第34話 追放幼女、囚われた人たちを解放する
2024/08/26 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
あたしたちはまず、ウォルターの奥さんと娘さんが閉じ込められているという部屋の鍵を開けた。
「クレア! ルーシー!」
扉を開けるなり、ウォルターは大急ぎで部屋の中へと駆け込んだ。
「え? あなた?」
「クレア!」
どうやら無事みたい。うん、良かったね。
「ああ! クレア! クレア! 無事なんだな?」
「ええ。でも、どうしてここに?」
「それはスカーレットフォード男爵様が助けてくださったんだ! しかも移民として受け入れてくださると!」
「えっ? そんなことが……?」
「それよりルーシーは?」
「ルーシーはそこで寝ているわ。ずっと泣いてたけれど、今は泣きつかれて……」
「ルーシー! うっ!」
ウォルターのうめき声が部屋の中から聞こえてくる。
まだ治ってないのに無理するから……。
あたしたちが部屋の中に入ると、そこはベッドとテーブルが置かれただけの小さな部屋だった。そこでウォルターはスラッとしたモデル体型の女の人と抱き合っていた。
暗くてはっきりは分からないけど、雰囲気からして多分ものすごい美人なんだと思う。
「ウォルター、まだ怪我が治ってないんだから無理しちゃダメだよ」
「男爵様……はい。すみません」
「えっ? 男爵様って、この子が?」
「クレア! このお方は男爵様なんだぞ!?」
「あっ! す、すみません」
「んー、とりあえずそう言うのはいいから。クレアさん、だっけ? ルーシーちゃんを連れて逃げるよ。ウォルターにはうちに来てもらう約束になってるけど、クレアさんも来るよね? ここにいたらまた同じように誘拐されるだろうし」
「よろしいのですか? ありがとうございます」
「うん。じゃあ、他の部屋も開けて回るよ」
「えっ?」
ウォルターが聞き返してきた。
「え? だって、人身売買なんて即処刑の重罪だよ? そんな現場を見たのにさ。クレアさんとルーシーちゃんだけを助けて、後の人は見捨てるなんてできるわけないじゃん」
それに、村の人口が増えるのは悪いことじゃないよね。収穫もまずまずだったんだし、たぶん食べさせてあげられると思うんだ。
「……そうですね」
ウォルターは早く逃げたいんだろうね。気持ちは分かるけど、放っておけないもん。
「さすが姫様です!」
「うん。じゃあ、行こうか」
あたしたちは隣の部屋の扉を開ける。するとそこには二人の女性が捕らえられていた。暗いので確信はないけれど、やっぱりこの人たちもかなりの美人な気がする。
「え? 何……?」
「女の子?」
「こんばんは。助けに来ましたわ」
「えっ? えっ?」
「大声は出さないでくださいね。それと、わたくしたちは自警団ではありませんので、逃げるかどうかは任せますわ」
二人はポカンとした表情をしている。
「あと、わたくしの領地に逃げたいという場合は受け入れますが、多分もうここには戻れません」
「は、はぁ」
「では、わたくしたちが戻ってくるまでに考えておいてください。一緒に来る場合は連れて行きますから」
こうしてあたしたちは次々と部屋を開けて回り、クレアさんたちの他に合計で二十一人の大人の女性と赤ちゃんを一人、そして五人の子供を解放した。
ちなみに保護した女性は揃いも揃って暗い中でもわかるレベルの美人ばかりだ。ということはつまり、そういう女性を選んで誘拐していたのだと思う。あと子供が残されていたのは、お母さんが美人だから将来有望だと思われているとかかな?
それとも、人質の意味合いもあるのかな?
と、こうしてあたしたちは解放した人たちを連れ、堂々と建物を出るのだった。
◆◇◆
宿に戻ってきたあたしたちを見て、マリーの目がまん丸になった。
「お嬢様!? この人たちは一体!?」
「あはは。行ったらさ。なんだからウォルターの奥さんと娘さんだけじゃなくてたくさん捕まってたんだ。うちへの移住を希望する人たちだから、受け入れようかなって」
クレアたち以外に助けた人たちのうち、十三人の女性が一緒に行きたいと申し出てきた。他には赤ちゃんが一人と男の子が二人、そして女の子が一人だ。
「……お嬢様」
「うん」
「どうやって脱出させるおつもりですか?」
「えっと……荷物ってことにして、貴族特権を使えばそのまま脱出できるかなって。ほら、貴族の荷物は検査できないでしょ?」
「……まさか、荷車にお乗せになるおつもりですか?」
「うん。だめ?」
「……さすがに人だとバレると思います。人の出入りはいくら貴族特権を行使したとしても……」
「え? うーん。そっかぁ。じゃあどうしようか?」
「……お嬢様?」
う……。この顔、絶対怒ってる。
「じゃ、じゃあどこかに隠れてもらって、何回かに分けて脱出するとか?」
「いくらなんでも怪しすぎます」
「ええと、じゃあ……」
「あ、あの……」
あたしたちの話に、助けた女性の一人が割り込んできた。彼女は……たしかアンナさんだったかな?
ちょっとキツめの顔をした美人のお姉さんだ。すらっとしていて背が高くて、まるでモデルみたいに手足が長いのに胸まで大きいという女性としては理想の体型をしているのでちょっと羨ましい。
あっと、今はそれどころじゃない!
「何?」
「もしよかったらなんですけど、一度家に行ってもいいですか? 実は主人が行商人をしていたんです。誘拐されたのは今日なので、もしかしたらまだボルタたちに馬車を奪われていないかもしれません」
「ホント? あ! でも、だったらご主人のところに帰らないと……」
「その……主人は私を捕まえに来た連中に刺されてしまいまして……」
「……そっか。ゴメン」
「いえ。ただ、遺体だけでも……」
「……そうだね。そのまま放置したらゾンビになっちゃうかもしれないしね。分かったよ。あ! でも御者がいないね」
「私ができます。よく主人の手伝いをしていましたので……」
「分かった。じゃあ、スカーレットフォードに着いたら返すから、その馬車を一旦あたしに譲ったことにしてくれる? そうすれば門で中身を見られないはずだから。マリー、そうだよね?」
「はい、そうですね」
「そういうことでしたらぜひ」
「うん。決まりだね。マリーは出発の準備をお願い。ボルタが何をしてくるか分からないし」
「かしこまりました」
こうしてあたしたちはその人の家へと向かうのだった。
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