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第46話 追放幼女、開通記念式典に参加する

2024/08/09 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました

2025/05/23 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました

 あたしたちは馬車に乗り、町長の屋敷にやってきた。マリーにエスコートされて馬車を降りると、そこにはエドワード卿を先頭にミュリエルとグロリアさんとデイヴィッドさん、そして屋敷の使用人たちがずらりと並んであたしたちを出迎えてくれている。


「スカーレットフォード男爵閣下、ご足労いただきありがとうございます」

「ええ、お久しぶりですわ」

「こちらこそ。建設にスケルトンをお貸しいただき大変助かりました」

「とんでもございませんわ。わたくしたちにとって必要な道ですもの」


 そんな表面的な会話をしていると、ミュリエルがエドワード卿を小さくつついた。


「おっと、そういえば、うちのミュリエルが男爵閣下がお越しになるのをそれは楽しみにしておりましてな」

「まぁ、そうだったのですね。嬉しいですわ」


 あたしはそう言ってミュリエルの前に移動する。


「ミュリエル、久しぶりだね」

「はい! オリヴィア様、お久しぶりです! その赤いドレス、とっても素敵で、お似合いですわ。もしやキャサリンの?」

「うん。ミュリエルが紹介してくれただけあって、とてもいいブティックだね」

「まあ! オリヴィア様のお役に立てたなんて光栄ですわ」


 それから再び他愛のない話をする。


「騎士爵夫人、騎士爵令息、ご無沙汰しておりますわ」

「はい。ご無沙汰しておりますわ」

「ご無沙汰しております」


 グロリアさんとデイヴィッドさんとも軽く挨拶を交わす。


「ささ、長旅でお疲れでしょう。明日は午前中からです。どうか本日は我が家でごゆるりとおくつろぎください」

「ええ、お世話になりますわ」


 こうしてあたしたちは屋敷の中に入るのだった。


◆◇◆


 その日はゆっくりと体を休め、翌日あたしはレッドのドレスを着て式典会場にやってきた。


 その場所はどこだと思う?


 なんと! 前回訪れた中央広場なのだ。


 これが何を意味しているのかというと、スカーレットフォードへと伸びる街道のビッターレイ側の起点が北門――元々は魔の森門と呼ばれていたが、これを機に改称するそうだ――ではなく、この中央広場になっているということだ。


 それが何を意味しているのかというと……実はあたしもよく分からない。


 ちなみにあたしは道なんてちゃんと繋がっていればいいと思っているので、スカーレットフォード側の起点は裏門になっている。


 ただ、ここを起点にすることになったのは、ラズロー伯爵の一声で決まったらしいんだよね。


 エドワード卿によると、もともとビッターレイの北門と中央広場の間には馬車がすれ違える広さの一直線の道があり、魔の森で万が一が発生したときに素早く兵士や物資を送り込めるようになっていたのだという。


 そのため、ラズロー伯爵は街道を管理するという観点から町の中の道と外に新しく作った道を一体という扱いにするように命じたのだそうだ。


 うーん? 分かるような、分からないような、なんとも言えない感じだね。


 それはさておき、中央広場には大勢の人が集まってきている。


 そろそろ開始かな?


「それではこれより、スカーレットフォード街道の開通記念式典を開催いたします」


 そんなことを考えていると、司会進行役の男性が大声で式典の開始を宣言した。


「まずは、ビッターレイ町長エドワード・ハローズ卿より祝辞を頂戴いたします」


 するとエドワード卿が壇上に登る。


「えー、本日は晴天に恵まれ、天も祝福する中、えー、かねてよりの懸案だった魔の森の対処に向け、えー、スカーレットフォード男爵領領都スカーレットフォードへの道が開通したことは大変喜ばしく、えー、魔の森の魔物の脅威は……」


 エドワード卿は長い祝辞を原稿に目を落としながら抑揚もなく読み上げている。


 ……あれ? これってもしかして、アレかな? 前世の学校の卒業式とかで、校長先生が誰も聞いてないのにすごい長い祝辞を話し続ける的なの?


 ネットとかでネタにされているのを何度か見かけたけど、なるほどねぇ。たしかにこういうの、やられると迷惑かもね。


 だって、主賓のあたしですら退屈だもん。聞いている人にとってはきっと尚更だよね。


「……であります。えー、これを祝辞と代えさせていただきます」


 パチパチパチパチ。


 ん? 終わったの?


 ああ、長かったなぁ。


 エドワード卿が満足げな表情で壇上から降りてくる。


 あれ? もしかして、式典ってああいう風に長いのをやらないといけなかったりするのかな?


 そんな長いの、用意してないけど……。


「続きまして、スカーレットフォード男爵オリヴィア・エインズレイ閣下より祝辞を頂戴いたします」


 ま、いっか。アドリブなんてできないし、用意したものをさっさと喋って終わりにしようっと。


 あたしは立ち上がると、デイヴィッドさんにエスコートされて壇上へと上がる。


 ……あ、あれ? なんだか、ものすごい注目されてる?


 う……見られてると思うと緊張するね。


 でも、こんなところで失敗なんてしたくない!


 あたしは気合を入れ直し、観衆のほうに視線を向ける。


 ざわ……。


 なぜかは分からないが、観衆がざわついている。


 あれ? なんで? でも、なんだか急にプレッシャーを感じなくなったね。


 うん。これなら大丈夫。


「ビッターレイの皆さん、そしてラズロー伯爵領の皆さん、わたくしはスカーレットフォード男爵オリヴィア・エインズレイです。今日という記念すべき日を、こうして皆さんとお祝いできることを嬉しく思います」


 あたしは視線が集中したのを感じる。


「スカーレットフォードは魔の森の中にあり、常に魔物たちに襲われる危険に(さら)されています。ですが!」


 あたしは観衆の視線に負けないよう、中央広場全体をぐるりと見回す。気付けばざわめきはすっかり収まっていた。


「魔の森を分断するこの道が開通したことにより、魔物たちの脅威は大きく減ることになるでしょう。分断された魔物たちは少しずつ数を減らし、いずれは魔物を恐れなくとも済む。わたくしたちとビッターレイの皆さんが共に手を取り合うことができれば、そんな未来だって手に入れることができるかもしれません」


 一呼吸置き、再び話し始める。


「この道をわたくしたちスカーレットフォードとビッターレイの友好と希望の道とし、共に守り、共に魔物の脅威に打ち勝って参りましょう。わたくしは、皆さんとであれば、それができると強く確信しておりますわ」


 あたしはそのままニコリと微笑み、デイヴィッドさんに視線を向ける。しかしデイヴィッドさんはボーっとしたままあたしのほうを見ている。


「騎士爵令息? 祝辞は終わりましたわ」

「えっ? あ! 申し訳ありません!」


 デイヴィッドさんは慌ててあたしのところへとやってきた。あたしはデイヴィッドさんのエスコートを受け、席に戻る。


「スカーレットフォード男爵閣下、ありがとうございました。続きまして工事期間中の警備責任者を務めました、ラズロー伯爵騎士団ビッターレイ警備隊隊長ジャック・エドウズ卿より祝辞をいただきます」


 それから何人もの来賓が祝辞を述べていき、そして……。


「続きまして、テープカットとなります。スカーレットフォード男爵閣下、エドワード・ハローズ卿、グロリア・ハローズ騎士爵夫人、ジャック・エドウズ卿、スティーブン・ケインズ準男爵、どうぞテープの前にお進みください」


 そう言われ、あたしはテープの前、それも一番中央に立った。するとすぐにハサミが手渡される。


 ちなみにスティーブン・ケインズ準男爵という人は、ケインズ商会というラズロー伯爵領で一番有力な商会の会頭で、ビッターレイ側の工事費用と資材を寄付したそうだ。


「それでは、オープン!」


 あたしは掛け声に合わせ、テープをカットした。


「スカーレットフォード街道、開通でーす!」


 観衆からは拍手が沸き上がった。あたしは彼らに向かってニッコリと微笑みながら小さくお淑やかに手を振る。


 するとデイヴィッドさんが近づいてきた。


「騎士爵令息、よろしくお願いいたしますわ」

「はい!」


 あたしはデイヴィッドさんにエスコートされ、用意されたオープンタイプの馬車に乗り込んだ。隣にはエドワード卿が、後ろの席にはグロリアさんとデイヴィッドさんが座っている。


「さあ、スカーレットフォード街道を最初の馬車が通行します」


 すると歓声が沸き上がり、あたしたちを乗せた馬車はゆっくりと動き出す。それからあたしたちは北門との間を往復するパレードをしたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一日3回更新ありがとうございます。この作品かなりお気に入りです。しかもきちんと更新されてるのもポイント高いです。まだ序盤ですがテンポも良くストーリーが展開してますよね!これからも楽しみにして…
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