第39話 追放幼女、外交に向かう
2024/08/08 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
2024/08/26 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
色々と考えた結果、あたしは南西の方向に道を作ることに決めた。というのも、サイモンの話によるとクラリントンの西南西にはラズロー伯爵領のビッターレイという町があるのだという。
サウスベリー侯爵領でないのであればボルタやタークレイ商会の邪魔は入りづらいだろう。しかもクラリントンとビッターレイとの間には魔の森があり、道は通っていない。そのため両都市を行き来するにはいくつかの町を経由し、魔の森を迂回する必要がある。
さらにサイモンはラズロー伯爵領で商売をする権利のようなものを持っており、もちろんそれはビッターレイでも有効なのだという。
こんなに条件が整っているのならビッターレイを選ばない理由はないよね!
というわけで、さっそく道づくりをするためにゴブリンのスケルトンを十体集め、裏門にやってきた。
「南西に向かって道を作るんだけど、どこに道を通したらいいか調べてきて。道は正門から出ているみたいなやつだよ。で、ここからこのBi-6が案内する森の端までなるべく平らに行ける経路を調べてきて」
カラン、コロン。
スケルトンたちは音を立てながら森の中へと消えていった。
こんな適当な命令でもちゃんと仕事をしてくれるんだから、やっぱりスケルトンってすごいよね。
ええと、あとは……ラズロー伯爵に挨拶しておいたほうがいいかな?
連絡は……どうしよう? 伝書鳩はないしなぁ。じゃあ、鳥のスケルトンに伝書スケルトンしてもらう?
……さすがに無理だよね。悪戯か何かだと思われそうだし。
となると、一度サイモンを連れて、直接会いに行くしかないかな。
そんなことを考えつつ、あたしは自宅へと戻るのだった。
◆◇◆
それからひと月後、あたしはすっかり元気になったサイモンとパトリック、そしてマリーの三人を連れ、魔の森を突っ切ってビッターレイにやってきた。
もちろん今回の移動は馬車ではない。フォレストディアのスケルトンに騎乗しての移動だ。元々森の中を自在に走り回っていたフォレストディアのスケルトンだけあって多少の荒れた地形もなんのその、そのうえスケルトンたちの下調べのおかげで割と平坦なルートを通れたことも相まってなんとたったの五日で到着することができた。
あと意外だったのは、魔の森を通ったのにたった二回しかワイルドボアに襲われなかったことだ。
これって、結構な朗報だと思う。
だって、この程度しか襲われないんだとしたら、道の両側に壁と堀を作らなくてもいいってことでしょ?
もちろん、魔物がいない地域ほどじゃないけれど。
ちなみにそのワイルドボアはゴブリンのスケルトンたちに解体させたよ。骨はスケルトンにして、残る素材は出来立てのワイルドボアのスケルトンを使ってスカーレットフォードに発送しておいた。
ああ、そうそう。それと今回はフォレストディアのスケルトンに跨がったまま町に入るつもりだ。
というのも、マリーによると乗り物に乗っていないと貴族ではないと疑われる可能性があるのだそうだ。
乗り物がスケルトンというのもどうかと思う。ただクラリントンで助けた人たちの反応を見るに、普通の人はスケルトンを見てもよく分からない珍しい何かという認識になるらしい。
であれば大きなトラブルになることはなく、逆に貴族らしいと思われるんじゃないかな?
マリーが言うには、貴族は珍しいものを見せつけてマウントを取りたがるらしいし。
そう考えるとよく荷車でクラリントンに入れたよね、とは思うけれど。
と、そんなわけで、あたしたちは森を抜けた先に見える門に近づいていく。
ビッターレイも魔の森に面しているだけあってクラリントンと同じように高い壁に囲われている。
ただ、こちらの門の地上に見張りはいないようだ。門の上から声を掛けられる。
「おーい! お前たちはどこから来た!?」
「サイモン、返事して」
「はい」
サイモンは大声で返事をする。
「我々はスカーレットフォードから来ました! こちらにいらっしゃるお方がスカーレットフォード男爵オリヴィア様です!」
「はぁっ!? スカーレットフォード!?」
「そうです! 僕はサイモン・チャップマン! 元クラリントンの行商人で! 今はスカーレットフォードに拠点を移しました! 町長殿にお取次ぎ願いたい!」
「むむむ……分かった! 男爵閣下! 申し訳ございません! こちらの門は我々の権限では解放できないこととなっています! 直ちに町長にお取次ぎ致しますので! 反対側にある貴族専用門にお回りください!」
「男爵様?」
「うん。いいよ」
「かしこまりました。兵士殿! 了解しましたー!」
こうしてあたしたちはゆっくりと町の反対側へと向かうのだった。
◆◇◆
貴族専用門に到着すると、そこにはすでに屈強な兵士たちがずらりと並んであたしたちを待っていた。
その中から少し飾りの派手な身なりの中年男性が歩み出て、敬礼してきた。きっと兵士たちのリーダーなのだろう。
「スカーレットフォード男爵閣下! ようこそビッターレイへ!」
「ええ、出迎えご苦労様」
「はっ! ええと……代官のお方は……」
「おりませんわ。父はわたくしに爵位を継がせ、自分で治めるようにと仰いましたの」
「なんと……では、証明書などはお持ちでしょうか?」
「もちろんですわ。こちらをご覧になって」
爵位の証明書を見せると、リーダーらしき男性はすぐに敬礼をしてきた。
「ありがとうございます! 馬車をご用意しておりますので、どうぞこちらへ」
「ええ」
こうしてあたしたちはビッターレイの町に入ったのだった。
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