第79話 侵入者たち
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オリヴィアが奉納舞を舞っていたちょうどその頃、スカーレットフォード男爵領とサウスベリー侯爵領の領境に数百人の騎士がやってきていた。
それを率いるのはセオドリックである。
セオドリックは警告の看板の前に立っており、そこには新しい文言が追加されていることに気付く。
「……武装している場合は敵対者と見なし、排除する。命の保障はない、か」
セオドリックは追加された文言を読み、険しい表情を浮かべた。それを見たモンタギューは気乗りしない様子でセオドリックに尋ねる。
「セオドリック卿、いかがなさいますか?」
「無論、押し通る。我が主の命は絶対だ」
「は……」
モンタギューは渋々といった様子で了承する。
「お前たち、我々の目標はスカーレットフォード男爵閣下の御身の安全の確保だ。現在、男爵閣下は我らが主との不幸な行き違いにより、我々に敵対心を抱いていらっしゃる。だが、我が主はその誤解を解きたいと考えておいでだ。いいな?」
「「「はっ!」」」
「よし。男爵閣下は黒目黒髪の少女で、正体不明の魔法を使う。男爵閣下の魔法に掛かると動きが制限されるため、正面で気を引きつつ背後から捕らえよ。攻撃しても構わんが、殺すことはもちろん傷つけることも禁止だ」
「「「はっ!」」」
「では行け!」
騎士たちは五名ほどのグループに分かれ、次々と散開していく。そしてセオドリックの本隊だけが残った。人数はおよそ百名程度だ。
「我々も行くぞ」
「はっ」
セオドリックたちもすぐに小川を渡り、スカーレットフォード男爵領内へと侵入するのだった。
◆◇◆
散開したグループのうちいくつかは小川を渡らず、そのまま小川沿いに進軍していった。すると向こう岸に突如、高さ二メートルほどの土壁が現れた。
一見すると堤防のようでもあるが、石垣などで補強されていないため、大雨で容易に流出するであろうことが見て取れる。
「なんだ? あれは?」
「さあな。だがどこまで続いているかわからんし、今のうちに渡っておこう」
「そうだな」
騎士たちは小川を渡り、土壁の向こう側へ回り込んだ。するとこちら側はなだらかに積まれており、簡単に土壁の上に上がれるようになっている。
「……なんだ? これは?」
「やっぱり堤防か?」
「にしては妙じゃないか? こんな僻地に堤防なんて……」
「この辺を畑にしようとしてたんじゃないか?」
「こんな魔の森の中をう゛っ!?」
突然先頭を歩いていた騎士がうめき声をあげ、足元を見た。
するとなんと! 彼の右ひざのちょうど鎧の隙間になっている箇所に真っ黒で頭から角の生えた動物の骨が刺さっていた。
そう。潜んでいたホーンラビットのスケルトンが攻撃を仕掛けたのだ。
「な、なんだ!? これ! う゛っ!」
「う゛う゛っ!?」
「がっ!?」
他の騎士たちも次々にうめき声を上げる。彼らも全身の様々な箇所の鎧の隙間に同じ黒い動物の骨が突き刺さっている。
カランコロン。
木の陰から数体のゴブリンのスケルトンが現れた。スケルトンの手には短剣が握られている。
「ひっ!?」
「な、なんだ!? あれ!」
「ぐ、うううっ」
怯える騎士たちだったが、ホーンラビットのスケルトンたちが自ら抜けたことでさらに苦痛に顔を歪める。
その間にゴブリンのスケルトンたちが騎士たちに近づき、無慈悲に短剣を騎士たちの顔面に突き立てるのだった。
◆◇◆
一方、小川を渡って街道から数百メートルほどの森の中をスカーレットフォードに向け、疾走する一団もいた。機動力を重視してか、彼らは他の騎士たちと比べてかなり軽装備だ。
彼らは藪をものともせず、軽快な動きでスカーレットフォードを目指している。
だが、突然彼らの走る地面が崩れ落ちた。
「えっ?」
「うわぁぁぁぁ」
そう、落とし穴である。しかもそこには尖った杭が所狭しと並んでいる。
彼らはそのまま落下していき、仕掛けられた杭に次々と突き刺さるのだった。
◆◇◆
セオドリック率いる本隊は街道跡を順調に進み、夜になってスカーレットフォードの街壁が見える場所へとやってきた。
ここから先は百メートルほどにわたって木が伐採されているため、もう隠れることはできない。
「セオドリック卿、いかがなさいますか? 偵察隊が戻って来ていませんが……」
「構わん。正面から打ち破る。前回でスカーレットフォードにはろくな戦力がないことを確認している。用心すべきはスカーレットフォード男爵閣下のみだ。月没を待って行動する。水堀攻略の準備をせよ」
「「「はっ!」」」
そうして準備をしている間に月が沈んだ。
「ちっ。無能どもめ。まさか誰一人スカーレットフォードにたどり着けぬとはな」
セオドリックは小さく毒づいた。
「偵察隊の捜索はなさいますか?」
「いや、不要だ。このまま作戦を続行する。モンタギュー卿、貴卿にスカーレットフォード男爵閣下の確保を命じる」
「はっ! お任せください」
「我々は正面突破を図る。スカーレットフォードに貴族は二人だけだ。他の者は何人殺しても構わん! 行くぞ!」
「「「はっ!」」」
こうしてセオドリックたちは森の中から飛び出した。その先頭には荷車があり、そこにやたらと長い木製の板状のものが載せられている。
彼らは一気に水堀まで近づくと、板状のものを押し出した。板状のものはそのまま水面に浮かび、するすると対岸まで伸びていく。
やがてその先端は対岸へと到達した。すると一人の軽装の騎士が素早く板状のものの上を渡っていく。その男はすぐに対岸へたどり着く。そして慣れた手つきで杭を打ち込み、あっという間に板状のものを固定した。
仮設橋の完成である。
「行け」
すると騎士たちは一斉に仮設橋を渡り始め、それと同時にけたたましい警鐘が鳴り響く!