオドリック卿、下がって結構です」
「はい」
セオドリックはそう返事をすると、ひょこひょこと右足を引きずりながら退室していった。それを見送ったブライアンは大きなため息をつく。
「はぁ。これは本当にまずいですね。まさかこんなことになるとは……」
ブライアンはうなだれ、調書をじっと見つめると再び大きなため息をついた。
「やはり亡くなられた大旦那様の目論見は正しかったのだ。なんとしてでもお嬢様との関係を修復しなければ……」
ブライアンは険しい表情を浮かべ、再び大きなため息をついた。
「一体どうすれば?」
ブライアンは机に両方の肘をついて手を組むと、その上に自らの顎を乗せてじっと考える。
「……おや? そういえばパーシヴァル家の庶子がいましたね。ですが……」
ブライアンは険しい表情で腕組みをし、じっと考える。
「いや、待てよ?」
ブライアンはハッとした表情となり、すぐにペンを動かすのだった。