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第85話 追放幼女、後始末をする

2024/08/31 表記ゆれを修正しました

 あたしは眠い目をこすりながら、裏門のほうのキャンプ地にアルフレッド卿とエドワード卿と一緒にやってきた。


 というのも、アルフレッド卿とエドワード卿の連れてきた騎士たちが侵入者を捕らえたらしいのだ。


 まさか門を破られるなんて思ってもみなかったし、もし侵入されたとしても道の脇に潜ませたホーンラビットのスケルトンでなんとかなるって思っていたのだけれど……ううん。ちょっと侮っていたみたい。やっぱりクマをちゃんと配備しておくべきだったかな。


 さて、捕らえたという侵入者だけど……うん。やっぱりセオドリックは残ってるね。さすが、まほイケの敵役だけはある。きっと騎士団の中でもかなり強いほうなのだろう。


 それでもホーンラビットのスケルトンには何か所かブスリとやられたみたいだけど。


「アルフレッド卿、エドワード卿、侵入者を捕らえていただき感謝いたしますわ」

「いえいえ、神聖な感謝祭を冒涜する悪人を捕らえたのです。我が騎士たちも本望でしょう」

「ええ。騎士の皆様、感謝いたしますわ」


 あたしはそう言って、騎士たちに向かってカーテシーをした。彼らも騎士の礼で応えてくれるが、なんとなく歓迎されていない様子だ。


「オリヴィア嬢、彼らも疲れているはずです。早くこの侵入者どもを拘束し、牢に入れてはいかがですか?」

「ええ、そうですわね。ただ……」


 あたしはちらりとセオドリックのほうを見た。


「おや? その侵入者がどうかしましたか?」

「この者は火の精霊魔法を使うのです」

「ああ、なるほど。そういうことでしたら。おい! 火用のを持ってこい!」

「はっ!」


 すぐに騎士の一人が近くに駐車している馬車へと向かい、ベルトのようなものを持ってきた。


「アルフレッド卿、そちらは?」

「これは魔封じの輪です。これは装着者の火の魔力を乱すため、精霊に魔力を与えることが出来なくなります。この侵入者に装着させても?」

「アルフレッド卿、感謝いたしますわ」

「お安い御用ですよ。これはこのまま差し上げます」

「ありがとう存じますわ」


 アルフレッド卿はそう言ってセオドリックの首に魔封じの輪を付け、さらに後ろから小さな南京錠を掛けて外れないようにした。


 そうして彼らを地下牢に連れて行こうとしたちょうどそのときだった。岩を落としに行っていたはずのBi-93が戻ってきた。


「あれ? Bi-93、敵は全滅したの?」


 するとBi-93は頭を下げた。


「そう。アルフレッド卿、エドワード卿、侵入者たちは全滅したようです。もう大丈夫ですわ」


 こうしてあたしは避難命令を解除し、ようやくベッドで眠ることができたのだった。


◆◇◆


 翌朝、日の出と共にあたしは状況の確認にやってきた。後片付け用に大勢のゴブリンのスケルトンを連れてきているのだが、なんとアルフレッド卿とエドワード卿までついて来てしまっている。


 色々と内情を丸裸にされてしまうので本当はあまり見せたくないのだが、セオドリックたちを捕まえてもらった手前、断ることはできなかった。


「ふむ。畑で何人も倒しているのですね。これはあえて引き込んで待ち伏せを?」

「そ、そうですわね。ご存じのとおり、ゴブリンのスケルトンはあまり力が強くありませんの。ですから正面から戦っても勝ち目はあまりありませんわ」

「ほほう。なるほど。ということは待ち伏せに『ゴブすけ』を使われたのですか?」

「え、ええ。そんな感じですわ」

「なるほど」

「あ、お前たち、あそこの侵入者の生死を確認し、生きていたら拘束なさい」


 カランコロン。


 ゴブリンのスケルトンのうちの一体が縄を持って畑で血を流して倒れている侵入者に近づき、首筋に手を当てた。だがゴブリンのスケルトンは何もせずに戻ってくる。


「死体のようですわね」

「なるほど。『ゴブすけ』にはそのような命令もできるのですね。興味深い」

「え、ええ。もしご入用でしたら、エドワード卿と同じようにお貸しいたしますわ」

「本当ですか? いやあ、それはありがたいですね」


 アルフレッド卿はそう言って満面の笑みを浮かべた。


 ……はぁ。この人は本心から喜んでいるのか、それとも社交辞令なのか全然わからない。ホントに厄介な相手!


 そうしてアルフレッド卿に質問攻めにされながらも突破された裏門に到着した。


「なるほど。魔法で燃やされたのですね。こうされては木製の扉だと耐えられないでしょう。鉄格子は……熱で曲げられた、と。オリヴィア嬢、土の精霊魔法が使える騎士がいなくて助かりましたね」

「え? ……どういうことですの?」

「土の魔法にこういった普通の石垣は意味がありません。対魔法の加工を施さなければ一発で崩されてしまいます」

「そうだったんですのね」

「ええ」


 アルフレッド卿はそう言うと、すたすたと門をくぐって外に出ていった。あたしは慌ててそれを追いかける。


「ああ、これはひどい光景ですね」


 アルフレッド卿の言うとおり、門の外側には惨憺(さんたん)たる光景が広がっていた。多くの騎士たちが鳥のスケルトンたちが落とした岩やゴブリンのスケルトンたちが放った矢に貫かれている。


 怪我をして動けなくなっている者もいるようで、あちこちからうめき声が聞こえてくる。


「一人ずつ生死の確認をなさい。生きている者からは武器を取り上げ、拘束しなさい」


 あたしの命令に従い、ゴブリンのスケルトンたちが手前から倒れた騎士たちを調べていく。


「オリヴィア様、あの岩はもしや『鳥すけ』が空から落としたのですか?」


 もう! そんなことまで見抜かれるわけ!?


「……ええ。そうですわ」

「なるほど。これは中々に素晴らしい戦術ですねぇ」


 アルフレッド卿は岩で頭を潰された騎士の遺体をじっと見つめつつ、そんなことを(つぶや)いたのだった。

 次回、「第86話 追放幼女、難題に直面する」の公開は通常どおり、2024/08/31 (土) 18:00 を予定しております。


上条さやか様より、「骨は隠れて縁の下の力持ち」とのタイトルで素敵なレビューをいただきました。ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 貴族様との駆け引きが熱いですね。 [一言] ここでナイトスケルトンの材料(!)が大量に手に入ったわけですがどうするのかな・・・。 さっさと片付けないと衛生上悪いし森に放置して置いたら魔物が…
[良い点] どんどん戦術が丸裸にされてるけどこれが仲間としてなら、仲間になってくれるならこの素晴らしいと言う戦術を行える者もセットでお貸ししますとか営業すれば、派閥作れそうw そして男爵が国の貴族た…
[良い点] まだ一応友好的な貴族とは言え、色々と戦力や手の内がバレたのは将来的な不安材料になりますね。 まぁ今の主人公の心理状態であれば、そう易々と敵を増やすような行動はしなさそうではあるけど
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