第33話 追放幼女、人助けをする
2024/08/26 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
地下に降りると、なんとそこには一本だけであるがロウソクの灯りがあり、二人の剣を持ったチンピラ風の男たちがまるで見張りをしているかのように立っていた。
「ん? なんだ? お前ら!」
「あっ! あいつは! 妻と娘を誘拐した!」
「あっ! お前! 鍛冶屋のウォルターじゃねぇか! 女とガキを取り返しに来やがったな!」
男たちが剣を抜いたので、あたしはすぐに二人の魂を縛った。
「なっ!?」
「ど、どうなってやがる! 体が……」
「おい! 二人をどこにやった!」
「ぐっ……」
「言え!」
傷もまだ痛むだろうに、ウォルターはものすごい剣幕で男に迫る。
「ウォルター、落ち着いて。大声を出したら他の奴らに気付かれるよ」
「あっ! ……すみません」
「うん。それで、おじさんたち。この人の奥さんと娘さんをどこにやったの? 素直に答えてくれるなら何もしないよ」
「はっ! このガキが! 俺らブラック・モーリスを舐めてるのか!?」
「ううん。平和的に交渉したいだけなんだけど、教えてくれないってこと?」
「けっ!」
やっぱりダメか。それなら仕方ないね。これをやるのは初めてだけど、魔力を持っていなさそうだからきっとできるはず。
「あんまりこういうことはしたくないんだけど、じゃあ、一回死んできて」
「はぁ? 何言ってんだ? このガキ? 頭――」
あたしはウォルターが実行犯だと名指しした男に魔法をかけた。するとそのままがっくりとうなだれる。
ふう、成功したみたい。
これは悪役令嬢オリヴィアがやっていた得意技で、自分よりも魔力の低い相手の魂に干渉して夢を見させる魔法だ。今回は、自分が想像する一番苦しい死に方を夢で見させている。
あとはちゃんと目を覚ましてくれるといいんだけど……。
「なっ!? おい! どうした!」
「う、あ、う、うぅぅぅ。がっ!? かはっ!? はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
男はすぐに目を見開き、顔を上げた。その顔は青ざめており、汗をダラダラと流しながら肩で息をしている。
「……え? 生きてる?」
「どう? おじさん? 教えてくれる気になった?」
「えっ? あ……まさかお前が……」
「だから、どう? 教えてくれる? 教えてくれないならもう一回死んでもらおうかな」
「……」
男は迷っている様子だが、まだ口は開かない。
「じゃあ、もう一回だね」
あたしは再び魔法をかける。すると男はまたうなだれ、そして同じように目を見開いた。
「う、ううううう……」
「ねえ? どう? 教えてくれる?」
「お、教える! 教えるから許してくれ!」
「うん」
「女とガキは奥の部屋だ! 右側の三番目! 鍵は三階の一番奥の部屋にいるチャドって大男が持ってる! つるっぱげだからすぐに分かるはずだ」
「おい! なんでべらべらと!」
「邪魔だよ」
あたしは止めようとする男の魂に干渉し、意識を奪った。
「それで、ここはどういう施設なの?」
「ここには売る予定の女たちを集めてるんだ」
「どのくらいの人がいるの?」
「わ、分からねぇ」
「ふうん? じゃあもう一回――」
「ひっ!? それだけは!」
「どのくらいの人がいるの?」
「だ、大体二十から三十人くらいだ。ただ、いつも数週間で買い手が見つかるし、買い手が付かなかったのはどっかに送ってるから、俺も知らねぇんだ。な? 本当のことを話したから! だからあれだけは勘弁してくれ!」
「そう。じゃあ、上の階にはどのくらい仲間がいるの? 建物の住人が全員仲間とか?」
「そ、そんなことはねぇ。三階の奥の四部屋と、一階の入口からの二番目の部屋だけ、俺らのメンバーが住んでる」
「本当に?」
「本当だ! 全員仲間なら入口の扉は中から鍵を掛けてる」
「それもそうか。じゃあ、仲間は何人いるの? 部屋ごとに」
「一階には二人、三階はそれぞれ個室だから一人ずつだ」
「そっか。じゃあ、三階のチャドの部屋まで案内して、扉を開けさせて」
「えっ……」
「そう。なら――」
「あ! や、やります! やりますからどうか!」
こうしてあたしは男を脅し、チャドの部屋へと案内させるのだった。
◆◇◆
「チャドさん」
「ん? ピーターか。どうした?」
「へい。ちょっと報告がありまして、ここじゃ話せねぇんで開けてもらえませんか?」
「おう」
ガチャンと重たい音がして、それからゆっくりと重たい木の扉が開く。そして中からは見上げるほどの巨漢が姿を現した。
ムキムキの筋肉と顔に残る傷痕、そして鋭い目つき。さらに服装も相まってどう見ても悪人だ。
あ、でも人身売買をしているんだから、悪人で合ってるね。
あたしはサクッとチャドを眠らせた。
「で、鍵はどこ?」
「こ、こっちです」
あたしたちはそのまま部屋の中に乗り込む。どうやら一人で晩酌をしていたようで、ランプの明かりに照らされた室内のテーブルには飲みかけのワイングラスとチーズが置かれている。
ロウソクにランプまであるなんて……。
誘拐して人を売ってこんな贅沢をするなんて許せない!
けれど、今はそれよりもウォルターの家族を助けるのが先だよね。
ムカつく気持ちを抑えつつ奥の部屋へと向かい、ピーターが引き出しを開ける。するとその中から鍵束が出てきた。
「これです」
「うん。わかった。じゃあ、地下に戻るよ」
こうしてあたしたちはチャドの部屋を出て、再び地下に戻ってきた。
「誘拐した人たちが入ってる部屋はどこ? あそこの部屋は違うよね?」
あたしはスケルトンの気配がする扉を指さす。
「え? あ、はい。あそこにはおかしなことを言ったうちの構成員がいますけど……あ! もしかしてあいつら、あんたに――」
「そんなことより、どうなの?」
「へ、へい! あそこの部屋以外は全部商品の女たちです」
「分かったよ。じゃあ、もう眠っていいよ」
あたしはピーターも眠らせると、鍵の束を持って女性たちが閉じ込められているという部屋へと向かうのだった。
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