第69話 追放幼女、土砂ダムを撤去する
2024/08/17 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
2024/08/26 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
2025/07/22 誤字を修正しました
翌日、あたしは砂金を回収するために作ったため池にやってきた。
まずはここの水を抜いておこうと思う。
というのもここの水をあらかじめ抜いておけば、万が一土砂ダムが決壊したとしても多少は被害を軽減できると思うからだ。
もちろん、ボブにも相談して水を抜いても問題ないことを確認してある。
「水を抜いて」
カランコロン。
あたしが命令すると、ゴブリンのスケルトンがワイルドボアのスケルトンを連れて排水路へと向かった。そしてワイルドボアのスケルトンに鎖を結びつけると、ワイルドボアのスケルトンがゆっくりとそれを引っ張る。
鎖は滑車を通して止水板に繋がっており、ワイルドボアのパワーで重たい鉄製の止水板はゆっくりと上がっていく。
ザァァァァ!
ため池に溜まっていた水が勢いよく流れていく。
それからしばらく待っているとほとんどの水がなくなり、水中で砂金採りをしていたゴブリンのスケルトンたちが姿を現した。
ゴブリンのスケルトンたちは気にした様子もなく、せっせと溜まった砂利を調べている。
ちなみにスケルトンは水中でも普通に仕事ができる。よく考えたら当たり前だけど、スケルトンは別に呼吸する必要はない。そして骨が水に沈むのと同じようにスケルトンも水に沈むため、水中で作業することになんら支障はないのだ。
もちろん、動きは多少鈍くなるけれど。
「よし。できたね。そのまま止水板は上げたままにしておいて。あと、底に溜まった土砂を撤去しておいて」
あたしはそう命じると、続いて土砂ダムへとやってきた。
土砂ダムの堤体となっている岩や土砂を上から順に撤去していくのだ。
あたしたちの誰も知識を持っていないので分からないのだけど、多分、普通の工事手順では溜まった水を流す仮設の水路を作るのが先なんだと思う。
だって、下手なことをすれば土砂ダムは決壊し、土石流となって作業員を巻き込んで下流に甚大な被害を与えることになるだろうからね。
ただ、今回はもうすでにその隙間から水が流出しているのだ。こうなると崩れるのは時間の問題なんじゃないかと思うし、そもそも作業するのはスケルトンであって人ではない。
スケルトンには魂もなければ命もない。要するにあたしの魔力で動いているロボットのようなものなんだから、人身事故なんて考えなくていいよね。
あたしはもし決壊しても安全なように土砂ダムの上流側に移動してから指示を出していく。
「岩と土砂を上から順に撤去して。撤去する高さは水面まで」
カララララン。コロロロロン。
大量のゴブリンとワイルドボアのスケルトンが一斉に協力して岩や土砂を撤去していく。
「撤去したもののうち、岩は砂金があるかもしれないから砕石場に運ぶ。土砂は水で洗って砂金がないか調べて、砂金以外は流す」
スケルトンたちは命令に従い、粛々と作業をしていくのだった。
◆◇◆
そうしてスケルトンたちを文字どおり二十四時間働かせた結果、たったの三日で土砂ダムの水面より高い部分の撤去に成功した。
その結果分かったことは、巨大な岩と岩の間に隙間ができていて、水はそこから漏れていたらしいということだ。
ざっと見る限り、他に水漏れしている箇所はないように見える。
「うん。じゃあ、上から少しずつ土砂を撤去」
ワイルドボアのスケルトンが器用に前脚を使って少しずつ土砂を掘っていき、それをゴブリンのスケルトンたちが運んでいく。
するとその掘った場所に水が流れていき、下流へと流れていく。土砂を削っているのか水は茶色く濁っており、徐々にその勢いを増していく。
ドシャア!
突然、ワイルドボアのスケルトンが掘っていた場所が崩壊した。一気に池の水が流れ込み、濁流となってワイルドボアのスケルトンを飲み込んだ。
そのままワイルドボアのスケルトンは百メートルほど下流に流されていく。
だがワイルドボアのスケルトンは何事もなかったかのように立ち上がり、カランコロンと乾いた音を立てながらこちらへと戻ってくる。
一方の土砂ダムはというと、幅一メートルほどが崩れ落ちている。だが底の部分まですべて崩れたわけではないらしい。
ふう。良かった。全部崩れなくて。
「掘るのは一旦停止。水が落ち着くのを待って」
そうしてしばらく待っていると、水の流出が穏やかになった。見たところ、洪水もここから見える範囲でしか起こっていないので大丈夫そうだ。
「じゃあ、再開ね」
こうしてあたしは少し掘っては作業を止めるという作業を繰り返すのだった。
◆◇◆
一方、王都ルディンハムの王宮では国王とアレクシアが優雅にティータイムを楽しんでいた。穏やかな雰囲気の中、国王がアレクシアに話を切り出す。
「シア」
「はい、お父さま」
「お前が前に話していたサウスベリー侯爵の件だがね」
「はい」
「いいかい? 淑女たるもの、根も葉もない噂を流してはいけないよ。このことは王宮の者たち全員に徹底させるように命じておいた」
国王はまるで優しく諭すようにそう話した。
「え?」
「だって、そうだろう? 本当かどうかも分からない噂で、ましてや悪魔憑きで娘に乱暴をして殺そうとしただなんて、あまりにもひどい噂だとは思わないかい?」
「それは……」
「シア、もしシアが悪魔憑きとなった私に乱暴されて捨てられた、などと噂されたらどう思うかい?」
「っ!」
アレクシアは息を呑み、申し訳なさそうに俯いた。
「うん。だからね。あまりにもひどい事実無根の噂を流す者がいるのだとしたら、処罰することも考えないといけないと思っているよ」
「そう……ですわね」
「といっても、この話をするのはシアが初めてだよ」
「そうなんですの?」
「ああ、そうだとも。シアのお友達にも、私がそう考えているって教えてあげたらどうかな? そうすればきっとそんなひどい噂を流す者も減るんじゃないかな?」
するとアレクシアはパァッと表情を輝かせる。
「はい! わかりましたわ! お父さま!」
そんなアレクシアを国王はニコニコと微笑みながら見ていたのだった。




