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第75話 追放幼女、貴賓を迎える

2026/08/26 爵位と家系に関する一部表現を修正しました

 それから十日後、セオドリックはサウスベリー侯爵の居室を訪れた。


「セオドリック・ドーソンです! スカーレットフォードよりただいま帰還いたしました!」

「ああ。入れ」


 セオドリックが室内にはいると、そこにはソファーに座って昼間だというのに赤ワインを楽しむサウスベリー侯爵の姿があった。どうやらかなり飲んでいるようで、すでに赤ら顔になっている。


 サウスベリー侯爵はセオドリックの足元を見回す。


「おい! スカーレットフォード男爵はどこだ?」


 それに対し、セオドリックはまずサウスベリー侯爵の前に(ひざまず)いた。


「ご報告申し上げます! スカーレットフォード男爵閣下は我が主のご提案を拒否しました!」

「ああん!?」


 やや呂律の回っていない口調で大声を上げた。


「どういうことだ!」

「はっ! スカーレットフォード男爵閣下に親書をお渡しし、我が主のお言葉をお伝えしましたが、拒否されてしまいました。食い下がってはみましたがスカーレットフォード男爵閣下の考えは変わらず、もはや交渉は不可能と判断してご報告に上がりました。お役目が果たせず、申し訳ございません!」


 セオドリックはそう言って顔を伏せた。


「おい! ブライアン! ブライアンはいるか!」

「はっ!」


 遠くから声が聞こえ、パタパタと走ってくる音が聞こえる。


「お呼びでしょうか」

「おい! アレが拒否したそうだぞ! 今すぐ騎士団を差し向けろ! 力ずくでも連れ戻せ!」

「お言葉ですが、独立した男爵領に兵を差し向けるとなればさすがに相応の理由が必要です。見境もなく攻撃すると思われては大変なことになります」

「ええい! それをなんとかするのがお前たちの役目だろう! 今すぐにアレを連れてこい! 拒否するなら力ずくでもだ! 分かったな!」

「はっ!」

「……かしこまりました」


 そう言ってセオドリックとブライアンはサウスベリー侯爵に礼を執り、退室していくのだった。


◆◇◆


 感謝祭の前日になった。スカーレットフォードはその準備で大忙しなのだが、あたしはそれには参加していない。


 というのも、あたしには初めての貴賓を出迎えるという大事な仕事があるのだ。


 そのためにバッチリおめかしをし、新しく正門へと生まれ変わったビッターレイ側の門の楼閣でその到着を今か今かと待っているのだ。


 ではその貴賓が誰なのかというと、まず一組目はビッターレイから来るエドワード卿夫妻、そしてもう一組はバイスター公爵領から来る次期公爵夫妻だ。


 バイスター公爵領というのはビッターレイの属するラズロー伯爵領の南西にある大きな領地で、先々代の王弟殿下が開祖という超名門貴族だ。継承順位はかなり下だが、一応王位継承権も持っている。


 ではなぜそんなすごい人がスカーレットフォードにやってくるのかというと、なんとエドワード卿が誘ったのだそうだ。


 ラズロー伯爵とバイスター公爵はかなり仲がいいそうで、エドワード卿と次期公爵は年の差こそ離れているものの、個人的な付き合いのある友人らしい。そして旧交を温めるついでにうちとの親善交流もしてしまおうという経緯だそうだ。


 何かあれば鳥のスケルトンが報せに来るはずなので大丈夫だと思うけど……。


 少しそわそわしながら街道のほうを眺めていると、すっかり伐採されて見通しのよくなった道の向こうから騎士の集団が姿を現した。


 大勢の騎士が二列になって向かってきていて、向かって左側の先頭騎士はラズロー伯爵の旗を、右側の騎士はライオンっぽい動物をモチーフにした見たことのない旗を掲げている。


 あれがバイスター公爵の旗かな?


 そんな騎士たちの列の後ろには何台もの馬車が連なっている。


 彼らはゆっくりと道をこちらに向かって進んできており、やがて水堀に架けられた跳ね橋の前で停止した。


 そして知らないほうの旗を掲げた騎士だけが前に出て、跳ね橋の中央まで一人で歩み出た。


「我々はバイスター公爵、ラズロー伯爵の公式訪問団である。スカーレットフォード男爵閣下よりお招きいただき、参上した! 開門を願う!」


 騎士はよく通る声でそう名乗り出た。


「パトリック」

「は、はい……」


 さすがのパトリックも緊張を隠せない様子だが、残念ながらうちでこの役をできるのはパトリックしかいないのだ。


 なぜなら自警団に囚人でない者はパトリックしかいないからだ。いくら人材不足とはいえ、囚人を貴族の前に出したと知られれば侮辱と取られてもおかしくない。


 本来であれば門の守衛も門からの案内役もすべて騎士がするべきだが、こればかりは人がいないのだから仕方がない。


「ほら、マリーに教わったとおりに。大丈夫、パトリックならできるよ」

「は、はい……」

「頑張って! あたしは下に行ってるからね」

「はい」


 こうしてその場をパトリックに任せると、あたしはフォレストディアのスケルトンの背に載せた鞍に横向きに座り、楼閣から地上へと降りた。


 そこにはずらりとゴブリンのスケルトン、そしてクレセントベアのスケルトンが並んでいる。


「お話! 承っております! スカーレットフォードは皆様を歓迎いたします! 開門!」


 パトリックの言葉でまずは内側にある観音開きの木製の扉が開かれ、続いて外側にある吊り下げ式の格子が引き上げられていく。


「行くよ。あの男の正面まで移動して」


 あたしは一人で騎士の男の前まで歩み出た。


「わたくしはスカーレットフォード男爵オリヴィア・エインズレイですわ。遠路はるばるようこそお越しくださいました」


 すると騎士の男はすぐさま下馬し、あたしに礼を執った。


「男爵閣下直々のお出迎えに感謝いたします。私はキース・ゴドウィン、我らが訪問団の団長である次期バイスター公爵アルフレッド・ゴドウィンの従兄弟でございます」

「ええ。お会いできて光栄ですわ」


 あたしが右手を差し出すと、キース卿はその手の甲にキスをする仕草をしたのだった。

 次回、「第76話 追放幼女、会談をする」の公開は通常どおり、2024/08/21 (水) 18:00 を予定しております。


T. matsusaka様より「スケルトン革命!」とのタイトルで素敵なレビューをいただきました。サイトの仕様上、レビューにはお返事ができませんのでこの場をお借りして御礼申し上げます。ありがとうございました。レビューをいただき、執筆意欲がぐんぐんアップしております!

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― 新着の感想 ―
[一言] 実家完全に終わったな…。
[一言] ここからの展開が楽しみ。
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