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第53話 追放幼女、行商人を迎える

 スカーレットフォード街道の開通から三か月ほどが経過した。すでに街道周辺の魔物は完全に駆逐され、お肉と毛皮とスケルトンへと変わった。


 え? 野営地の補強なんかしてないで、さっさとこれをすれば良かったんじゃないか?


 ……うん。あたしもそう思っているところだ。


 いや、でもさ。こんなにさっさと片付くなんて思わないじゃない。


 スカーレットフォードが開かれてからどれだけ苦労したかというのもあるし、あたしが来てからだってゴブリンに襲われてあわやということもあった。それにビッターレイではあれほど高い街壁を作って魔物を退けていて、しかもラズロー伯爵は銅像が建てられるほどの英雄になっているんだよ?


 それがまさかこんなにあっさり終わるなんて、ねえ?


 ちなみにその方法だけれど、シンプルに物量で押し切った。


 鳥のスケルトンとその他のスケルトンを一か所に大量投入し、魔物を見つけたらあたしかクマの何号かが行って根こそぎ退治する。これをこの三か月間、ひたすら繰り返したのだ。


 そのうち森の奥から他の魔物がやってくるかもしれないけれど、森の中のあちこちに監視用のスケルトンたちを配置してあるのでその動きは察知できる。


 そしてこの監視役は土木作業であまり出番のないジャイアントラットやホーンラビット、さらに穀物を狙って侵入してきた野ネズミなどの不届きな小動物で作ったスケルトンにやらせている。


 え? 野ネズミのスケルトンの名前はどうしたか?


 あはは、それがね。もう面倒になったから、名前をつけるのはやめにしたよ。


 だって、魔物のスケルトンだけでももうゆうに千体を超えているからね。名札がないとあたしだって個体の判別ができないのに、小動物のスケルトンにまで名札なんてつけてられないでしょ?


 と、それはさておき、すっかり安全になった街道を通ってビッターレイからの行商人第一号がやってきた。


「スカーレットフォード男爵閣下、お初お目にかかります。私はサムナー商会のトム・マコーネルと申します」


 あたしのところに挨拶にやってきたこの男は、前にお話した会頭さんではない。かなり若く、おそらくまだ十代だと思う。


「ええ。ようこそお越しくださいました。スカーレットフォード男爵オリヴィアですわ。会頭はお元気かしら?」

「はい! ジョン会頭より贈り物を預かっております! ぜひお納めください」


 トムはそう言ってしっかりと包装された小箱を差し出してきた。


「そう。ありがたく頂いておきますわ。ウィル、そこの机の上に置いておいて」

「へい」


 ウィルがトムから小箱を受け取った。


「トム、滞在のご予定はどうなっていますの?」

「はい。三日ほど。その間に店を出させていただきたく、その許可をいただけませんか?」

「ええ。この家の前の中央広場で、通行人に迷惑にならない場所であれば構いませんわ」

「ありがたき幸せ!」


 トムはそう言うと、大げさに頭を下げてきた。


 それから少し話をし、トムは退出していった。それを見送ったあたしはウィルに声を掛ける。


「ウィル、その箱を開けてみて。中身は何かな?」

「へい」


 ウィルはビリビリと乱暴に包装紙を破いて中身を取り出した。


「ん? なんすか? これ? ただの布っぽいっすけど」


 ウィルは中身を指で摘まんで持ち上げた。真っ白で光沢のある滑らかな布が垂れさがる。


「ああ、それはシルクの生地だね。女性へのプレゼントとしては、まあまあって感じかな」

「そうなんすか?」

「うん。せっかくだし、ハンカチにでもするよ」

「っつーことは、ベラんとこに持って行けばいいっすか?」

「うん。よろしくね」

「へい」


 あたしは箱を持って出ていくウィルを見送ると、小さく(つぶや)いた。


「はぁ。まったく、油断も隙もあったものじゃないね。面倒くさい」


 ああ、というのもね。マリーによると、男性からプレゼントされた生地を服とかストールなんかの着るものにすると、『あなたの好意を受け入れます』っていう意味になっちゃうんだって。


 だから消耗品のハンカチにして使うことで、『ありがたく受け取ったけど、それ以上の関係は望みません』って線引きをしないといけないらしいよ。



◆◇◆


 一方その頃、王都ルディンハムのとあるお屋敷のテラスでは、見るからに裕福そうな婦人たちが優雅にお茶会を楽しんでいた。


「ねえ、お聞きになりました? あの噂」

「あら、どの噂かしら?」

「ほら、最近話題の」

「ああ、あの。サウスベリー侯爵がまだ幼い娘を惨殺したっていう」

「そうそう、その噂ですわ。なんと恐ろしい」

「ねぇ。でも本当に……実の娘に手をかけたんですの? わたくし、とても信じられませんわ。しかもその娘、かわいい盛りの年齢だったそうじゃありませんか」

「ええ。でも、皆さんそう仰っているじゃない」

「それはそうですけれど……」

「あら、わたくし、今日は新しい噂を聞いてきましたわ」

「え?」

「なんでもサウスベリー侯爵は娘を殺した罪を隠すため、なんと陛下を欺いたそうですわ」

「えっ!? 陛下を!?」

「どういうことですの?」

「それが、娘に爵位を継がせると言って、サウスベリー侯爵が持つ男爵位の譲渡証明書にサインさせたらしいんですのよ」

「まあ! 陛下を騙すだなんて、なんて不敬なのでしょう」

「信じられませんわよねぇ」

「悪い評判の多いお方ではありましたけれど、まさかそこまでのことを……」

「でも、陛下はどうしてそのような外道を野放しになさっているのかしら」

「それは、そうですわね」

「不思議ですわねぇ」


 すると一人の気の強そうな夫人がハッとした表情になる。


「あら? どうされたの?」

「もしや、陛下は何か弱みを握られているのではなくて?」

「えっ!? 本当ですの!?」

「あら、もちろんただの推理ですわ」

「ですわよねぇ」

「ええ」

「でも、一理ありますわね。だって陛下が正義を愛し、公明正大でいらっしゃるのは有名な話でしょう? だとすれば、このように外道な行いをお見逃しになるはずがありませんわ」

「それは……そうですけれど……」

「ならばわたくし、今度主人に聞いておきますわ」

「あら、それはいいですわね。あなたのご主人なら、宮殿にも出入りできますものね」

「ええ、わかりましたわ。でも、皆さんも何かわかったら教えてくださいまし」

「もちろんですわ」

 次回、「第54話 追放幼女、行商人の話を聞く」の公開は通常どおり、明日 2024/08/11 (日) 12:00 を予定しております。

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― 新着の感想 ―
[一言] うわさ話がスキップしながらひとり歩きしているwww
[一言] 意外と他の貴族ってまとも?
[気になる点] 短期間で狩りすぎでは無いかな? 生態系狂う気がする
感想一覧
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