第38話 追放幼女、地図を作る
2024/08/28 ご指摘いただいた表記の不備を修正しました。ありがとうございました
2024/09/04 ご指摘いただいた表記の不備を修正しました。ありがとうございました
さすがに疲れたのでその日はそのままお休みにし、翌日からあたしは地図作りに取り掛かることにした。
あ、地図作りといっても、あたしが測量するわけじゃないよ。
まずは、地図作りに必要なスケルトンをゲットしようと思うんだ。
昨日のうちに指示だけ出しておいたので、ゴブリンのスケルトンたちが集めてくれていると思うんだけど……。
ウィルを連れ、あたしは裏門から外に出た。するとそこには十体のゴブリンのスケルトンたちがあたしたちを待っていた。
「姫さん、どうするんすか? 地図を作るって言ってやしたけど……」
「うん。そうだよ」
「……もしかしてこいつら、地図も作れるんすか!?」
「どうだろ? やらせたらできるかもしれないけど、今回この子たちにお願いしたのは骨集めだよ」
「骨集め?」
「うん。ほら、あそこにまとめてくれてるでしょ?」
「……鳥の死体?」
「うん。実は前に一羽分作ったことがあるんだ」
「はぁ」
「まあ、見てもらったほうが早いかな」
あたしは野鳥の死骸の魂が残っていないことを確認し、すぐさま野鳥たちの骨からスケルトンを作った。大小さまざまな黒い骨の鳥がこちらを見ている。
「じゃあ、君はBi-2、君はBi-3、君は――」
あたしは順番にBi-13まで名前を付ける。本当はバードのBにしたいところだけれど、それだとワイルドボアのBと被っちゃうからね。
「じゃあ、まずはBi-2。君はあっちの方向に真っすぐ飛んで、森が途切れたり、馬車が通れる道にぶつかったら真っすぐ戻ってきて。Bi-3はあっちの方向で――」
あたしは十二羽の野鳥のスケルトンをそれぞれ別の方向に飛ぶように命じた。するとスケルトンたちはぱたぱたと羽ばたき、あたしの指示したほうへと飛んでいく。
あ、そうそう。羽根がないのに飛べるなんて物理的におかしい、なんていう野暮なツッコミはなしでお願いね。
あたしだっておかしいと思っているけど、そんなことを言ったら骨が動く時点でおかしいもん。
「じゃあ、終わり。あとはあたしは家であの子たちが帰ってくるのを待ってるよ」
「へ、へい」
「あ! そうだ!」
「へい! なんすか?」
「あ、ごめんごめん。ウィルじゃなくってスケルトンたちに命令しようと思って」
「へい……」
「お前たちは、何かの死体を探してきて。鳥でもいいし、魔物でもいいよ」
カタカタカタ。
G-59たちが返事をしたのかどうかは分からないが、骨が触れ合う音を出しながら森の中へと消えていく。
「じゃあ、ウィル。帰ろっか」
「へい」
あたしたちは村の中へと戻る。
「そういえば、移民のみんなはどう? 馴染めそう?」
「へい。特に男たちがすげぇテンション上がってるっす」
「え? ああ、そっか。みんなすごい美人さんばっかりだもんね」
「へい。どうやってあんな美人ばっかりスカウトしてきたんすか?」
「ほら、昨日言ったでしょ。ボルタが誘拐をしてまで奴隷売買やってたって。それで、ボルタは美人ばっかり狙ってたみたいなんだよね」
「あ! そういうことっすか」
「うん。前にも言ったけど家族を殺されてる人もいるからさ。あんまりこの話は広げないであげてね。触れられたくないだろうし」
「へい」
あたしたちはそんな会話をしつつ、自宅へと向かうのだった。
◆◇◆
しばらくすると、Bi-2が戻ってきた。この子はクラリントン方面に向かわせた子なので、やはり戻ってくるのが一番早かった。
「じゃあ、距離を教えてくれる? 森の端までの距離は村の正門から裏門までの何倍か。十倍より長いなら頭を一回下げて」
カラン。
Bi-2は頭を下げる。
うん。このぐらいは認識しているみたい。
ちなみに村の二つの門の間の距離は多分一キロもないと思う。人口の割に広いと思うかもしれないけれど、それは村の中に畑が広がっているからだ。
「じゃあ、百倍より長いなら頭を下げて」
カラン。
まあそうだよね。牛に荷車を牽かせてクラリントンまで五日掛かったのだから、そんなに近いわけがない。
「じゃあ千倍よりも長いなら頭を下げて」
今度は頭を下げなかった。うん。このくらいだとは思った。
仮に村の門と門の間の距離が五百メートルだとして、千倍だったら五百キロあることになる。
人が歩く速さは大人でも時速四~五キロだと聞くし、五百キロもないことは想像に難くない。
「じゃあ……」
こうしてあたしは森の端までの距離を聞き、紙にメモしていくのだった。
◆◇◆
それから二週間後、あたしは南西から東に掛けての地図を完成させた。
あ、地図って言っても測量して、等高線とかが描き込まれた地図じゃないよ。上空から見て分かるレベルの川や湖、それから崖なんかの分かりやすい地形だけが記入されている簡単なもの。
それで分かったこと、というか再確認できたことは、やはりスカーレットフォードは魔の森の中で孤立しているということだ。
療養中のサイモン――アンナさんの旦那さんだ――にも話を聞きつつ、町や村も地図に記入したのだが、残念ながらどの町もクラリントンの倍以上の距離がある。
サイモンによると、どうやらクラリントンも元々は魔の森を開拓して作られた町らしい。
要するに、元々魔の森に突き出ていたクラリントンからさらに魔の森の奥に突き出るように築かれたのがここスカーレットフォードなのだ。
そんな状況なので、クラリントン以外と直接取引するのはかなり大変そうだ。
もちろん一番簡単なのはボルタに頭を下げることだけれど、これだけは絶対にあり得ない。
クラリントンに立ち寄らず、脇を通り過ぎて別の町や村に行くという選択肢もあるといえばある。でも、人身売買までやるような連中が黙って見過ごすとは思えない。
かといってこのまま外部との交易がないままだと、いずれは立ち行かなくなってしまう。
うーん。となるとやはり、魔の森に新しい道を通すしかないんだけど……。
次回、「第39話 追放幼女、外交に向かう」の公開は通常どおり、明日 2024/08/06 (火) 12:00 を予定しております。