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第37話 追放幼女、次の目標を定める

2024/08/26 爵位と家系に関する一部表現を修正しました

2024/09/27 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました

2025/05/23 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました

 三日後、あたしたちはスカーレットフォードへと到着した。


 ちなみにゴブリンのスケルトンたちは森に入ったところで彼女たちに紹介した。しかしあたしの予想とは裏腹に、少し驚かれはしただけでそれ以上の反応はなかった。


 理由はいくつかあるけれど、どうやらスケルトンはゾンビや悪霊と違って光神教で不浄とされていないからというのが一番大きいようだ。


 あとは真っ黒なのであまり骨って感じがしないのと、もう元の姿が想像できないという点も忌避の対象にならない理由のようだ。


 余談はさておき、あたしたちは中央広場にやってきた。するとすぐにウィルたちが近寄ってくる。


「姫さん!」

「あ! ウィル。ただいま。あたしたちが留守の間、どうだった? 何かあった?」

「いえ、特にはなかったっすけど……その、そこのすんげぇ美人は?」


 ウィルはちょっと興奮気味に御者台に座るアンナを見ている。


「あの人はアンナ。ちょっとクラリントンで色々あってね。ついでに馬車を借りたんだ」


 しかしウィルの視線はアンナに向けられたままだ。


「あ! ウィル、アンナは人妻だからね」

「はぁ……人妻っすか……」


 ウィルは見るからに落胆している様子だ。


「ま、そういうわけだから諦めて」

「へい……」


 ウィルはそう返事をすると、すぐに頭を切り替えたようだ。


「それで、農具の買い出しはどうだったっすか?」

「うーん、それがさ」


 あたしはボルタたちのせいで出禁になっているらしいことを説明した。


「ええっ!? あの野郎! 水車に火をつけやがったくせに!」

「でもまあ、新しい住人も増えたし、鍛冶職人も連れてきたから」

「えっ!? どういうことっすか!?」

「うん。実はね」


 あたしはボルタが奴隷売買にまで手を染めていたことを説明した。


「ええっ!? 奴隷売買!? しかも旦那を殺してまで!? うわぁ……」


 元盗賊のウィルがそういう反応をするのは少し不思議だけれど、きっとウィルたちは根っからの悪人というわけではなくて、食うに困って盗賊をやらざるを得なかったってことなんだと思う。


 その証拠に、ここに来てからはずっと悪さをしてないしね。


「まあ、そんなわけだからさ。誘拐されて売られそうになった家族を連れてきちゃった」

「え? 何人いるんすか?」

「全部で十八人くらいかな?」

「そんなにっすか!?」

「うん。そこそこ豊作だったんでしょ? それに働き手はスケルトンたちがいるし」

「そりゃあそうっすけど……」

「足りなかったら狩りに出る回数を増やそうよ」

「えっ? まあ、肉が食えるのはいいっすけど……」

「大丈夫だって。ちゃんと考えてるから」

「はぁ……」

「じゃあ、とりあえず移民たちを住民登録してくるよ。ウィルは自警団の人に言って、終わったら彼女たちを案内させて」

「へい」


 こうしてあたしたちは久しぶりのわが家へと戻るのだった。


◆◇◆


「お嬢様、こちらで最後です」

「うん」


 あたしは差し出された住民登録申請書にサインをした。


「はい。じゃあこれでみんなはうちの住民だよ。村のみんなと仲良く、協力して暮らしてね」

「「「「ありがとうございます」」」」


 美人さんたちが一斉にあたしにお礼を言ってくる。


「うん。じゃあ家だけど、空き家がいくつかあるはずだからとりあえずそこに暮らしてもらうよ。狭いだろうけど、四人で一軒くらいの感じで自由に選んでいいよ。冬までにはそれぞれの家を建てるつもりだから」

「えっ!? 家を建てていただけるんですか!?」

「うん。そりゃあもちろん」

「ありがとうございます!」

「で、ウォルターの鍛冶場だけど……」

「はい」

「実はね。うちの村には設備がないんだ。だから一から建てるんだけど、どういう風になっていたらいいか、自分で決めてくれる?」

「えっ!? よろしいんですか!?」

「うん。うちの男たちはほとんど大工仕事ができるからさ。説明すればちゃんと作ってくれると思うよ。話が通じなかったり、特殊なものが必要ならあたしのところに相談に来てね」

「ありがとうございます! 男爵様!」

「それとアンナだけど……」

「はい」

「とりあえず、旦那さんの怪我を治すのが先だね。元気になったら、うちの商人として色々と手伝ってもらおうかな。もちろんあの馬車は返すから、それを使ってね」

「っ! ありがとうございます!」

「じゃあ、自警団の男たちが待ってるだろうからさ。案内してもらって」

「はい」


 こうして移民たちの諸々の手続きを終えた。


「ふぅ」

「お嬢様、お疲れ様でした」

「うん。だけど、まだまだこれからだよね」

「……そうですね」

「とりあえずは、クラリントンとの道を塞がないとね。あいつらに逆恨みされてそうだし」

「お言葉ですが、平民が貴族に正面から逆らうでしょうか? 貴族はいなかったのですよね?」

「それはそうだけど……」

「お嬢様はあの者たちをお救いになる際に魔法をお見せになられたのですよね?」

「うん」

「であればなおのこと、攻めてくるようなことはしないのではないでしょうか?」

「どうかなぁ。騎士が来たりしない? お抱え商会の裏商売を邪魔したんだし」

「……かしこまりました。では、橋を落とすということでしょうか?」


 橋というのはスカーレットフォード男爵領とサウスベリー侯爵領の領境を流れる小川に架かっている小さな木製の橋のことだ。


「うん。とりあえず橋を落として、進入禁止の看板でも立てておこうかなって」

「かしこまりました。ですが、交易はどうなさるおつもりで? 橋まで落とすとなるとクラリントンはおろか、他の町との交易も……」

「うん。無理だね。だから、やっぱり魔の森を突っ切る別の交易路を作るしかないんじゃない?」

「ですが魔の森は……」

「あのさ」

「はい」

「多分だけど、あたしたちもうクラリントンどころか、サウスベリー侯爵領の他の町でも取引できないと思うんだよね」

「それは一体……!?」

「だってさ。ボルタって、あの商会のトップどころかクラリントンのトップですらないわけでしょ?」

「はい。そのようですね」

「その程度の奴なのに、国王陛下が禁止している奴隷売買を堂々とできちゃうって変じゃない? もしバレたら処刑されるのに」

「……」

「ってことはさ。サウスベリー侯爵が裏でしっかりサポートしてるってことでしょ?」

「はい……」

「ということはさ。他の町にもあたしたちの悪評は広められてるんじゃないかな。それと多分だけど、彼女たちを逃がしたのもあたしたちだってバレてるよね? もしそうだとしたらどうなると思う?」

「それは……お嬢様のおっしゃるとおりですね」

「でしょ? だからさ。サウスベリー侯爵領を通らない別の道を開拓しないといけないわけ」

「……そうかもしれません。ですが、どうやって? 魔の森を抜ける道など……」

「うーん、そこだよねぇ。でもさ。ここって魔の森の中に突き出てる格好でしょ? ならさ。南西か北東に行けば別の領地に着けるんじゃないかな?」

「それはそうですが、一体どのくらいの距離があるのやら……」

「うーん、地図とかってないんだっけ?」

「地図は機密情報ですので、そう簡単には手に入りません」

「そっかぁ。じゃあ、まずは地図作りからかぁ。うん。どうせ必要だし、冬になる前にやっちゃおうか。地図作り」


 こうしてあたしは次の目標を地図作りに決めたのだった。

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[気になる点] マリーは貴族を神聖視しすぎているな、貴族が恐れ崇められるのは実行力のある権力を持っているからであって爵位持ちなだけでなんの権力も持たないハリボテ貴族の主人公じゃ平民にだって舐められるよ…
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