第45話 追放幼女、道を開通させる
長い冬が終わり、ようやく雪解けの季節がやってきた。冬の間は森も食糧不足になっていたのか、何度となくゴブリンの襲撃を受けた。だがスケルトンたちが早期発見してくれたおかげで事前に準備ができ、一切の被害を出さずに返り討ちにすることができた。
しかもそのおかげでゴブリンのスケルトンはさらに増え、もう二百体を超えるまでになっている。
また、冬は野生動物たちが息絶えてしまう季節でもあるので、野鳥のスケルトンに野鳥の死体を捜索してもらった。その結果、鳥のスケルトンもすでに百体をゆうに超えている。
そんなわけで増えたスケルトンたちをフル稼働させ、なんとビッターレイへと向かう道の開削工事が完了した。
もちろんうちの領地の分だけではなく、ラズロー伯爵領側も完了しており、安全性はさておきビッターレイまで馬車で通れるようになったのだ。
ちなみにこれはラズロー伯爵側の想定よりもかなり早い。というのも、ビッターレイ側での工事は当初、雪がなくなってからを予定していたそうだ。
だがうちからゴブリンのスケルトンを無償で貸し出し、前倒しで工事を進めてもらったのだ。
もちろん早く工事を進めたいというのが一番だが、実はもう一つの狙いがあった。それはビッターレイの職人の技術を覚えさせることだ。
覚えるといってもそれっぽく真似できるようになるだけで、ちゃんとした設計までできるようになるわけではない。ただ、それでも優秀な工夫が確保できるようになるのだからうちとしてのメリットは大きいと思う。
そう考えるとスケルトンをあちこちに送り込んで、いろんな技術を盗んできてもらったほうがいいかもしれないね。
そんな話はさておき、あたしは今、サイモンの馬車に乗って出来上がったばかりの街道を通ってビッターレイへとやってきている。
街道の開通記念式典に参加するためだ。
そのためにも、まずは式典に参加するためにオーダーしておいたドレスを受け取らなければならない。
というわけで、あたしはビッターレイの大通りにあるキャサリン・アタイアというブティックにやってきた。このブティックはハローズ家御用達で、ミュリエルのドレスも手がけているビッターレイで一番の名店なのだそうだ。
「いらっしゃいませ。スカーレットフォード男爵閣下、お待ちしておりました。わたくしは当店の店主をしておりますキャサリンと申します」
あたしがマリーに手を引かれて馬車を降りると、店主の女性が出迎えてくれた。年齢不詳な感じだけど、アップにまとめた亜麻色の髪にすっきりしているけれどオシャレな服がとてもよく似合っている。
「ええ。スカーレットフォード男爵オリヴィア・エインズレイですわ。さっそく案内してくださる?」
「もちろんですとも。さあ、どうぞこちらへ」
あたしはキャサリンに案内され、店内の個室に通された。
「こちらがオーダーいただいておりましたアフタヌーン・ドレスでございます」
部屋の中にはすでに三着のドレスがそのコーディネートと合わせて展示されていた。鮮やかな赤、シックなブラック、そして可愛らしいピンクの三種類で、どれも基本的な形は同じだがそれぞれの色に合わせて細かな作りは違っている。
あ、ちなみにブラックはもちろんお葬式用だよ。予定はないけど、立場上ないと困るからね。
「マリー、どう思う?」
「はい……」
マリーは細かい部分まであちこちチェックをしている。
「よろしいかと存じます。ミュリエルお嬢様のご紹介なだけあり、仕事がとても丁寧だと思います」
「ありがとうございます」
マリーの評価にそう答えたキャサリンの表情は自信に満ちている。
「では、頂いていきましょう。レッドはこのまま着ていきたいですわね」
「かしこまりました。寸法はご連絡いただいたとおりに作っておりますが、一度ご試着ください。合わない部分はすぐにお直しいたします」
「ええ」
あたしは赤いドレスに身を包んだ。
……うん。ピッタリだね。きついところもなく、しっかり体にフィットしている。
「いかがでしょう?」
「ええ、完璧ですわ」
「そうでしたか。ご満足いただけて何よりでございます」
「キャサリン、これからも使わせていただくわ」
「ありがとうございます。どうぞこれからもごひいきに」
「ええ」
こうしてあたしはようやくドレスを手に入れたのだった。
え? 支払い? そんなのもちろん後払いだよ。こういうお店は普通、その場でお金のやり取りなんてしないってマリーが言ってたもん。
◆◇◆
オリヴィアたちが出ていくのを見送ったキャサリンは、ぼそりと呟いた。
「あの業突く張りで非道なエインズレイ家の、しかも黒目黒髪だというのにあんなにしっかりしてらして……」
キャサリンは複雑な表情を浮かべる。
「ああ、だからあんな幼いのに追放なんてされてしまったのね。あんなボロボロの服をお召しになっていただなんてお可哀想に」
そうして憐れむような表情を浮かべたが、すぐに真顔に戻る。
「ううん。わたくしがきちんとしたドレスをお仕立てして差し上げないと。となれば……」
キャサリンはぶつぶつとそんなことを呟きながら、店の中へと消えていくのだった。
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