第97話 追放幼女、招待される
2024/11/12 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
それからしばらく経ったある日、中庭でのんびり休憩しているとエドワード卿に貸し出していたはずの鳥のスケルトンがやってきた。その足には手紙が結ばれている。
あれ? なんだろう?
あたしは手紙を外し、中身を確認する。
あれ? エドワード卿じゃなくてラズロー伯爵が差出人? どういうこと?
疑問に思いつつも手紙を読んでみる。
……はい? 王妃陛下があたしを招待したがっている!? どういうこと!?
「マリー! マリー! 大変だよ! マリー!」
あたしは大慌てで家の中に飛び込み、執務室へと直行する。
「マリー!」
「お嬢様、レディがそのように走ってはなりません」
「あっ……じゃなくて! マリー! ちょっとこれ!」
「……お嬢様、言葉遣いが乱れております」
「う……」
こうなったらマリーは頑として譲らない。ううん、仕方ないね。
「マリー、ラズロー伯爵から手紙が届きましたの。わたくし、どうしたらいいか困ってしまって。相談に乗って下さる?」
「もちろんです。拝見しても?」
「もちろんですわ」
「失礼します」
マリーは手紙を受け取り、その内容を確認する。
「……事情は分かりませんが、無視するわけにはいきません。急ぎ、ご準備をなさったほうがよろしいでしょう」
「うん。でもさ。どうしよう? 王都に行くにはサウスベリー侯爵領をどうしても通らなきゃ無理なんだよね?」
「はい。ですが現在戦争中ですので通行は不可能でしょう。となるとラズロー伯爵領を通ってバイスター公爵領の港に向かい、海路でサウスベリー侯爵領を迂回して東側に抜けることになるでしょうか」
「……うーん、それってどのくらいかかる?」
「申し訳ありません。私も聞いたことがあるだけですので詳しいことは分かりかねます」
「そっか。じゃあ、魔の森を抜けるしかないかな? 最初にビッターレイに行ったときみたいに」
「大丈夫でしょうか?」
「クマ狩りをして戦力を増やせば大丈夫じゃないかなぁ? それにさ。王都のほうに道を通したいって思っていたからちょうどいいかも」
「……それもそうですね。わかりました。では、まずはラズロー伯爵に手紙で王妃陛下からのご招待に喜んで応じる旨と、サウスベリー侯爵領を通らずに魔の森を自ら抜けたいので先触れをお願いしたい旨をお伝えください。するとラズロー伯爵が陛下に連絡してくださり、今後の手続きが始まります」
「あれ? 直接連絡しちゃダメなの?」
「それはマナー違反となります。王妃陛下がラズロー伯爵に仲介を任せておりますので、直接連絡をしてしまうとラズロー伯爵の面子を潰してしまいます。余計なところで波風を立たせる必要はないでしょう」
「……そっか。わかった。そうする」
「はい。それと!」
「ん? 何?」
「王妃陛下に謁見なさるのでしたら、マナーの特訓を受けていただきます。ご自覚はおありでしょうが、このところかなり乱れていますよ」
「う……でも……」
「普段の振る舞いはいざというときの振る舞いに直結します。もし初めての謁見で失敗すれば、お嬢様はずっと笑いものにされることになるのですよ?」
「は、はい……」
有無を言わさぬマリーの圧力に、あたしはただただ頷くしかなかったのだった。
◆◇◆
一方その頃、サウスベリーにある侯爵邸の主寝室でサウスベリー侯爵が目を覚ました。
「う……ここは?」
「旦那様の寝室でございます」
つきっきりで看病していたらしいメイドが事務的にそう答えた。
「……一体何が?」
「旦那様は執務の最中、過労で倒れられたそうです」
「そうか……」
サウスベリー侯爵はぼんやりとした表情のまま天井を見上げる。
「……ブライアンを呼べ」
「かしこまりました。失礼します」
メイドはそう言って頭を下げるとすぐに退室していき、すぐにブライアンがやってきた。
「ブライアン……」
「アドルフ、気分はいかがですか?」
「ああ、まあまあだ。それより一体何があったんだ? お前とサウスポートの問題を話していたことは覚えているんだが……」
「……」
だがブライアンは返事をせず、じっとサウスベリー侯爵の目を見ている。
「ブライアン?」
「……君は騎士団がスカーレットフォード男爵に敗れたという報告を聞き、倒れたのです」
「っ!? そ、そんな……馬鹿な! そんな馬鹿なことが!」
「アドルフ、落ち着いてください。また倒れてしまいます。君はサウスベリー侯爵、私たちの盟主なのですよ。君が倒れてしまえばサウスベリーは、南部貴族はどうなるのですか!」
「だが!」
「騎士たちの件は私が処理しておきました。身代金を支払い、三人のうち二人の騎士爵は取り戻せました。それにスカーレットフォード男爵は戦死した騎士たちの遺体を返却してくれています。いい噂を流させておきましたので、今ならまだ間に合うはずです。すぐにでも和解を――」
「ダメだ! あんな呪われた娘なんぞにうっ!?」
「アドルフ! 落ち着いてください! 君はまだ! 誰か! 旦那様がまた!」
ブライアンの叫び声に、メイドたちが大慌てで駆け込んでくるのだった。
◆◇◆
一方その頃、王宮の執務室にいる国王のところへ険しい表情の宰相がやってきた。
「陛下」
「ん? どうした? そんな難しい顔をして」
「想定外のことが起きてしまいました。実は……」
宰相が耳打ちすると、国王は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたのだった。
次回更新は通常どおり、2024/11/17 (日) 18:00 を予定しております。
また、仕事のほうの執筆が落ち着いてきましたので、書き溜めが増えてきましたら更新のペースを上げて行こうと思います。詳しくはまた後日お知らせいたします。