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第35話 追放幼女、クラリントンを脱出する

2024/08/26 ご指摘いただいた誤字、爵位と家系に関する一部表現を修正しました。ありがとうございました

 あたしたちは闇夜に紛れ、アンナさんの家へとやってきた。家に入ってすぐの室内には争ったような形跡と大きな血だまりの跡があり、さらにそこから点々と血痕が奥へと続いている。


 あれ? 点々と血痕!?


「アンナさん! これ!」

「はい?」

辿(たど)ってみようよ! もしかしたら!」


 あたしは急いで駆け出す。半開きの扉を抜け、その先にはなんと一人の男の人がうつ伏せに倒れていた。


 その人に駆け寄り、首に手を当てる。


「生きてる!」

「え?」

「アンナさん! 生きてるよ! まだ息がある!」

「あ、あなた? あなた!」


 アンナさんは動転した様子で男の人に駆け寄った。そして起こそうとしたのか、ゆすろうとしたので慌ててそれを制止する。


「アンナさん! ダメ! ゆすっちゃ!」

「えっ?」

「パトリック、ゆっくりこの人を仰向けにしてあげて。もしかしたらお腹に剣とか刺さってるかもだけど、絶対に抜かないで!」

「え?」

「いいから! 傷口が開いたら終わりだから!」

「は、はい」


 パトリックがゆっくりと男の人の体を持ち上げ、仰向けにする。


 やっぱり!


 男の人のお腹に短剣が突き刺さっている。ざっくりと根元まで突き刺さっているので傷は相当深そうだが、まだ生きているということは多分傷ついちゃいけない内臓とかが奇跡的に無事だったんだと思う。


「アンナさん、この時間に診てもらえるお医者さんは?」

「え? この町に私たち庶民を診てくれる医者なんていません。朝になって教会に行って、お祈りをしてもらうくらいしか……」

「そっか。じゃあ、もう一か八かだね。アンナさんって縫物はできる?」

「あまり得意では……」

「分かった。あと、清潔な布とかはある?」

「はい」

「なるべくたくさん持ってきて。あと針と糸も」

「はい」


 アンナさんは奥に走って行き、すぐに大量の白い布と、針と糸を持ってきた。


「じゃあ、この短剣を抜いたら多分血がたくさん出るはず。だから傷口を縫い合わせるよ。それからその布でぐるぐる巻きにして。いい? しっかり巻きつけて、傷口が開かないようにするんだよ?」

「わかりました」

「パトリックも手伝って! ホントに強く、思いっきり、全力でやるんだよ?」

「はい!」

「じゃあ、やるよ」


 あたしは針の穴に糸を通し、縫合の準備をする。もちろんあたしにそんな知識も技術もないけど、傷口は縫い合わせるんだよって、前世で入院していたときにナースのお姉さんに教えてもらったことがある。


 素人が適当にやるんでも、何もしないよりはマシだよね?


「いくよ」


 あたしは短剣を引き抜き、傷口周辺の雑菌に闇の神聖魔法で死を与えた。


 傷口からはドクドクと血が流れ出てくるので、あたしは適当に針を突き刺して、傷口を縫合する。もちろんこんなことをするのは初めてだけど、刺繍は貴族女性のたしなみだから針の扱いは得意だ。


 麻酔もなしだからすごく痛そうだけど……気絶しているのが幸い、かな?


「できた! 布を巻いて! しっかり強く」

「はい!」


 パトリックとアンナさんがきつめに布を巻きつけていき、最後にパトリックが布をぎゅっと堅結びする。


 血は滲んでいるけど……大丈夫、かな? 大丈夫だといいけれど……。


「できることはやったよ。あとは安静にして……るわけにはいかないね。なるべく静かに運ぼう。馬車は?」

「はい。こっちです」


 アンナさんに案内され、家の裏手に行くとそこには馬車が止まっていた。きちんと馬も馬小屋に繋がれている。


「やった。残ってたね。パトリック、あの人を馬車の荷台に寝かせてあげて」

「はい」

「傷口が開かないように優しくね」

「はい!」

「私も手伝います」


 こうしてあたしたちはアンナさんの旦那さんを馬車の荷台に乗せると、すぐに出発するのだった。

 

◆◇◆


 それから救助した他の女性たちの家を回ってはみたものの、残念ながらすべて手遅れだった。


 そうこうしているうちに東の空が徐々に白んできたので、あたしたちは正門にやってきた。


 あたしたちは貴族専用の門に向かうが、やはり強い調子で呼び止められる。


「おい! ここは貴族の方専用だ! 平民は――」

「あら? あなたは前にもわたくしを平民呼ばわりしたわね。どういうつもりですの?」


 どう見ても行商人が使う幌馬車と牛の()く荷車という組み合わせだから仕方ないけどね。


「え? あっ! ええと……男爵様」

「ええ。スカーレットフォード男爵オリヴィアですわ。この馬車と後ろの荷車はわたくしのものですの」

「は、はい。あの、荷物が大分増えているようですが、もしよろしければ持ちだし禁止の品物がないか検査させていただけませんでしょうか?」

「あら? 貴族の、ましてや男爵であるこのわたくしの馬車を、平民のお前ごときがあらためたいと?」

「ですが……」

「……困りましたわ。秩序を乱す不敬な平民がいるとなると、やはりお父さまに処罰をお願いしなければなりませんわね」

「え?」

「ああ、わたくしのお父さまはサウスベリー侯爵アドルフと申しますわ」

「ええっ!? も、申し訳ございませんでした!」

「じゃあ、通してくださる?」

「もちろんでございます!」


 こうしてあたしたちはあっさりと門を突破することに成功したのだった。


 ま、あのおじさんがあたしのお願いを聞くことなんてありえないだろうけど、嘘は言ってないしね。

 次回、「第36話 追放幼女、スカーレットフォードへと向かう」の公開は通常どおり、明日 2024/08/05 (月) 12:00 を予定しております。

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