第49話 追放幼女、寝しなを襲われる
2024/08/17 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
「マリー、スケルトンたちが野ウサギを捕まえてきたよ。丸焼きにしようよ」
「かしこまりました」
「えっ!? 肉を焼くんですか!?」
あたしが野ウサギをマリーに手渡すと、サイモンが目を見開いて驚いた。
「サイモン、お肉は新鮮なうちに食べなきゃね」
「で、ですが……ここは魔の森の中ですよ? そんなことをしたら魔物を呼び寄せてしまうのでは……」
「そうだね」
「なら!」
「えっ!? お嬢様! そういうことでしたら!」
「マリー、そのためのテストなんだよ。どんな魔物が寄ってくるのか、この野営地の弱点がなんなのかをちゃんと確認しないと」
「ですが……」
「もし商会の人たちが野営地でやられたりしたらさ。きっともう誰も来てくれなくなっちゃうでしょ? だから、わざとおびき寄せるの。魔物はあたしとスケルトンたちでなんとかなるから」
「そうですか……」
「じゃ、そういうわけでマリー、よろしくね」
「……かしこまりました」
マリーは渋々といった様子ではあるが、納得してくれたようだ。
こうしてあたしたちはたき火をし、夕食に野ウサギのローストを食べたのだった。
やがて日が落ち、しばらく時間が経った。サイモンたちは明日に備えてもう眠ってもらっている。
「魔物、来ないね」
「はい。ですが、良いことではありませんか?」
「それはそうなんだけど、テストにならないのはちょっとね」
するとマリーはやれやれといった表情で微笑んだ。
「お嬢様、少々働きすぎではございませんか?」
「え? うーん、そうかな?」
「そうですよ。いくらお嬢様が大人びているとはいえ、まだ九歳なのですよ? お嬢様にはよくお眠りになり、大きく立派に成長していただきたいのです」
「え? あー、うん。分かった。スケルトンたちも警戒してるし、そろそろ寝ようかな」
「はい、そうなさってください」
すると突然、鳥のスケルトンがあたしのところにやってきた。そして翼を広げ、左右に大きく揺れてアピールをしてくる。
「お嬢様?」
「なんか魔物が来たみたい。ちょっと見てくるよ」
あたしは起き上がり、すぐにテントから飛び出す。
「お嬢様! 私もお供します! 私だって水の精霊魔法を!」
「大丈夫だよ。あのアピールの仕方は、魔物は単独ってことだから。それにもう見つけてるんだし、大丈夫だよ。あたしが普通の魔物程度には負けるわけないって知ってるでしょ?」
「ですが……」
「いいから待ってて。じゃ」
「お嬢様!」
あたしは一人で門のほうへと向かい、門のわきの階段から壁の上に登ってみた。すると月明かりに照らされた道の先に一頭の大きな熊がおり、のっしのっしとこちらに向かって歩いてきているのが目に入る。
大きいし、見たことない魔物だね。
そんなことを考えつつ観察していると、熊があたしに気付いたらしい。猛スピードでこちらに向かって走ってくる。
そのままあたしに飛びかかってくるのかとも思ったが、熊は壁の二メートルぐらい手前でピタリと止まり、あたしのほうを見上げつつも周囲をウロウロしている。
立ち上がって壁に手を掛けたりしているが、どうやらこの壁をよじ登ることはできないらしい。
「グオォォ!」
腹を立てたのか、あたしに向かって吠えてきた。
「グルルルル」
熊は唸りながらウロウロと歩き回ると、突然ジャンプして壁を登ろうとしてきた。爪を引っかけ、よじ登ろうとしてくるが、そのまま地面に落ちていく。
「グゴォォォォ!」
落ちたのが悔しかったのか、再びあたしに向かって吠えてきた。
この攻撃性、やっぱり動物じゃなくて魔物だよね。
それから熊の魔物はウロウロとしながら壁のあちこちを殴りつけ、ゴン、ゴンと鈍い音を立てている。
すごいパワーだ。版築土塁の木枠がバリバリと壊されていく。だがその木枠は単に撤去していないだけなので、構造には特に関係ない。木枠の内側には突き固められた土がぎっしりと詰まっており、この程度で崩壊することはないはずだ。
「グォォォォ!」
そうこうしているうちに熊の魔物は木枠を手あたり次第に破壊していき……。
「あ!」
熊の魔物は門のところまでやってきて、その門に思い切り前脚のパンチを叩き込んだ。
ミシィ!
分厚い木製の門が大きく軋む。
「グゴ? グゴォォォ!」
熊の魔物もそのことに気付いたようで、門を何度も何度も殴りつける。そして……。
ドゴォォォォン!
木製の門は音を立てて崩壊した。
「まずい!」
あたしは慌てて熊の魔物の魂を縛った。
「G-189! G-190! やりなさい!」
すると二体のゴブリンのスケルトンたちがさっと近づき、動けない熊の魔物の下に潜り込む。
「グゴォォォォォ。ガ、ゴヒュッ……」
ゴブリンのスケルトンは柔らかいお腹側にナイフを突き立てた。熊の魔物は大量に出血し、やがてぐったりとなる。
「G-189、G-190、死んだのを確認したら解体。Bi-83は解体した内臓と肉をここから西に一キロの場所に捨ててきて。G-191は井戸で水を汲んで、血を洗い流して」
カタカタカタ。
「G-192とG-193は門の修理」
カタカタカタ。
スケルトンたちはすぐさまきびきびと働き始めた。あたしはスケルトンたちにその場を任せ、テントへと戻る。
「お嬢様?」
「マリー、もう片付いたから大丈夫だよ。野営地の弱点も分かったし、帰ったらウィルたちに相談してみる」
「そうでしたか」
「うん。だからマリーももう寝てね。あたしも寝るから」
「かしこまりました」
「じゃ、おやすみ」
「はい、おやすみなさいませ」
こうしてあたしは自分のテントの中へと入るのだった。
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