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【Web版】追放幼女の領地開拓記~シナリオ開始前に追放された悪役令嬢が民のためにやりたい放題した結果がこちらです~  作者: 一色孝太郎


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第65話 騎士団と魔の森(後編)

2024/08/26 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました

 点検と休憩を終えたセオドリックたちは気絶したポールを従騎士たちに任せ、探索を再開した。このあたりは昼間でも薄暗いせいか、入口に近い場所と比べて草の背丈が低い。


 そのためセオドリックたちは草刈りをせずに進んでいるのだが、二百メートルほど進んだところで今度はワイルドボアが目の前に現れた。


「くっ。なぜこれほどの頻度で魔物に出会うのだ?」


 だがワイルドボアがその問いに答えるはずもなく、セオドリックたちを目掛けて突進してくる。


「受け流せ! ワイルドボアを正面から受け止めてはならん!」

「はっ!」


 巨大な盾を持った騎士の一人が、ワイルドボアの突進を先ほどフォレストディアにしたように受け流そうとする。だがその勢いに押され、三メートルほど飛ばされてしまった。


 騎士はなんとか体勢を整えたものの、分厚い金属製の盾は大きく歪んでいる。


「ブフー!」


 騎士が立っているのを見たワイルドボアは、再びその騎士に向かって突進する。


「くっ! 今度こそ!」


 騎士は盾でワイルドボアの突進をいなし、数歩後退するだけで受け流すことに成功した。だがワイルドボアはもう一度攻撃しようとすぐさま頭を下げる。


 だがその間に他の騎士たちはワイルドボアを包囲し、次々と槍でワイルドボアを突いていく。


 ほとんどの槍はその硬い皮膚に弾かれてしまうが、そのうちの一本が目に、もう一本は鼻先に突き刺さる。


「ブフー! フゴォォォォォ!」


 それでもワイルドボアは叫び声を上げ、騎士に向かって突進する。


「うおっ!?」


 騎士の男はまたもや受け流そうとしたものの、失敗して十メートルほど吹き飛ばされてしまった。


 草と低木をなぎ倒し、地面の上を数メートル転がったところで騎士の男はようやく止まった。


 一方のワイルドボアは……。


「フ、フゴ……」


 大量の血を流しながら弱々しく鳴き、そのまま崩れ落ちた。


 というのも鼻先に槍が刺さったまま突撃したため、なんと自身の体重によって槍がより深く突き刺さる結果となったのだ。


 ワイルドボアの撃退に成功したものの、セオドリックはすぐさま決断を下す。


「ちっ! 撤収だ! マイルズ卿を搬送しろ!」

「「「はっ!」」」


 こうして半日がかりの探索を終え、セオドリックたちはクラリントンへと引き返すのだった。


◆◇◆


 その日の夕方、町長の執務室の扉が乱暴に開かれた。


「なんだ! この無礼――」

「おい、町長」

「ひっ!?」


 まるで鬼のような形相で入ってきたセオドリックに町長は思わず小さく悲鳴を上げた。


「ど、ど、どうなさいましたか? 随分とお早いお帰りで……」

「どうした、だと? 貴様が仕事を怠っていたせいだろうが!」

「へっ? それは一体どういう……」

「フォレストディアとワイルドボア、それぞれ一体ずつだ」

「それは……かなり森の奥まで入られたの――」

「一キロも入っていない!」

「えっ!?」

「よくもまあ、あそこまで魔の森を放置したものだな! 森の手入れを怠れば魔物どもと人の領域の境界は曖昧になる。その程度のことは知っているだろう!」

「そ、それは……」

「クラリントンの民に被害が出ていたらどうするつもりだ?」


 セオドリックはそう言ってギロリと町長を(にら)む。


「そ、それは……」


 そう口ごもると、セオドリックに聞こえないほど小さな声で「最初からいなかったことにすればいいのでは?」と(つぶや)いた。


「何か言ったか?」

「い、いえ……」

「大規模な魔物狩りが必要となる。騎士団にも事情を伝え、増援を要請する。これほどの密度の濃い魔の森をこの人員で突破するのは不可能だ」

「……」

「貴様は責任問題になるだろうな。覚悟しておけ」

「ひっ!? そ、それだけはどうか!」

「少しでも罪を軽くしたいのであれば、魔の森との戦いに尽力することだな」

「そ、そんなぁ……」


 町長は情けない声を上げると、がっくりとうなだれた。一方のセオドリックはその様子を見て鼻で笑うと、くるりと背を向けて執務室から出て行くのだった。

 

◆◇◆


 その後、すぐさま騎士団に随行していた騎士の一人が従騎士たちを連れ、大急ぎでクラリントンを出発した。


 それを見たクラリントンの住民たちは、口々に噂を始める。


 たとえばここは場末の酒場。安酒を求めてその日暮らしの労働者たちが集まっており、その一角ではこんな会話がされている。


「なあ、お前見たか? 騎士さまたち」

「ああ。なんかずいぶん急いでたよな」

「急いでた? 俺が見たのは怪我人を運ぶ騎士さまたちだぜ」

「マジで? 騎士さまが怪我?」

「ああ。担架で運んでたからよ」

「わざわざ担架で? 馬車ぐらいあるだろ?」

「なんか、魔の森に入ったらしいんだよ。だから馬車が使えなかったんだろ」

「そういうことか。つーことは、魔の森で怪我をしたってことだよな?」

「だな」

「だとすると、応援を呼んだってことだよなぁ」

「ぽいよな」

「……なあ」

「ん?」

「それってもしかして、川の水位が下がってることと関係あるんじゃね?」

「え? どういう……あ! もしかして!」

「だろ? かもしれないだろ?」

「んん? どういうことだ?」

「魔の森にヤバい魔物が出たってことだよ。で、その魔物が水を飲みまくってて、それを知った騎士さまたちが退治に行ったんだよ。でも返り討ちにあって、それで応援を呼んだんじゃねぇかってこと」

「ああ、そういうことか。言われてみればそうかもな」

「騎士さまがやられて水を飲みまくるっていうと、やっぱめちゃくちゃデカいんだろうなぁ」

「ああ。ドラゴンとか?」

「ドラゴンかぁ。俺ら、大丈夫なのか?」

「やべぇかもなぁ」

「……引っ越すか?」

「どうしようかなぁ。ここは色々あるけど、税だけは安いからなぁ」

「あー、そうだよなぁ。なんだかんだ、暮らしていくには悪くないんだよな」

「だよなぁ」


 そう言って彼らはジョッキを傾けるのだった。

 書き溜めが尽きてきたため、明日 2024/08/15 (木) からは 18:00、21:00 の二回更新、来週からは 18:00 の一回更新となります。ご了承ください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 悪徳貴族の領地だし税も馬鹿みたいに高いのかと思ってたら違うんだな。 底辺の人間を集めて人攫いをやりやすくするためか?詐欺とかの悪いこともやりやすくなるだろうしな。
[良い点] 人さらいの町の住人はしょせん人さらい
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