第48話 追放幼女、街道の点検をする
それからサムナー商会というビッターレイのローカル商会の会頭とも話をしたが、やはりスケルトンに興味津々といった様子だった。
やはり彼らの目にもスケルトンは魅力的に映ったのだろう。
こうして外の人と交流して初めて分かったけれど、もしかしてあたしの領地、このスケルトンレンタル業だけで成り立つんじゃないかな?
だって、今はエドワード卿のところにだけ貸し出しているけど、それだけでも月の収入は大金貨二十五枚、一万二千五百シェラングにもなる。これはサウスベリー侯爵邸の使用人を二千五百人雇えるだけの大金だ。
他の領地のことは分からないのでなんとも言えないけれど、スカーレットフォードのような小さな村が得られる収入としては破格な気がする。
しかもスケルトンの数を増やせば貸出先をもっと増やせるし、多分競合も出てこないと思う。
だって、まほイケでは闇の神聖魔法はレアな光の神聖魔法よりもさらにレアで、悪役令嬢オリヴィアだけが使えるという設定だったもの。
といっても、現状ではスケルトンの数が足りないから絵に描いた餅だけどね。
さて、そんなこんなでビッターレイでの予定をすべて終えたあたしは今、スカーレットフォードへと向かって馬車で移動している。
来るときはかなり駆け足だったので、帰りは普通の旅人と同じペースでゆっくり進み、街道に問題がないかを確認しようと思っている。
スカーレットフォード街道の所要時間は通常で四日ほどだ。そして街道の途中には三ヵ所の野営地を整備しておいたのだけれど……。
なんてことを考えていると馬車が止まり、外から声を掛けられる。
「男爵様、第三野営地の入り口に着きました」
あ、ちょうどそのひとつ目に到着したみたいだね。よし。じゃあ、しっかり確認していこうか。
あたしは御者台のほうへと移動し、外の様子を確認する。
街道から分岐するように太い道が伸びており、第三野営地という立て看板が設置されていた。さらにその道の先には五メートルほどの高い壁と門が見え、その前を二体のゴブリンのスケルトンが警備している。
「サイモン、入って」
「はい」
あたしたちの馬車が近づくとスケルトンたちが門を開けたので、そのまま門をくぐる。
中は綺麗に整地されており、馬車五台分の駐車スペースを備えた野営地となっている。もちろんこの野営地は高い壁でぐるりと囲まれており、さらにその壁の上には四か所にゴブリンのスケルトンを立たせてある。
また、その壁も木枠で土を押し固めて作った版築土塁というものなので、ちょっとやそっとでは壊れないはずだ。
それにこれだけ高い壁であれば魔物の視線も遮れるので、襲われるリスクをかなり減らすことができるだろう。もちろん、鼻の利く魔物にはあまり意味はないけれど。
「井戸は……あそこかな」
あたしは馬車を降り、野営地の隅に設置された井戸らしき場所に近づく。
「サイモン」
「はい」
サイモンが木製の蓋を開け、釣瓶を落とす。しばらくするとバシャンという水音が聞こえてきたので、サイモンは釣瓶を引っ張り上げる。
すると中には綺麗な水がなみなみと入っていた。
あたしはその水を手ですくい、口をつける。
「うん。美味しい」
井戸水って冬は温かく、夏は冷たいのがいいところだよね。
「じゃ、今日はここで野営しようか」
「はい。準備します」
こうしてあたしたちは第三野営地に泊まることとなったのだった。
◆◇◆
一方その頃、ミュリエルのお気に入りのカフェであるモーティマーズでは、ミュリエルとその取り巻きたちがティータイムにオリヴィアの話題を楽しんでいた。
「ミュリエル様! オリヴィア様、本当に素敵でしたわね!」
「でしょう? まだ九歳だなんて信じられませんわよね!」
「本当ですわ! ミュリエル様が天才って仰っていた意味がわかりましたわ。あれで魔法まで使われるのでしょう?」
「ええ。スケルトンという黒い骨の人形を生み出して操る魔法ですわ」
「すけ……るとん?」
「ええ。倒した魔物の骨を使って作る人形だそうですわ」
「聞いたことがありませんわね」
「でも、本当にすごいのですわ。道を作ったのもほとんどスケルトンたちなのだそうですわ」
「そうなんですのね」
「ええ。それに、スケルトンは魔物退治も糸つむぎもするそうですわ」
「それはすごいですわ!」
「あら? ミュリエル様、オリヴィア様は魔物の骨を使ってすけるとん? をお作りになるのですよね?」
「そうですわ」
「ということは、オリヴィア様は魔物を倒せば倒すほどお強くなられるということではなくて?」
「そのとおりですわ。きっとオリヴィア様が大人になられる頃には万の軍勢を従えてらっしゃるかもしれませんわ」
「きゃぁっ!」
「素敵ですわ! 大人になられたオリヴィア様、きっと凛々しくてカッコイイのでしょうねぇ」
「間違いありませんわ! 今だってあんなに整ってらっしゃるんですもの」
「「ですわねぇ~」」
ミュリエルたちはそんな話をしながら、きゃいきゃいと楽しそうに盛り上がるのだった。
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